高三

監督 周浩

2006年香港国際映画祭最優秀ドキュメント映画賞受賞作

2008年中国インディペンデント映画祭上映作品 95分

 

あらすじ

福建省のとある町の高校3年の新学年は担任の王錦春先生の熱い激励の言葉で始まった。生徒たちの多くは農村出身、学校に隣接する寄宿舎に住んでいる。王先生の朝は早い。寄宿舎の男子生徒たちを叩き起こすことから始まる。始業前の朝自習時間、机に山と積んだ教材を前にめいめい教科書の音読をする生徒たち。

大学どころか高校を出ている親も少ないという家庭環境の子弟が多く、さらに一人っ子である子どもに寄せる親の期待は大きい。農作業の稼ぎは1日数元にしかならないという親たちにとって、子どもの大学進学は高収入に直結する道。保護者会には親が詰めかけ、子どもの成績表を手に、真剣な表情で王先生に進学相談をする。王先生もまた、「子どもの勉強の妨げにならないよう、夫婦は睦まじく、離婚するなら、大学に合格してからにして」と親に説く。

一方で子どもたちのプレッシャーも大きい。成績優秀なのに自分に自信が持てず、常に不安に駆られている女子生徒、入試直前に学校を飛び出し、寺巡りをしたいという男子生徒。それぞれの生徒に対して、王先生は親身になって声をかけ、それぞれ異なった方法で励まし、やる気にさせていく。

問題行動の指導も重要だ。校則で禁止されている男女交際。クラスに出現した美男美女のカップルには、他の同級生の勉強の妨げにもなるため、厳重に注意してやめさせる。夜な夜な寄宿舎を抜け出し、ネットカフェでゲームで金儲けをしている男子生徒2人には、親を呼び出して、受験する気があるのかと厳しく問い詰める。やがて全国統一試験の日、王先生はクラス全員に朝鮮人参入りの栄養剤を配り、試験会場へと送り出すのだった。

解説

下手なドラマより圧倒的に面白いドキュメンタリーだった。とにかく、この王先生のアジテーターぶりがすごい。どこかで見たことがあると思ったら、張元のドキュメンタリー『クレイジー・イングリッシュ(原題『疯狂英语』)』の李先生にも似ている。その熱のこもった話ぶりに高校生ならずとも、つい乗せられてしまいそうになる。日本では灘高校にも開成高校にもこんな先生はいないだろう。すさまじいまでの中国の大学進学熱がうかがえる。

日本も格差社会が広がっているといわれて久しいが、日本で子どもの進学に熱心な親は大抵自分の学歴も高く、現状の生活レベル保持のためという進学傾向が顕著だが、中国では完全に上昇志向のための進学である。そんな中国でもかつて同世代の数パーセントしかいなかった超エリートである大学生の数が、近年では30%に近いといわれており、2009年の大卒新卒者650万人のうち150万人が就職が決まらない見込みという。希望通りの就職先が見つかるのは、ごく一部の名門大学の学生だけ。このへんの事情は先進国とまったく同じだ。

さらに、香港の大学が大陸の優秀な学生を囲い込むために破格の奨学金で釣るので、ここ数年は、全国統一試験トップ合格の高校生が清華大や北京大を蹴って、香港大学に進学するという。日本の大学も安穏とはしていられない。優秀な理系留学生をアメリカから奪い取るため、東大や東工大の理系大学院は学費免除を打ち出した。名門大学もまたグローバルな競争の波にさらされているのである。中国の高校生の姿に日本の教育の将来を考えさせられた。

見どころ

夜な夜なネットカフェに入りびたり、朝起きられなくて授業をさぼって寝ている男子生徒2人のインタビューが面白かった。ネットゲームで半年で数万元稼いだというこの子たちは、大学なんか行かないで、他に生きていく道を見出したほうがいいのではと思うのだが、それでも、大学にだけは行っとかないと、と本人たちは言う。このへんの感覚に、すでに日本と中国の若者の意識には差がないことがよく分かる。

その一方で、学業、人物共に優秀な生徒の中から党員を選ぶ、という制度がいまだに健在なのも非常に興味深い。党員候補の生徒たちの入党申請書を本人が読み上げる場面は、日本とはまったく意識の異なる中国の高校生の姿を見せつけられる。彼らの発言は、まさに役人そのもので、いかにも賢そうなのだが、こういうそつのない子たちが中国の中枢を担う官僚になっていくのだなあ、とつくづく感慨深い。

監督は新華社や『南方週末』でカメラマンを務めていたそうで、声高には何も語らずに、淡々と校内と生徒たちの家庭でカメラを回しているかのようで、しっかりと中国社会の縮図そのもの現実を切り取って見せる手腕に確かなものを感じる。と言って、ドキュメンタリーにありがちな、初めにメッセージありきの作品では決してない。日本での公開を是非期待したい。(水野衛子=文 山本孝子=イラスト)

 

人民中国インターネット版 2009年3月12日

 

 

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