西部大開発 髙見澤学氏、今後の日中経済協力と西部地域の重要性

 

◆転換する中国の経済発展方式

2008年9月のリーマンショック以降、急速に冷え込む世界経済の影響は、中国経済にも大きな減速をもたらした。中でも貿易の落ち込みが酷く、華南、華東地域の輸出生産型労働集約企業の業績が悪化、企業倒産が相次ぎ、失業者が増加した。これを受け、中国政府は世界に先駆けて4兆元に上る大規模な景気刺激策を実施、外需落ち込みを埋めるべく、内需拡大を核とした経済発展方式への転換を促した。その甲斐あってか、中国経済は2009年第1四半期を底に回復、2010年に向けて明るい兆しが見え始めている。

現在、中国が進める内需拡大政策の主な対象は西部、中部、東北部の内陸地域である。「汽車下郷」や「家電下郷」等の農民の消費意欲を引き出す補助金政策は、内陸地域住民の消費拡大を狙ったもので、景気回復に重要な役割を果たしている。

中国でも独自の水環境対策を行っているが、統一的な規格は構築されていない(安徽省)

2009年3月に10年目を迎える西部大開発政策の中心は、主に「西気東輸」、「西電東送」、「南水北調」、「青蔵鉄道」等の大型インフラ建設であった。広大な土地、豊富な資源を有する西部地域だが、人口密度は小さく、北京や上海等の大都市からは遠く離れている。このため、経済政策も必然と巨大インフラ建設が中心となる。しかし、こうしたプロジェクトは建設が終われば後が続かず、持続した成長を促すには常に新たな建設を生み出さなければならない。これでは、いつかは限界が訪れるだろう。また、建設によって生じる利益のほとんどは、プロジェクトを請け負う北京や上海の大手企業に落ち、地元経済が潤う余地は小さい。

一方、西部地域でも重慶や成都などの人口が集中する地方都市の経済は沿海部ほど衰えてはいない。西部地域の経済成長率が東部地域を上回っているのは、西部の地方都市でのインフラ建設と社会消費が経済を牽引しているからである。内陸部は輸出よりも国内販売に主眼を置いた産業が多く、外需落ち込みによる地元経済への影響は相対的に小さい。内陸部での消費をさらに活性化させるため、中国政府は農村地域住民の消費を促す必要性を感じている。

◆「地産地消」の経済運営を踏まえた日中協力を

世界経済がなかなか不況から脱し切れない今、各国は中国市場に大きな期待を寄せている。日本企業も例外ではなく、業績回復の可能性を求め、積極的に具体的な対中ビジネスのあり方を模索している。外需への期待が見込めないため、各社とも輸出生産基地から中国国内市場の開拓を目指した拠点作りに転換しつつある。こうした中、大規模投資の可能性を秘めているとして、省エネ・環境分野が注目を浴びている。

2009年11月8日、北京の人民大会堂で開催された第4回日中省エネ・環境総合フォーラムでは、地方視察の一環として重慶を訪れ事前フォーラムを開催した。今回設置された7分科会のうち、化学分科会、発電・石炭分科会及び汚泥処理分科会の関係者が参加した。重慶は人口が多く、石炭や天然ガスの生産地に近いことから、建国後は三線建設の重要拠点の一つとして重工業が盛んであったが、改革開放後は外資誘致の波に乗り遅れ、沿海地域との経済格差は広がっていた。しかし、今回の世界経済危機が重慶をはじめとする内陸都市にとって思わぬ幸運をもたらそうとしている。

第4回日中省エネ・環境総合フォーラムで発言する直嶋経済産業相

経済発展方式を内需拡大型に転換しつつある中国にとって、これから重要になるのは国内市場向けの生産・サービス基地であり、さらに経済の量的拡大ではなく、質的向上による持続的な経済成長を目指さなければならないことである。それには、内陸地域においても経済成長を促す一方で、省エネ・環境への配慮を欠いてはならない。

人口が多く消費意欲が旺盛な内陸市場は、日本企業にとっても魅力的だ。しかも豊富な資源が近くに埋蔵されている。その土地で原料を調達し、その土地で生産し消費する。経済原則からいって、「地産地消」がもっとも効率的で経済的な運営形態であることは否めない。日中経済協力においても、この「地産地消」の経済運営を踏まえた取り組みが必要になっている。

西部地域ではないが、こうした可能性のあるプロジェクトの一例を示すと、現在、日中経済協会は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け、中部の安徽省合肥市で、都市周辺部の分散型水汚染源を対象とした水循環システム構築のための実行可能性調査を行なっている。日本企業の既存技術を活かし、現地のニーズと情況を踏まえながら複数の企業の優位性ある技術を効率よく組み合わせ、日中双方が経営参加するというビジネスモデルの構築である。基礎となる技術は日本企業のものだが、システム設計、設備製造、工事・据付、運営管理等は日中共同で行い、処理する対象物は現地の高濃度有機性廃水など、生産されるメタンガスや再生水は現地で消費される。もし、このビジネスモデルが成功すれば西部各地でも十分応用でき、中国全土で横展開が可能となる。中国経済の重点は内陸に移行しつつある。過去の文明の流れが内陸から沿海に移ってきた現象が、今度は逆の方向に流れが進むのではないか。(財団法人日中経済協会企画調査部課長 髙見澤学)

略歴

髙見澤 学(たかみさわ まなぶ)

財団法人 日中経済協会 企画調査部 課長

1961年(昭和36年) 長野県生まれ筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了(1987年3月)。日中石油開発株式会社勤務を経て、2000年10月に日中経済協会入会。中国のエネルギー政策・動向を通じて中国経済、日中経済関係を分析。

主な著書:『中国の知恵と日本の伝統が民を済う ― 崩壊する虚構経済からの脱却』リブロ(単著)『新時代の「能源」フロンティア ― 初めて語る日中石油・エネルギー協力の真実』リブロ(単著)

『アジア経済発展のアキレス腱』文眞堂(共著)『見てきた昇竜中国』くらしのリサーチセンター(共著)ほか

 

人民中国インターネット版 2010年1月5日

 


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