監督 阿甘
2009年 中国 106分
あらすじ
劉高興と五富は黄土高原の農村から西安に出て来てゴミ拾いで生計を立てているが、高興には自分で作った飛行機に乗って空を飛びたいという壮大な夢がある。そんな高興が西安で出会ったさまざまな人々の中に、武漢から出てきて風俗で働きながら、貯めたお金で学校に行くことを夢見る孟夷純がいる。
おずおずと互いの恋心を確かめ合う二人だったが、夷純の弟が部屋に隠した麻薬が見つかって、夷純は留置所に入ってしまう。同じ村の出身で元締め屋として成功した男の紹介で、自家製飛行機に広告を貼り、西安の上空を飛ぶことに成功した高興は広告費で夷純の保釈金を支払い、正装して留置所に迎えに行くのだった。
解説
あらすじを読むだけでは、この映画の面白さは分からない。ストーリーは実に単純、それも見事に楽観的な話なのだが、とにかく明るく抱腹絶倒のシーンの数々が楽しい。この作品を是非見たいと思ったのは、北京で行われたプレミアの映像を見て。 郭濤たち出演者がカラフルなビニールのゴミ袋で作ったニューモード(?)を堂々と着こなし、真剣な面持ちでモデルウォークするという、昨今の豪華なプレミアとはまったく異なる趣向に惹きつけられ、このセンスで作られた映画なら絶対に間違いないと思ったからで、その勘に狂いはなかった。
中国映画ともっともかみあわないジャンルはミュージカルだろう。かつては革命京劇という今にして思えば中国独自のミュージカルもあったわけだが、それはさすがに時代の産物なので現代にはそぐわないし、ハリウッドスタイルで撮るのはあまりに馬鹿馬鹿しい。
ところがこの映画を見て、そうか、中国が音楽劇を撮るには、この手があったか、としばし感じ入ってしまった。粋とはまったく正反対の中国らしい田舎臭さを追求することで、実はポップで意外に今風でお洒落になるという、逆転の発想が素晴らしい。
冒頭の出稼ぎに出ようとする農民たちがトラクターの前でラップとヒップホップで歌い踊るシーン、一面の畑の真ん中で野糞をした後で高興と五富が都会に出て行く複雑な心境を切々と歌い上げるシーン、マッサージガールたちと客との群舞、高興と夷純のおんぼろ小屋でのデュエット、と西洋のミュージカルのパターンを踏襲しつつも、その見事な換骨奪胎ぶりは、同じ時期に見た『マンマ・ミーア』にまったく劣らない楽しさで、ビバ! チャイニーズミュージカルと喝采を送りたい気分。
見どころ
郭濤と苗圃を『鳳凰 わが愛』でしか知らない日本人が、この映画を見たら絶句するだろう。そのぐらい強烈。この二人、本当に役者である。『クレイジーストーン』の大成功以来、郭濤は映画主演作が目白押しで、どの作品においても彼の演技だけは高水準というのもすごい。苗圃の演技力もすでに『さくらんぼ 母ときた道』でよく知られるところだが、この作品ではそのコメディエンヌぶりを遺憾なく発揮。宋丹丹に継ぐ中国のコメディの女王は苗圃を置いて他にないだろう。
田原も可愛らしい。今までの彼女の出演作は、どうもその少女っぽさが強調されすぎていて、なんとなく暗いイメージがあったが、今回はほどほどに大人でコケティッシュな魅力が引き出され、今までで一番きれいに撮れているのでは?と思う。実は日本には彼女の隠れファンが多いので、公開されない(と決めつけてるけど)のが実に残念。
そして、何と言っても一番の掘り出し物は五富を演じた馮瓅だ。『孔雀』で脳に障害を持つ長男を演じた俳優と同一人物だとすぐには気づかないほど、あの陰鬱な役とはまったく違う根っから明るい素朴な田舎者を好演。馮瓅がいなければ、この映画は成立しなかったかもと思うほどに存在感がある。それにしても、郭濤といい、この馮瓅といい、中国映画界は男優の宝庫という感がある。
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