都市化の駆け足  
 

文=陳言

陳言

コラムニスト、『中国新聞週刊』主筆。

1960年に生まれ、1982年に南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書が多数。

中国の都市化は、駆け足で進んでいる。

まだ農業戸籍と非農業戸籍を区別する戸籍制度を取っている中国では、都市化率は、全人口から農業戸籍の人口を引くだけで結果が出てくる。2000年の都市化率は、36%だったが、最新のデータでは、2008年末にそれは45.68%に上昇したと言う。5割を超えることは時間の問題であり、加速度的に都市化している中国は注目されるべきであろう。

先日、北京から225キロメートル離れた河北省の張北県に出かけた。ここで急速に都市化している状況を垣見した。

インフラ造成からの都市化

車を北京から180キロほど走らせ、張家口市を過ぎると、道は上り坂となった。海抜は急速に高くなっていく。アクセルを力強く踏んで、耳は少し痛みも感じたが、張家口市から張北県まで三十キロぐらいの間に、車は少なくとも1000メートルの高さを登り、ここの海抜はなんと1800メートルとなっている。張家口では植物はかなり緑色が染まっているが、張北は夜はまだ零度以下でたいへん寒く、植物もまだ深い冬の眠りにある。

高速道路から降りると、でこぼこ道になるだろうと思ったが、そうではなかった。ほとんど高速道路と変わりなく、広い県道だった。ただときどき馬車が路端でゆっくりと走っているのを見て、もう県道に出たと感じる。

「一年で県庁所在地にはすべての道路を整備した。都市部の面積は11.94平方キロメートルから34.2平方キロメートルに拡大し、人口はこれから7万人から12万人にも増加する」と県共産党委員会の呉永亮副書記長が言う。

中国はまだ少子高齢化社会になっていないとは言え、北京、張家口などの都会を別にして、張北県のような人口が37万人ぐらいの所では、果たして張家口市ではなく、また省の首都である石家荘市にも行かず、県庁所在地に集まるだろうか。

「教育、工業、商業があれば、人はここに集まる」と呉副書記長は説明する。高速道路のインターから3、4キロ離れた所では、県立中学校と私立中学校が同時に校舎、学生宿舎を建てている。並列した数棟の校舎は、数千人の学生は通える規模だとすぐわかる。しかも道を隔てて、県立、私立は同時に工事を急いでいる。「ちょっとした農村に行けば、中学校がない。または教師の数が不足している。少しでも優れた教育を受けたいと思い、毎年子供を県に出したいと希望者が多い。大型の校舎を作れば、それに応えていく」と呉副書記長は、農村での教育関連の要望に応えると同時に、人口が都会に集中してくることに注目している。校舎、宿舎の群れから目を離れて、そのすぐ近くに建てている団地を指して、「これは教育移民だ。お子さんが県の中学校、高校に通うようになると、親もまた都市に引越してくる」と呉副書記長は付け加える。

一校ではだめか。「張北では必ず県立、私立の二校を作る。県立だけだったら、どうしても非能率の面が徐々に強くなっていく。私立だけではまたあまりにも市場メカニズムで働くので、公益が軽視されやすい」と呉副書記長は気を緩まない。

工業団地は郊外へ

校舎、宿舎の周りに出来た住宅団地は、農村からの引越し人口を受け入れるまえに、もうかなり満杯となった。

平屋を中心とした市内の住宅は、今や解体して、新しい商業施設、住宅へ作り直している。多くの旧住宅にいた住民はここに引越してきた。

もともと張北は、張庫大道(張家口から庫倫-ウランバートル)の要所にあり、「貿易が盛んで、全省の冠と為す」と県史で記されている。茶葉、シルク、布、皮革、絨毯、椎茸、薬草などはこの大道を通じて、漢民族と蒙古族は交易をした。しかし、モンゴルが独立してから、中国モンゴルの貿易が途絶え、張庫大道も衰えた。戦後、張北は軍事的な要所であるため、対外開放もかなり立ち遅れた。「十年前まであまり二階建て以上の建物は見たことがない」と張北県の農村で副村長をした顔志剛は言う。

「県内ではテンサイ、ソバ、アマ、無農薬野菜などが産する。北京、天津に野菜を提供しているだけでなく、ソバなどは日本まで輸出している」と呉副書記長は誇り高く言う。もう一回、貿易、物流の要所に戻りたいと張北は願っている。

工業化へのテンポも速めている。市の中心部から本の少し離れた所では、面積が11平方キロメートルの張北県工業団地が作られている。「ハイテク・ゾーン、農業製品加工センター、現代製造産業ゾーン、倉庫物流ゾーンなどに分けているが、風力発電関連の企業はすでに製造産業ゾーンで生産が開始されている」と呉副書記長は言う。

安塔風電社の工場を見せてもらった。主に風車のプロペラとタワーとなる柱の部分を生産している。鉄製の柱は、直径数メートルもあり、プロペラは二十メートルは遥かに超えていた。

張北では5百万キロワット以上の風力発電資源が利用でき、2010年に風力発電能力は100万キロワット以上になるという。市内から十数キロ離れた風力発電所も見に行った。遠くから見ると、数え切れないほどの風車があった。青い空の下で白い風車はゆっくりとプロベラを回し、草はまだ黄色い。人や羊、牛の影はない。風が強すぎたためか、車のドアはなかなか開けられない。開けたら、今度はすごく後悔した。あまりにも強い風は、あっという間に体温を下げ、寒かった。「夏だったら、気持ちいいよ」と隣で慰めてくれている呉副書記長の言葉は微かに聞こえただけだった。

灯台のような観光用の風の塔に登った。見渡す限りの風車を通して、前方にあるはずの張北県は見つからない。さらにその南には張家口市や北京があるはずだが、もっと何も見えない。ここに来なければ、都市化は社会インフラの造成によって進められていることが分からないかも。

駆け足で都市化している中国では万博も都市をテーマにしている。張北は、農村から都市へ変貌する中国の都市化の一側面を物語ったものであろう。

 

人民中国インターネット版 2010年5月14日

 

 

 

 
 
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