金融危機に中国はどう対応するか

江原規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。

2008年、中国は「二つの百年」に向き合いました。それは、百年来の願望とされた北京五輪の開催と、百年に一度とされる深刻な金融危機である米国発サブプライム・ローン問題です。北京五輪ではチャイナ・パワーが大いに発揮され、世界の注目を浴びましたが、中国はいま、金融危機にどう対応しようとしているのか、世界が注視しています。

ASEM会合と金融サミット

サブプライム問題が深刻の極にあった2008年10月、北京でアジアと欧州の45メンバー国の国家指導者が出席し、世界の時局について話し合うASEM首脳会合(注1)が開催されました。中国は議長国をつとめましたが、その折、胡錦濤国家主席は「中国は今後も責任ある態度で、国際金融と経済の安定を維持するため、国際社会とともに努力を続けていく」との重要講話を発表しました。

ASEM会合は金融危機のみを議題としたわけではありませんが、EUのバローゾ欧州委員長は「ASEM首脳会合の開催成功によって、北京五輪の開催に成功した中国は(中略)再び世界に中国の活力を示した」(注2)と、ASEMでの中国の立場を評価しました。

11月には米国でブッシュ大統領の呼びかけによる「金融サミット」が開催され、各国首脳間で昨今の金融危機への対応が話し合われました。このサミットで胡錦濤主席は基調講演をし、①国際金融管理に関する協力の強化、国際監督システムの整備、評価機関の準則の確立②国際金融機関の改革③地域的な金融協力の促進④国際通貨システムの改善――の四つの改革措置を打ち出しました。今や世界第一位の外貨準備を有し、米国国債の一番目の債権国である中国のプレゼンスが大きくクローズアップされています。

高まる中国の存在感

10月24日、北京で開かれたASEM首脳会合で各国リーダーと歩く中国の胡錦濤主席(中央)(新華社)

昨今の金融危機は、1929年に始まる世界恐慌に比較されます。両者は米国発という点で共通点がありますが、最大の相違点は、現在の危機には中国という、豊富な外貨準備をもつ経済大国の存在があるということではないでしょうか。  当時、ルーズベルト大統領は、ニューディール(注3)という斬新な政策を発動しました。世界恐慌からちょうど80年後の2009年1月、「第二のルーズベルト」との期待の中でオバマ氏が新大統領に就任します。11月8日、胡錦濤主席はオバマ氏と国際電話で会談し、「金融危機克服に向け協力することで一致」したと報じられました。

中国はASEM首脳会合でアジアと欧州に「国際社会とともに努力を」と訴え、そして、新大統領を迎える米国には「協力を」というメッセージを送ったことになります。

この「努力」と「協力」には、中国経済の安定的発展が不可欠でしょう。中国経済は停滞する世界経済にあって相対的に良好(注4)ではありますが、深刻かつ緊急な課題も少なくないのが現状です。11月9日、国務院(政府)は2010年末までに総額約4兆元という膨大な資金を投入し、内需を拡大し(注5)、経済の安定的発展を促す景気刺激策を公布しました。

中国の『21世紀経済報道』紙はこうした中国の対応を「救中国就是救世界」(中国を救うことが即ち世界を救う)と評しています。サブプライム問題はすでに対岸の火事ではなく、中国の足元まで迫ってきている状態にあるということでしょう。「内憂外患」ともいえる状況の中で、火消し役として期待される中国は、内需拡大という緊急措置により、取り急ぎ「放水」したということでしょう。4兆元(約5860億ドル)といえば、使い道は異なるものの、米国のサブプライム問題の関連金融安定化法案で投入を決定した7000億ドルにほぼ匹敵する規模です。

こうした中国の対応に対し『ワシントン・ポスト』紙は「米国経済の衰退、世界経済の低迷によってもたらされる影響を軽減する上で有効」と書き、『ニューヨーク・タイムズ』紙は「これまで同様の成長が期待できることから、今回の措置は在中国の外国投資者にとって朗報」(注6)など、中国の措置を歓迎する報道が少なくありません。

期待される消費国としての役割

今回の内需拡大策の登場で、中国の財政・金融政策が穏健から積極へ、引き締めから緩和へと転換したとされます。これが、今後の中国経済にどういう影響を及ぼすかは未知数ですが、「救中国就是救世界」の現状判断に基づいたものでしょう。

やや大胆にいえば、経済の国際化が進行する中で、世界は生産国、消費国、そして資源国の三者に分類されるのではないでしょうか。そうした国々の利害関係の上で、世界は百年に一度の金融危機に見舞われつつあるわけです。現時点では中国は生産国の位置づけとなるかと思いますが、今回の内需拡大で消費国としての役割が濃厚に打ち出されたわけです。チャイナ・パワーが百年に一度の金融危機の悪化阻止に向け、その力を発揮することが大いに期待されています。

注1 アジア欧州首脳会合のこと。ASEAN10カ国、日・中・韓・インド・モンゴル・パキスタンとASEAN事務局、及びEU27カ国と欧州委員会が参加、アジアと欧州の関係強化を目的として首脳が直接対話する会合。2年に1回開催、今年で7回目。

注2 人民ネット 2008年10月27日。

注3 フランクリン・ルーズベルト大統領が1929年に始まった世界恐慌を克服するため、1933年から行った政策の総称。

注4 2008年第4・四半期のGDPが前年同期比9.0%成長、同年10月単月の貿易黒字(352億ドル)が史上最高となるなど。

注5 内需拡大策は10項目。社会保障・住環境整備の加速、農村・交通インフラ整備の加速、生態環境整備(都市部排水・ゴミ処理、水質汚染対策などを含む)、ハイテク産業化・サービス業の支援、人民の所得引上げ、企業の税負担などの軽減、融資拡大(中小企業、農業、合併・再編など)、消費者金融の育成など。

注6 中国米国商工会が発表した『2008年度在中国米国企業白書』によると、2007年には回答企業の74%が利益を出しているとされる。

 

人民中国インターネット版 2009年1月12日

 

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