監督　馮小剛（フォン･シャオガン）

2008年　中国　128分

大阪アジアン映画祭・沖縄国際映画祭上映作品

長い海外生活から帰国した秦奮は、紛争を解決すると称する器械の専売特許を投資家に200万ポンドで売るのに成功、その勢いでネット上に結婚相手募集の広告を出すが、見合いに現れるのはゲイに転向したかつての同僚だったり、墓のセールスウーマンだったり、不感症の未亡人だったりで、なかなか適当な相手にめぐり合えない。ただ一人、心惹かれたフライト・アテンダントの梁笑笑は既婚男と泥沼の不倫中だが、傷つき疲れて男と別れる決心をし、男との思い出の地である日本の北海道への感傷旅行に同行してくれないかと秦奮を誘う。

こうして、日本人と結婚して北海道に暮らす在日中国人の鄔さんの運転する車で、3人の道東旅行が始まる。秦奮の人の良さと明るさと自分への思いに慰められる笑笑ではあるが、別れた男のことが忘れられず、オホーツク海に身を投げる。九死に一生を得た笑笑は献身的に看病する秦奮についに心を動かされる。2人が豪華フェリーで帰国の途につくと、秦奮から例の器械を買ったのち、世界的な経済危機で一文なしとなった投資家に出会う。100万円で器械を買い取った秦奮は「未来に希望を持て」と投資家を慰める。

毎年、年末年始は中国に行き、馮小剛の正月映画を観るのを楽しみにしている。今年の正月も鑑賞券半額の元旦当日に北京で観たのだが、今までで一番笑えなかった馮小剛コメディだった。中国各地で葛優が繰り返す見合いの相手は個性的だし、葛優の台詞も相変わらずの減らず口で楽しいのだが、日本の北海道に舞台を移してからがあまり面白くないのだ。これじゃ、まるで北海道の観光宣伝映画じゃないか。ヤクザの親分の葬式、4人の老姉妹が経営する居酒屋、草原にポツンと建つ小さな教会、すべて一昨年の初夏に監督が北海道旅行した際に見聞したことだそうだが、私にはさほど面白いとも思えなかった。監督は去年の秋、『戦場のレクイエム』の宣伝で来日、終えたばかりの北海道ロケがよほど楽しかったと見え、ずっと劇中でも歌われる谷村新司の『昴』を口ずさんでいたが、やっぱり、楽しみながらでは、いい映画は作れないということなのだろうか。

映画全体にこれまでの馮小剛コメディにない苦味も感じられて、経済危機ならぬ馮小剛の中年危機を感じさせた。馮小剛も葛優も共に50代に突入した。過去10余年の同コンビによるコメディの数々はまさに一時代を画したわけだが、この黄金コンビも時代と共に大きな転機を迎えているということなのかもしれない。

そうは言っても、もちろん、葛優の軽妙かつ機転の利いた台詞の数々には相変わらずニヤリとさせられるし、笑えるシーンもいくつもある。馮遠征演じるゲイと葛優のやりとりではゲイならぬ実力俳優の芸を堪能でき、さまざまな見合いシーンの挿入の仕方も絶妙だ。具合い相手もありとあらゆるタイプを揃えて飽きさせず、それぞれの個性を際立せる台詞が実に巧みである。私が一番笑ったのは不感症の未亡人と株に夢中の女性とのやりとりだ。このへんはまさに馮小剛ならではだろう。葛優とスー・チーの息の合った突っ込みあいは、かつて監督夫人の徐帆と演じた10年前の『遙かなる思い(不見不散)』を思い出させる。そう言えば、秦奮の経歴とキャラクターはまさにその作品で葛優が演じた劉元そのもの。この映画はある意味、10年前の作品の続編なのかもしれない。

秦奮がネット上に出した「征婚啓事(良縁求む)」と始まる広告は「非誠勿擾(誠意のない方お断り)」で締めくくられるが、実はこの映画は台湾の陳国富監督の『征婚啓事』の翻案で、元となった作品のタイトルで始まり、本作のタイトルで終わるというのも何とも洒落ている。

范偉演じる投資家との値段交渉で、人民元建てか、ドル建てか、ポンドか、はたまた円かというオチが即、観客に大受けとなるところに（中国の映画館では実際に笑い声が大きく上がった）、中国の市場開放をつくづく実感する。日本人だったら、たぶんすぐには反応できないだろう。

だが、日本のシーンになると「？」というと台詞もある。炉辺焼きの店で葛優がスー・チーに「そんな口を利いてると、北海道の原住民（中国語では土人である）に引き渡すぞ」という台詞は、いくら何でもまずいだろう。

最後にウニとイクラの海鮮丼に生卵をかけるというのは「生臭さ」を強調したかったのかもしれないが、日本人はこういう食べ方はしない。最近の中国人はこれでも「旨そう」と思うのかもしれないが、他国の文化は正しく伝えて欲しいと思う。それでも、この映画がきっかけで、中国ではちょっとした北海道旅行ブームだそうで、中国人の個人観光ビザも解禁となったことだし、国土交通省も北海道民も気にしないのかもしれないが。

人民中国インターネット版　2009年12月