初恋の想い出(情人结)

監督 霍建起(フオ・ジエンチー)

2005年 中国 115分

10月4日より日本公開

あらすじ

ハルビンのとある役所の官舎に住む屈然と侯嘉は幼なじみ。幼い頃から好意を抱きあっていた。高校から大学に進む頃、二人の付き合いがだんだん真剣味を帯びてきた時、屈然の父と侯嘉の母の猛烈な反対に遭う。実は、親は決して彼らに語ろうとしないが、侯嘉の父の職場での不倫を屈然の父が告発、それが原因で侯嘉の父は自殺していたのだった。

双方の家の頑なな反対にも関わらず、二人は自分たちの境遇を『ロミオとジュリエット』になぞらえつつ、ひっそりと愛を育んでいく。やがて大学の卒業を間近に控えた二人は、親元から離れた土地で就職し、二人きりで生きていこうとするが、それも叶わず、旅館で服毒心中を図るが思いとどまる。そこで、初めて知らされた両家の因縁に絶望した侯嘉はアメリカに渡り、屈然は侯嘉の帰国を待ち続ける。7年の歳月が過ぎ、帰国した侯嘉は屈然の家を訪ねる。

解説

北京青年報に連載されていた安頓という女性記者の実録インタビューシリーズを読んだ監督が夫人の思蕪に脚本を書かせて映画化。元の連載は後に『絶対隠私』というタイトルで出版され、ベストセラーとなっているが、要は昔、日本でも『婦人公論』などの雑誌で流行った告白手記の類である。

中国では自分の恋愛や結婚、まして不倫や離婚を赤裸々に語ることは長いことタブーであったため、それがようやく許された1990年代に人々の関心と興味をおおいにかきたてたことは想像に難くない。そのせいか、この本は霍建起監督による本作の前にも、李少紅監督がテレビ映画シリーズとして映像化している。

霍建起監督は見事にごくありきたりな男女の話を昇華させ、美しい純愛物語に仕上げている。80年代という少し前の時代設定を、ハルビンという帝政ロシア風の街並みの残る土地を背景に描いたこともノスタルジー溢れる物語とすることに成功しているが、もう1つの成功の原因は主役の二人に清潔な魅力のある趙薇と陸毅を選んだことにある。中国のロミオとジュリエットは、この二人をおいて他に考えられなかったという選定眼はさすがである。

しっとりした情感ある映像と演技、採録した台詞で分かるように簡潔で慎み深い台詞、最近の中国映画には珍しく、浮ついたところの全くない抑えた情緒と手堅い作りの堅実な作品で、映画はまさに監督の個性の具現化だということを改めて実感させられる映画だ。

見どころ

ハルビンの一番美しい季節、5月に撮影された、木々の緑と建物がこの映画のもう1つの主役と言っていい。ハルビンで暮らした経験のある私には、こんなに美しい所だったっけと思うほど、実際の街より映画の中のハルビンは美しい。ハルビン市の花でもあるリラの白い花が、清純な二人の恋の象徴として使われている。実はハルビン工業大学の建物だという二人が住む官舎のロシア風の天井の高い石造りの建物、赤レンガの壁、トタン板の屋根とレンガの煙突、石畳の中央大街、中国の美しい北の街に旅情をかきたてられる人も多いに違いない。

『山の郵便配達』『故郷の香り』、そして、この作品にも共通するのは家内工業的な作品作りの手作り感である。主人公たちが着ている80年代の服は何とすべて監督と奥さんが若い頃に実際に着ていた服だそうだ。新しく作った服をどんなにそれらしく加工しても実際に普段着ている着古して体に馴染んだ感じは出ないから、と言う。同様に、部屋の内部もできるだけセットは使わず、実景を使うとのこと。セットの作り物では質感とかがまるで違うから。美術出身の監督らしい細やかな美意識が隅々まで行き届いた作品に、日本人が惹かれ、手作りの温もりを感じる所以である。

 

 

人民中国インタ-ネット版  2009年1月 

 

 

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