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日本観察記(14) 盗人を捕らえない和尚

文=薩蘇

昨日、友達につきあって大阪に遊びにいき、知らないうちにある寺に入り込んだ。日本の寺の多くは、賑やかな街中にあって静けさを保ち、その主な機能は、墓地である。日本人は死ぬと、その生前の宗教がなんであれ、みな戒名を持ち、寺のなかに埋められる。この点、中国人にとって奇妙に思える。なぜなら中国人の習慣では、墓地は町から遠く離れた郊外にあり、多くの中国人は無神論者として、葬儀などに関し、寺と連絡をとりあったりはしない。

日本人は生死に対し達観しており、人は死ねば他界へいき、そこから世界は隔てられ、未練を抱いたりしない。泣く必要はなく、タブーでもない。ここでは葬儀が、あそこでは婚礼が行われ、それは矛盾のある文化の一風景である。

墓前には、数輪の菊の花がみられる。日本の寺では、よく近くに幼稚園があり、墓地のなかでは、子供の歓声や笑い声が墓地の静寂に伴い、喧騒に慣れた現代人は、喧騒の際で生きる歓びと死の静けさを体感できる。

このような中国には見られない風景は、多くの中国からの旅行者は万感の思いを抱く。結局、ここに帰結するのではないか、と。

寺には、賽銭箱があり、その箱の表面には、奇妙なものがある。日本人自身は気がつかないかもしれないが、私はその側面を指差して、友達に見せる。

賽銭箱はもちろん鍵がかけられているが、明らかに壊されたことがあり、なかには錠前のとめ金がこわれ、取り替えてあるものもある。これはいいほうである。私は、賽銭箱の鍵が4、5回も壊されたのを見たこともある。

「日本の寺には、よく泥棒がいるのかい?」と友が聞く。

私はうなずき、「確かにいる。だが、そういう泥棒には、和尚さんたちは構わないのさ」

日本では、寺の賽銭箱の鍵は、単なる形式である。日本には寺に寄付する善男善女が多く、またその金を盗む者もいる。多くは子供か不良青年で、悪戯のうえ、それを小遣いに使う。こういうことには、日本の僧侶は取り合わず、泥棒をつかまえず、千円、一万円でも好きにとらせる。

「全部、盗まれてしまうじゃないか?」友達は理解できないようだ。和尚さんの金だって、金であり、日本の僧侶はまた慈善家ではない。なぜ、管理しないのだろう?

日本で教授をしている私の友達が日本で賽銭箱がよく盗まれる話をしてくれ、彼がそう教えてくれたので、私はこの件に気がついたのである。

この教授には、和尚さんの知り合いがおり、ある日、彼を尋ねた時、奇妙な場面に出くわしたという。

早朝、和尚が掃除をしているそばに年老いた来客が立っており、その病をもつ容貌の様子は、長くはないように見えた。

掃除をする和尚は、ゆっくり、丁寧に地面を掃いている。 骸骨のような老人は、そのあとをついて歩き、なにか言いかけてはやめている。

和尚は、知ってか知らずか、依然としてゆっくり地面をはき、両目を半分閉じて、一言も発しない。

しばらくして、老人はかすかなため息をつき、折りたたんだ厚い日本円のお札をとりだし、黙って賽銭箱にいれると、手をあわせて礼をし、身をひるがえして去っていく。

わけがわからなくなった教授は、和尚をひっぱり、なぜあんなふうにお客を怠慢に扱うのか、せっかちに質問した。「いつから修行して、さっきのようになったんだい?」

和尚は、嬉しそうに賽銭箱の賽銭をとり、答えない。

何度も続けて同じようなことに遭遇し、教授はついにその奥義を知った。

かの老人は、かつて賽銭箱の賽銭の盗人であり、それはおそらく、数十年前の出来事である。世間を長く渡り歩くうち、やがて彼はそれを一生の恥と思うようになった。

老人となり、最後にお金を返しにくる時は、十倍、百倍にして返す。

人生の恥をなんぞそればかりに止まらん。このように簡単に補えることがあとどのくらいあるだろうか?

老人が和尚に会いにいったのは、それを告げようとしていたのである。

けれど、和尚は相手にしなかった。この種のことはすでに山ほど見ている。

賽銭を盗んでも、構わず、返しても、構わない。

この解釈を和尚に証明してもらおうとすると、和尚は最後にうなずき、「その通り、盗んだ金は最後にみな戻ってくる。だから管理してもどうだっていうのだ?」という。

「なら、なぜ彼を相手にしなかったのですか?」と友人。

墓地と松、コノテガシワを見つめながら、和尚は「返すと、心が平安になる。あと何を言うことがある?」

沈黙がしばらく続き、和尚の話は禅のようであった。

中日両国の文化は、多くの事情が違うが、禅の悟りにおいては、その区別は少しもないだろう。

 

薩蘇

2000年より日本を拠点とし、アメリカ企業の日本分社でITプログラミングプロジェクトのマネジャーを務める。妻は日本人。2005年、新浪にブログを開設、中国人、日本人、およびその間の見過ごされがちな差異、あるいは相似、歴史的な記憶などについて語る。書籍作品は、中国国内で高い人気を誇る。文学、歴史を愛するITプログラマーからベストセラー作家という転身ぶりが話題。

 

 

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