言えない秘密(不能説的・秘密)

 

監督 ジェイ・チョウ

香港台湾合作

2007年 102分

8月23日より日本公開

あらすじ

1999年。とある高校の音楽科に転校してきた葉湘倫はピアノのレッスン室で出会った路小雨という少女に惹かれる。路小雨は喘息もちで学校を休みがち。それでも、学校帰りに自転車の後ろに乗せて彼女を家に送るうちに、音楽を何よりも愛する二人は深く心を通わせるようになる。ところが、授業中に小雨に廻したはずのメモをなぜか湘倫に恋するクラスメートの晴依が持って待ち合わせのレッスン室にやってきて、陶酔してピアノを弾く湘倫にキスをしているところを小雨が目撃。小雨はそれっきり姿を消してしまう。家を訪ねても母親は娘は学校を辞めたと言い、会うこともできない。

5カ月後の卒業式でピアノを弾く湘倫の前に、久しぶりに姿を現した小雨は、どこか様子が変で、すぐにまた姿を消してしまう。小雨の家に駆けつけた湘倫は、小雨が若い日の父と映っている写真を見つけ、衝撃を受ける。同じ学校の教師である父は、小雨は20年前の教え子だと語る。しかも、小雨は時空を行き来することが出来るようになり、未来の少年に恋をした、と父に告白したと言う。湘倫は取り壊しの最中のレッスン室の古いピアノで、初めて会った時に、小雨が弾いていた曲を弾く。すると…。

解説

アジアの音楽界のカリスマ、ジェイ・チョウの映画初監督にして主演作品。『頭文字D』『王妃の紋章』などの映画出演を経て、ついに念願の監督業に乗り出した彼が撮った作品は、尊敬する人はショパンという彼らしいピアノをモチーフにした不思議なラブストーリー。

多少の不安を抱きつつ、映画を見てびっくり。録音の杜篤之、カメラマンの李屏賓と台湾の誇る一流スタッフが支えているとは言え、確かな演出力と細やかな神経が行き届いた、とても初監督とは思えぬ瑞々しい青春映画に仕上がっている。しかも、それも、ただの青春物ではない。後半になると驚くべきスピリチュアルな世界が展開するという、異業種の才能ゆえの大胆かつ新鮮な映像世界である。

映画の所々には大林宣彦監督の『時をかける少女』を髣髴とさせる場面もあり、アメリカ青春映画によく出てくるプロムパーティーのようなダンスシーンも微笑ましく、ジャンルにこだわらず、ありとあらゆる映画を見まくるというジェイらしい。30歳までに2本目の映画を監督したいと言う次の作品は時代物かな、と言っていたので、それもまた待ち遠しい限りだ。

見どころ

キャスティングが素晴らしい。恋の相手役に選んだのは桂綸鎂。17歳の時に『藍色夏恋』で同性に恋する悩める女子高生役でデビューした彼女も、もう24歳。台湾で今、もっとも監督たちが使いたがる女優に成長し、この作品での彼女は今までの作品で一番美しい。さらに、ジェイは自分の音楽仲間たちも脇役に起用。弟分のバンド南拳ママのメンバーや作詞家たちが適材適所で、個性的な存在感を遺憾なく発揮している。また、『頭文字D』で共演して以来、義理の親子の契りを結んだというアンソニー・ウォンは、前半のコミカルな父子家庭と後半の子を想う親の心情をしみじみと演じて、味わい深い。

そして、何と言っても、この映画の最大の見所はジェイのピアノ演奏である。後ろ向きで弾いたり、連弾をしたり、即興演奏ピアノバトルをしたりと、これまで数々あったピアニスト物の常識を覆すシーンの数々は、若いセンス満載。舞台となった音楽科のある淡水の高校は実際にジェイが卒業した学校だが、エドワード・ヤン監督の『グーリンジェ少年殺人事件』のロケ地にもなった美しい学校だ。湘倫と小雨が自転車の二人乗りをして走る淡水の海辺の桟橋の道が何ともロマンチックで、ロケーションも良し。キュートな制服をデザインしたのは『ウインターソング』の衣装を担当した呉理璐。ジェイの発案を見事に脚本化したのは『ベルベットレイン』『SPRIT』などで今後が期待される香港の新人脚本家杜緻朗。映画の瑞々しい感性はこの若い女性脚本家に負う所も大きいと思う。

 

 

人民中国インタ-ネット版  2008年12月 

 

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