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1984年静岡県うまれ。現在、日本国費留学生として、北京大学国際関係学院に在籍。学業の傍ら、中国のメディアで、コラムニスト、コメンテーターを務める。『七日談~民間からの日中対話録』(共著、新華出版社) |
12月初旬のある日、知り合いの某新聞社中国特派員から一本の電話がかかってきた。「実は今、最近の金融危機の影響で問題になっている大学生の就職難に関する記事を書こうと思っているんだが……」
2009年度の大学卒業生のうち、百万人が職に就けないという状況が起こっているらしい。事前準備や取材なしで、これまでの経験と感覚のみに頼ってこう答えた。
「北京や上海の学生は困っているでしょうね。中小企業が次々潰れ、外資企業も後ろ向きになっている広州あたりの学生も大変でしょう。帰省して就職する人間が大量に出てくるのではないでしょうか。金持ちは海外留学するでしょう。コネのある人間は公務員になるはず。いずれにせよ苦し紛れですよね。ただ、北京大学の理系や清華大学など一部エリートにとっては関係ないんじゃないですか。彼ら・彼女らの相手は景気じゃなくて、自分だと思いますよ」
その後、回りの学生をいろいろ取材してみると、あながち、自分の感覚と実際の状況との間に、たいしたズレがなかったことに、少しほっとした。
対策に知恵絞る政府
マスコミの各種報道や政府発表などを総合すると、そこには確かに厳しい現実がある。2009年の大学卒業予定者数は610万人で、前年度の559万人から51万人も増えている。中国社会科学院が発行する2009年『経済白書』によると、やはり、百万人が職に就けない見込みとある。
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2008年11月、大連市の世界博覧広場で催された秋の就職説明会に集った4万人を超す大学生たち |
インターネット上で「大学生就職難」を調べてみると、驚くほど多くの関連記事が出てくる。それだけではない。政府系、民間を問わず、各メディアとも『大学生就職難』の特集を設け、「大学は出たけれど、どこへ行くの?」「金融危機下で就職はどうする」「大学生就職難の現状分析と今後の趨勢」など、あらゆる角度から報道を展開し、一つの世論を形成している。大学生の就職問題は間違いなく、今年度のホット・イッシューになるだろう。
社会不安を起こしかねないこの問題に対して、教育部(日本の文部科学省に相当)も2009年度の就業対策に乗り出した。その中には、大学院生募集枠の増加、卒業生の西部・農村地区への就業の奨励、10万人の卒業生を農村学校の教師として雇用、例年よりも早い段階で大学卒業生の兵役志願者の選抜、などがある。
中国政府は、例年からの増加分である「51万」を含め、職に就けないといわれる「100万」という数字を如何に吸収するか、知恵を絞っている。
不況下で進路を模索する
「現場」の様子を見てみよう。
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2008年11月、武漢市で開かれた大学生の就職説明会場には、5万人の大学生たちが会場に押しかけた |
北京大学では、文系を中心に、みな、卒業後の進路を模索している。プライドの高いエリート集団だけに、自分なりの葛藤もあるようだ。一番人気の外資系投資銀行の募集枠は削減の一途をたどる一方、その他の外資、民間、国営を含め、各企業とも大幅に募集人数を減らさざるを得ない状況下にある。
こうした中で、学生たちは「大学院進学」と「公務員試験」に流れているという。前者には「とりあえず不況が落ち着くまで待とう」、後者には「将来が不安なので、リストラのない環境に」という意識が垣間見える。
他の大学の友人に話を聞いてみる。やはり「大学院か公務員」という答えが返ってきた。ただ、すべての学生が大学院に進学したり、役所に入ったりできるはずがない。「僕たちは完全に被害者だよ。どこを受けても採ってくれないし、就職説明会に行っても人が多くて……。地元の小さな新聞社で働くつもりだよ」と、北京のある大学の学生は嘆いた。
この不景気で学生たちが「後ろ向き」「安定志向」「苦し紛れ」になるのは仕方がないのかもしれない。ただ、そんな不況に目もくれず、自らの人生プランを突き進む学生もいる。某外資系投資銀行への就職が決まっている北京大学生は自信満々、こう言った。「不況なんて関係ないさ。すべては自分次第。不況のせいにしていたら何も始まらない」(加藤 嘉一=文)0901
人民中国インターネット版 2009年2月23日
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