成都 被災地を支える四川省成都の矜持

 

「あなたがいるから、成都はもっと素敵になる」

日本の女優・寺島しのぶさんによく似た雰囲気の女性とこんなコピーが印象的な看板が、成都の街のいたるところで目につく。映画評などエッセイが人気の成都在住の女性作家・潔塵さんだ。これは彼女の他にも、ニュースキャスター、歌手ら成都の著名人4人が登場する成都市政府による公益広告である。

多くの人々が被災し、未曾有の被害に襲われた四川省の省都として、この街が背負っているものはあまりに大きい。

5月12日に起こった大地震は、中国では震源地の名前を冠して「汶川大地震」「四川汶川大地震」と命名されたが、日本では「四川大地震」と呼ばれるため、成都を含む四川省全体が被災地という印象を抱かれがちだ。

三聖花郷の自然に囲まれたモダンな空間・許燎源現代設計芸術博物館
北京や上海に見劣りしないキラキラした高層ビルやマンションが建ち並び、勢いの感じられる成都だが、夜になると様変わりする。すっかり明かりの消えたビル群、昼間の賑やかさが半減したまばらなネオンから、本来ならハイシーズンであるはずのこの時期に、ホテルの稼働率わずか30%という異常な事態がはっきりと目に見える。成都に限っていえば、地震の揺れこそ伝わったものの、市の中心部に顕著な被害の爪痕はなく、穏やかな日常生活が営まれているにもかかわらず。

成都には世界上位500社の企業ランキングにランクインしている128社を含む、多くの外資系企業の支社、工場などの拠点がある。これまで、成都の投資環境は中国西部地区の中でも先頭を走ってきたといっていい。しかし、地震発生後、一時通信が遮断されたことで、成都の街が深刻な被害情況にあるという誤解が外界に走った。外資系企業の不安を解消し、一刻も早い生産回復をはかるため、成都市投資促進委員会のスタッフは、翌13日には1000社を超す外資系企業と連絡を取り、14日には「外商投資企業情況報告会」を開いた。その結果、97%の外資系企業が1カ月以内に生産を再開。しかし、不動産、旅行、投資関連業界は大打撃を受けた。成都市投資促進委員会の周密副主任は語る。

人々は屋外でマージャンを楽しむ
「何よりもダメージを受けたのは〈情報〉でした。成都の被害が甚大であるかのようなメディアの情報のみで判断されてしまえば、成都に投資を考えていたはずの企業も他の候補地に乗り換えてしまうでしょう。けれど、直接のコンタクトをとり続けることができた企業には大きな影響はありませんでした。成都にはほとんど地震の被害はないという現状、周辺の被災地の再建に際しての需要というビジネスチャンスもはらんでいることを知ってもらうことに力を注がなくてはなりません。成都の人々にとっても、自信を回復するということが、今は何よりも大切なことなのです」

『成都のイメージをオープンにする』ための活動を大々的に始動。国連工業開発機関が地震後に分析した成都市の投資促進活動状況、調査研究報告では、冶金、建築資材、ITなどの産業が地震後に大きなビジネスチャンスがもたらされることなども指摘されている。

実際、被害の大きかった都江堰に工場のあるフランスの大手セメント会社ラファージュ社は、生産再開よりも早く、震災後のセメント生産の需要を見越して、現地法人であるラファージュ瑞安セメント社に4540万ドル(約3億1780万元)を追加投資。また、成都に3社の合弁会社を持つ神戸製鋼グループのコベルコ建機株式会社は、震災直後に油圧ショベル、パワーローダーなど掘削機を寄贈、その操作に熟練した技術スタッフも派遣した。その迅速な支援は、現地の政府、人々に高く評価され、喜ばれている。周副主任は断言する。「成都にはまだまだ企業にとって大きなチャンスがあります。こうした支援活動が、結果として大きなプロジェクトにつながることは間違いありません」

諸葛亮を祀った武侯祠
成都市計画管理局の王松濤総計画師は、地震発生後2カ月あまり、1日も休みなく被災現場を奔走し、成都市に属する都江堰、彭州などの被災地の再建に尽力している。今回の地震で著しく損なわれた成都のイメージを回復しようと、被災地を含む新たな都市建設にさまざまな対策、政策を打ち出してきた。6月下旬には相次いで、専門家、旅行業界や不動産業界の関係者、一般の人々の座談会をそれぞれ実施。これらの座談会における人々の発言が、地震発生直後から2カ月あまりかけて当局が進めてきた再建計画の構想に、大きな転換をもたらしたという。

「当初、都江堰の計画の構想は世界レベルの観光都市として、観光資源とは無関係の大企業や学校などを都江堰の外に移転するというものでした。しかし座談会を重ねて開くうち、さまざまな声を耳にし、観光都市にするのはひとつの目標ではありますが、20万人の被災者ができるだけ早く落ち着けるようにすることもまた大切な目標であり、この2つを同時に実現するのが望ましいということに気がつきました。仮に同時に実現できないのなら、優先して考えなくてはならないのは被災者のことです。被災者が生活に保障を得られなければ、都江堰をいかに美しくしようと何の意味もないのです」

注目のスポット「寛巷子」
成都が目指すのは、観光客にも地元の人にも居心地の良い、「人に優しい」街作りだ。

成都の人に「成都の街の特徴をひとことで」と尋ねると、かなりの確率で「休閑(のんびり)」という答えが返ってくる。公園でも茶館でも、マージャンやトランプを囲む人々の姿が、中国の他の都市よりも目に付くのは確かだ。

かつて蜀の都として栄えた成都は、「天府」「芙蓉」「錦城」といったいくつもの麗しい呼称を有する。「蜀道の難きは 青天に上るよりも難し(蜀への道は天に上るよりも険しい)」と李白が故郷である蜀への道の険しさを詠んだ通り、山々に囲まれた盆地で、「蜀犬日に吠ゆ(蜀では犬が、太陽が出てくると驚いて吠える)」といわれるようにすっきりと晴れ渡る日は少ないが、どんよりと重苦しい雰囲気はなく、緑あふれる美しい街である。北京や上海ではビルの間に肩身狭そうに立ちすくんでいる街路樹も、ここではその歴史を主張するかのように大きく両手を広げるようにのびのびと育ち、心地よい木陰と空気をもたらしている。緑とともに、中央分離帯や歩道の花壇にゆれる芙蓉の花、マンションのベランダや出窓からあふれるように咲き誇る花たちが、成都の人々の生活と心の豊かさを教えてくれる。

カラフルでスパイシーな四川料理
成都東南部郊外、市内から車で30分ほどの三聖花郷は、村の至る所に「農家楽」と呼ばれる農家の民宿、レストランのある新農村観光農園だ。夏はハスの花、秋は菊、冬は梅、そして春には色とりどりの花が咲き乱れ、一年中、訪れる人の心をなごませてくれる。畑で野菜の栽培などを気軽に楽しむこともでき、週末には多くの成都市民が足を運ぶ。

新鮮な野菜や果物が豊富であるうえ、消費が市内よりも安いこのエリアには、芸術家のアトリエやスタジオも多い。博物館や美術館も建設され、文化的な空間としても注目されている。中でも、許燎源現代設計芸術博物館は、展示の大半を占める中国のお酒のボトルやパッケージデザインの見事なコレクションもさることながら、斬新なデザインの建物そのものも一見の価値ありだ。

「中国のパリ」には海外からの芸術家も
「成都は、中国のパリなのよ」

作家・潔塵さんは言う。作家、詩人、画家など成都出身の芸術家たちは、その居心地のよさに、北京、上海などに居を移すことなく、成都を拠点に活動を続ける。逆に定期的に北京や上海からやってきて、一カ月単位で成都に滞在する芸術家も少なくないという。市内の玉林西路には、おしゃれな画廊やカフェが並び、アーティストたちが集うサロンのようなバーもある。この7月には清代の建築を改築した今もっとも注目のスポット・寛狭巷子エリアもオープン。住んでいる人だけでなく、旅行やビジネスで訪れた人をもとりこにする懐かしさと新しさを兼ね備えた魅力あふれるスタイリッシュなストリートで、文化色豊かな成都の息吹を味わってみたい。もちろん、成都には『三国志』ファンにはおなじみの諸葛亮を祀った武侯祠、唐代の詩人杜甫ゆかりの杜甫草堂など、歴史散歩のできる観光地も充実している。 もとより観光資源の豊かなこの地で、今後も長期的な支援が必要とされる被災地を支えてゆく四川省の省都としてのポジティブなエネルギーが、いま成都に満ちあふれている。(泉京鹿=文  胡月 原媛 呉亦為=写真)0809

 

人民中国インターネット版 2008年10月

 

 

 
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