和泉日実子 王焱=文・写真
「請先下後上(乗客が下りてから乗ってください)」「抓緊上下車(迅速に乗り降りしてください)」。北京の朝夕のラッシュ時間、地下鉄構内に入ると、こんな言葉が聞こえてくる。この声の主は「文明乗車引導員」である。込み合う駅のホームに立ち、通勤を急ぐ乗客に注意を促しているのだ。
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黄色の制服に赤い腕章が地下鉄の文明乗車引導員の目印。阜成門駅には女性の公共文明引導員が8名在籍している |
乗客整理にあたる文明乗車引導員と地下鉄駅員(右) |
2001年春、北京市は、市民のマナー向上と乗車マナーの徹底のため、全国に先駆けて文明引導員を導入した。当初はバス停のみの活動であったが、地下鉄路線の新設や乗客の増加を受けて、2007年から地下鉄ホームでも活動を開始した。
西城区文明引導員第8隊の趙永倫隊長によると、体が健康で、50歳未満の北京市民であれば、誰でも文明乗車引導員になることができるという。文明乗車引導員の勤務時間は、月曜から金曜までの朝7~9時、夕方5~7時で、毎月600元程度の手当てが支給される。
地下鉄2号線阜成門駅で文明乗車引導員のリーダーを務める郭素勤さんは、2001年からこの仕事に就いている。郭さんは、服飾工場を退職後、専業主婦をしていたが、また外に出たいと思い、文明乗車引導員に応募した。面接と研修を受けた後、1ヵ月の実習を経て、正式に文明乗車引導員となった。研修に参加したときのことを彼女はこう振り返る。「ダンスのグループレッスンに似ていました。一つの大きな教室で数十人が一緒に、基準動作を何度も繰り返し練習するのですよ」
郭さんは東単駅や積水潭駅での勤務を経て、2009年6月から阜成門駅に配置された。北京オリンピックや新中国成立60周年祝典などの重要な行事のときも出勤し、同僚とともに地下鉄の安全な運行に貢献した。「手当ては多くはないけれど、仲間もできて、仕事にやりがいを感じるようになりました」と笑顔で語る。郭さんは、姉の双勤さんも文明乗車引導員の仕事へ誘い、今では姉妹そろって務めている。
北京市の地下鉄旅客輸送量は年々増加する一方で、昨年10月23日には、1日の乗車人数は延べ510万人を記録した。地下鉄構内の文明乗車引導員も約600人に増員された。毎朝夕、100メートル余りのホームの上には、出勤を急ぐホワイトカラー以外にも、北京の地理に不慣れな観光客や出稼ぎ労働者などさまざまな人々が往来している。現在、文明乗車引導員の仕事は、乗車秩序の維持だけではない。道案内やホーム転倒などの事故防止、不審者対策へとその仕事の範囲は実に多岐にわたる。
急速に進歩する大都市北京、公共交通をとりまく環境も大きく変化している。文明乗車引導員は「笑顔で対応」をモットーに、人々の暮らしを暖かく支えている。
人民中国インターネット版 2010年2月25日
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