国際協力で「宇宙の旅」の実現へ

 

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長を務めた。
今年7月、46年ぶりの皆既日食に、日本も中国も沸きました。天気があまり良くなかったので、皆既日食が見られず、残念がった人も多かったようですが、上海周辺には、皆既日食目当ての日本人観光客が、大挙して押し寄せたようです。

月面着陸に向けた第一歩

7月にはもう1つ、月に関係する話題がメディアを沸かせました。米国の「アポロ11号」による人類初の月面着陸から今年7月でちょうど40年になります。その1年前に『2001年宇宙の旅』という有名なSF映画が封切られました。その翌年の「アポロ11号」の成功で、21世紀にはもしかしたら市民レベルの「宇宙の旅」が実現するかもしれない、と思ったものでした。

当時、米国は経済規模、科学技術水準のいずれでも世界に抜きん出ていました。「宇宙の旅」への第一歩である月面着陸という偉業を達成したのは、現時点では米国のみです。

さて、中国にも壮大な宇宙事業があります。当面の目標は、月面着陸です。「改革・開放」政策で世界に類のないほどの高成長を遂げ、経済規模で世界第2位となることが確実な中国は、2008年、北京五輪を開催するとともに、飛行士3人が乗った「神舟7号」を打ち上げるなど、その成果を大いに世界へ発信しました。今や「科学発展観」を大方針とする「改革・開放」政策の次の到達点は、米国に次いで月面着陸を成功させることである、といっても過言ではないでしょう。

中国の宇宙ビジネス

中国の宇宙事業には、嫦娥計画と神舟計画とがあります。

一説によると、1969年時点のアポロ計画にかかった費用を2005年時点で換算すると、宇宙船やサターン・ロケットにかかった費用を含め2180億ドルであったと推定されています。膨大な額ではありますが、中国経済の過去の蓄積や今後の成長から見て、中国の月面着陸に要する資金の問題は、それほど大きな課題ではないのではないか、と思われます。

宇宙事業の遂行は、21世紀に宇宙旅行を可能とするという人類の壮大なロマンの実現ですが、それに伴って「宇宙ビジネス」が花開くことは間違いないでしょう。

これまで中国は、宇宙船に野菜や花の種を搭載してきました。宇宙を旅行した「宇宙種」から育った宇宙野菜や宇宙花は、市場価格が高いとされています。「宇宙種の一粒」はとても小さな一粒ではありますが、それを使った宇宙ビジネスは、宇宙船の船体に使われる新素材を含め、宇宙服(繊維)、宇宙食(農産品、食品加工)、鉄鋼、電子、機械、通信、そしてエネルギーにいたるまで、裾野が非常に広大です。

宇宙事業で投じた1元は8~14元の付帯効果があるとする研究報告もあります。従って、宇宙事業は、今後の中国の経済成長を牽引する新たな分野になる可能性を秘めているのです。

国際協力こそ肝心

宇宙事業の成果は、環境問題、エネルギー問題、異常気象、食糧問題、衛生改善など、地球や人類の抱える課題と矛盾を解決する糸口になるとする識者は少なくありません。宇宙プロジェクトの遂行には、高い科学技術水準が前提となりますが、同時に、その成果の普及や平和利用には、何より国際協力が肝心です。

中国が主導して2008年12月、アジア太平洋宇宙協力機構(APSCO)が設立されました。その年の9月に開催された第59回国際宇宙会議(IAC)では「宇宙ビジネスへの投資は非常に大きく、長期間にわたるため、各国が協力し合って、この共同資源をともに開発し、支持し、利用していきたい」とのメッセージが出されています。

APSCOの前途には、関係国間の利害の衝突もあり、現時点ではその行方は順風満帆ではないまでも、国際的な協力の必要性は、例えば、今年7月、宇宙に長期間滞在して帰還した若田飛行士の業績からも明らかでしょう。

7月25日、天津で、中国初の「宇宙体験展」が開かれ、 会場では宇宙遊泳が体験できた(新華社)

「姫」と「仙女」の期待

日本にも、セレーネ計画(月探査計画)があります。今年6月、月面に制御落下した「かぐや」は、その月周回衛星でした。「セレーネ」はギリシャ神話の月の女神セレネにちなんだ名前で、「かぐや」は『竹取物語』の主人公で、月に帰った「かぐや姫」のことです。

嫦娥計画の「嫦娥」とは、中国では月に住むという伝説上の仙女を意味します。日中間には、宇宙事業でまだ協力関係構築の実績はありませんが、「嫦娥1号」も月面に制御落下(2009年3月)していますので、月に戻った「姫」と「仙女」は、日中合作の月着陸船が到来するのを待ち望んでいるかもしれません。

宇宙事業で最先端を行く米国で、2009年7月27日から初の米中戦略対話が開かれました。中国を代表してこの会議に出席した戴秉国・国務委員は会議終了後、「両国は月に行くことに関わる話題以外、多くの問題につき話し合った」と総括しました。

何年後かの戦略会議では、「月に行くこと」、つまり宇宙事業での協力関係の構築が重要なテーマとなっていることでしょう。  宇宙事業においては、今後、国際協力の枠組みづくりにおいても中国に、世界への貢献を大いに期待したいものです。

 

人民中国インターネット版 2009年11月

 

 

 

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