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2009年10月、中国の国有企業が投資して建設されたザンビア銅製錬公司の竣工式は、バンダ大統領(中央)も出席して挙行された(新華社) |
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1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長を務めた。 |
8年ほど前、北京の大学で講義する機会があり、その折、学生諸君に卒業後の進路希望を聞いたことがありました。7割近くが、「ベンチャービジネスをやりたい」との回答でした。次が外資系企業への就職で、国有企業への就職を希望している学生はいなかったと思います。
このところ、「国進民退」の4文字が紙面を大いに賑わせています。「国」とは国有企業、「民」を代表するのが民営企業です。国民経済において「国有企業のプレゼンスが大きくなり民業が圧迫されるのではないか」という意味でしょう。
中国に高成長をもたらした「改革・開放」は、経済の非公有化(注1)を推進し、国民経済における民営企業のプレゼンスの向上を促進してきました。その結果、民営企業は国内総生産(GDP)の65%、新規雇用の80%、税収の56%、企業数では99%(個体企業を含む)を占めるようになったとされます。いまや民営企業は、中国の社会主義市場経済の「重要な構成部分」(注2)以上の貢献をしているのです。
経済の非公有化に向けて大きく舵を切ったのが、2004年の国有資産監督管理委員会(国資委)の設立といってよいでしょう。国資委は国有企業改革の総本山で、初代の李栄融国資委主任は、196社あった中央直轄大型国有企業(注3)を2010年までに80~100社にする、と明言しました。実際、2009年には中央直轄大型国有企業は132社になり、また、2002年に15万余社あった国有企業は2008年末には約11万社に減少しました。
進む国有企業の再編
それがなぜ今、「国有企業の増大、民営企業の後退」が各界で議論を呼んでいるのでしょうか。それが政策的に進められているとの声(注4)があることは否定できませんが、金融危機下で国有企業の再編(吸収・合併など)が急展開していることを指摘する識者が少なくありません。
目下、枚挙に暇がないほどの国有企業がらみの再編劇が進んでいますが、とくに炭鉱、鉄鋼、自動車、セメント、食品(ビール)などの業界で民営企業をも対象とした吸収・合併が急展開しており、大型化し、市場占有率を高めつつある国有企業が増えています。
例えば、
○山西省における省級国有企業による中小炭鉱の吸収
○中国建材集団(大型国有企業)によるセメント企業約百社の吸収
○中国を代表する電信企業である中国聯通と中国網通の合併発表
○中国兵器装備集団公司と中国航空工業集団連携による中国長安汽車集団の再編、などです。
内外環境の劇的変化に対応
1949年から「改革・開放」の78年までの30年間は、国有企業の全盛時代でした。次の30年、即ち、「改革・開放」30周年の2008年までが民営企業が躍進した時代です。非公有経済化が推進される中、中国経済において民営経済のプレゼンスが高まりました。そして中国経済の今後を展望すると、国有企業も民営企業もともに進む時代に入りつつあるといった方が的確でしょう。
李栄融主任は、国際競争力のある中国企業の育成が急務であると力説しています。国資委の誕生した当時、中国のGDPは世界全体の約6%でしたが、今日では約12%と倍増するなど、中国経済の国際化が大きく進みました。その時期に百年に一度という金融危機が世界経済を襲ったのです。中国経済を取り巻く内外環境は劇的に変貌しつつあり、経済の最前線にある中国企業はこれに早急に適応する必要に迫られています。
海外展開とサービス産業
国有企業にとっての新たな環境への適応・挑戦をもっともよく表しているのが、海外展開です。とくに海外資源の開発・確保には、中国経済の発展と成長の維持がかかっており、最近、中国の国有大手の海外資源関係の海外展開が増えてきています。最近の国有企業による海外展開(予定、進行中、挫折案件を含む)は――
○中国国家海洋石油公司(CNOOC)によるノルウェーのスタトイルハイドロASA社がメキシコ湾に所有する石油ガス資産の一部買収
○中国有色鉱業集団と雲南銅業集団によるザンビアの粗銅の生産への投資
○兖州煤業によるオーストラリアの資源企業の買収
などがあげられます。
また、国内では、文化関連、アウトソーシング、観光などサービス産業、そしてベンチャービジネスにおいて、民営企業の活躍が目立ちます。現時点では、海外展開とサービス産業では、国有と民営が棲み分けをしているといえます。
新しい「中国モデル」の出現
「外進」もあります。現在、金融危機で海外からの対中投資は増えてはいませんが、外資系企業による中国企業のM&A(資本・経営参加、株式取得、従業員持ち株制などを含む)が増えているなど、新たな展開を見せつつあります。
李栄融主任は国有企業の再編に、外資や民営資本の参入を歓迎する方針を示すなど、中国経済では、国有企業や民営企業のプレゼンスの増大だけでなく、「外進」の環境が拡大していることは確かです。
重要なのは、国有も民営もいずれも中国企業という視点でしょう。国有企業についていえば、その株式化、内外株式市場での上場など国有企業の経営に、民営企業が参加し、さらに「外進」が加わる機会が増えており、また、内外企業の吸収合併で大型化する民営企業も増えています。中国における企業形態はこれまでとは比較にならないほど多様化しているのです。国有と民営の境界はかつてほど明確でないのが現状です。国有と民営に「外進」がプラスして、社会主義における新しい「中国モデル」が誕生しつつあるといえるでしょう。
注1 所有制による区分では公有経済と非公有経済に区分される。
注2 中国経済における民営企業の位置づけ。
注3 中央直轄国有企業136社の内訳は、①国家安全(国防軍需、食糧油脂等、重要資源開発、公共サービス、電力、電話、通信など)②中核産業(都市建設、自動車、電子、重大設備、冶金産業など)③流通、サービス関連大型企業など。
注4 4兆元の内需刺激策は国有企業が関係するインフラ設備向けが多い点で民営が不利とされる(『人民日報・海外版』2009年11月13日)。
人民中国インターネット版 2010年2月3日
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