遼・金王朝 千年の時をこえて 第5回

 宋王朝が中国の南部で栄えていた頃、中国北方はモンゴル系の契丹人によって建てられた遼(907~1125年)と東北部から興ったツングース系女真族の金(1115~1234年)の支配するところとなっていた。これら両王朝の時代に、北京は初めて国都となったのである。

秘められた石経の宝庫─雲居寺 (その一)

雲居寺は、北京の南西75キロに位置する白帯山の山中にあり、驚くべき仏教の宝物を蔵している。それは、漢族、契丹族、女真族の支配下で僧侶たちが16世代にわたり、血のにじむような苦労をして仏教経典を刻んだ1万4000枚を超える石板である。僧たちは揺るがぬ信念と地元の人々の支援を受けて、釈尊の教えを永遠に保存するべく、経文を石板に刻し地下に隠すことを考えたのである。この石刻事業は、隋時代の605年天台僧静琬によって始められたが、雲居寺の石経の大部分は遼・金時代の僧たちの為し遂げたものであった。遼の時代、雲居寺一帯は契丹王朝の文化と経済の中心である南京道の燕京に近い涿州として知られていた。

雲居寺遠景。手前に「北塔」、後方の山上に遼代の「老虎塔」を望む

1984年のある日、私は旧山道に車を走らせていたが、雲居寺が近くになった辺りで、山肌が深く削られているのが見えた。ここは何世紀もの間、白い大理石の分厚い石板を切り出して来たところなのだ。雲居寺に着くと寺番の王さんが、今やこの寺院の唯一の建造物になってしまったと遼時代の「北塔」を指差した。境内は全くの荒地と化していたが、私はかつて寺の建物が存した丘へ向けて、地面が幾層かの段状を成しているのを認めることができた。

その後、王さんは、先に立って一時間ほど歩き、石経山の九つの石窟へ私を案内してくれた。彼の説明によると石板に経文を刻む作業は、当初、ここで行われていたが、契丹時代の初期、削られた石くずが大量に溜まったため、下の寺の境内に移された由。雲居寺に戻り、経文を刻んだ幾千もの石板の列に沿って歩くと、遼から金の時代にかけて、この事業を継続した、往時の僧侶たちの刻苦精励に只、驚くばかりであった。これらの石経は1957年、地下宮から発掘され、急拵えの小屋に保存された。数百年もの間、失われていた経典のいくつかが、この貴重な石板群の中から発見されたと言われている。この忘れ難い最初の訪問の後、私は20回以上も雲居寺を訪れた。より深く研究するために私は、1930年代に京都大学の塚本教授をリーダーとする考古学グループが作成した詳細な調査の記録を参考にした。悲しむべきことに、寺院の伽藍は1942年に日本軍との戦火で焼滅し、残ったのは前述の「北塔」のみであった。1990年代に至り、雲居寺再建に際して、かつて日本の学者たちが描き残した図面や地図が大いに役立ったというのも歴史の皮肉と言えよう。

北塔は遼時代では珍しく吊り鐘状に造られている。傍らに立つのが王さん(1984年撮影)

「重修雲居寺壹千人邑会之碑」の上部。この碑には、多くの人々の献身によって、この刻経事業が継続したことが記されている

歴史を紐解けば、雲居寺が修復されたのは、これが最初ではなかったことがわかる。965年と年号を付した大きな碑「重修雲居寺壹千人邑会之碑」の碑文を見ると、契丹がこの地を支配した初期に僧謙諷が15年の歳月をかけて廃墟と化した寺院の修復にあたったとされている。彼は寺院の修復のみならず、石刻事業も継続していった。謙諷がこの大事業を完成することができたのは土地の信徒たちと燕京の貴族からの莫大な寄進によるものであった。碑記には「毎年、釈尊生誕の4月8日には、多勢の信者が百里も離れた所から集まり、様々な食物を寺に寄進してくれた」と記されている。

不運にも、14年後の979年に寺は、宋軍が契丹からこの地を奪おうと侵入して来た際に、ひどい損傷を受けた。宋軍は間もなく撤退したが、遼帝国の南の国境地帯での抗争は、その後も20年間続いた。

石経山の石窟 白い大理石(漢白玉)の切り出し現場

多分、遼・宋の国境に位置するという理由もあってか、雲居寺は遼の歴代の皇帝からの庇護を受け、石刻事業も聖宗(982~1031年)、興宗(1031~1055年)そして道宗(1055~1101年)の支援の下に再開された。この事実は、山上の石窟の正面に建つ「四大部成就碑」(1058年建立)に、経文四大部を30年間で2000以上の石板に刻んだと記載されていることからも明らかである。

遼の黄金時代であった11世紀までは契丹の支配者たちは、この大事業に対し、十分な支援を与えきわめて都合の良い環境を整えることに意を用いた。事業に携わった僧や工匠のほとんどは漢族のものであったが、遼王室の仏教布教に対する心遣いは、支配者層が深く仏教に帰依していたことを示している。(阿南・ヴァージニア・史代=文・写真)

 

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