文=高鑫
万博で芽生えた低炭素化意識
「万博の企画案を練り上げる頃には、低炭素化やエコといったコンセプトが取り入れられていました。2010年上海万博は中国が低炭素化を推し進めていく促進剤になることでしょう」
上海市常務副市長の楊雄氏は記者会見の場でこう話した。「“低炭素万博”は2010年上海万博のコア・コンセプトとなるだろう」と。
「低炭素化」の目標を達成するべく、呉志強氏を中心とした設計、企画チームは知恵をしぼり、このコンセプトを万博の会場選定、企画、運営、展示の全プロセスに導入した。
再開発以前の黄浦江両岸のことを覚えている人は大勢いる。外灘(旧称「バンド」)を除くその他の黄浦江の沿岸エリアにはすべて工業施設が立ちはだかっていた。「風が吹くと工業区に堆積していた煙塵と煙突の煙が市の中心部の空に飛んできた」という。そして母なる河――蘇州河は年間150日間、どす黒い色をして、異臭を放つ状態にあった。
2010年万博の会場が上海市中心部の黄浦江両岸エリアに決まると、この周辺に劇的な変化が起きた。会場建設予定地では旧市街地の開発計画を未来都市機能の計画と結合させる画期的なプロジェクトを実施。大量の既存建築物を整備し、建築面積38万平米の範囲内にある保護指定建築物の保存を行った。同時に1.8万世帯あまりの住民と272社の企業・団体の移転プロジェクトを実施し、旧居住区や埠頭の撤去、閉鎖を行い、環境汚染の著しい企業を立ち退かせたところ、同エリアの二酸化炭素は明らかに減少した。そして全面整備が行われた後の蘇州河には、魚が回遊し、ドラゴンボートレースが行えるほどの透明度が戻った。
「万博会場を建設するにあたり、中国が誇る庭園設計の粋を取り入れました。東南からの風が会場全体を吹き抜けるように設計し、いわゆる風の通り道をつくったのです。自然の風を大量に利用すれば空調使用量を減らすことが可能です。設定された成果を上げるため、私たちは大規模な風のシミュレーションデータを採用しました。これはヨーロッパで開催された万博では見られなかったもので、中国古代文明と現代科学技術の結晶と言えるでしょう」
万博チーフプランナー呉志強氏はこう解説する。万博会場計画では環境との調和をテーマとし、四つの大型緑地公園とその他の緑化景観を合わせた緑地総面積は100万平米を超える。
太陽光エネルギーの大量利用による二酸化炭素排出量の削減も万博プロジェクト最大の見どころである。ロングスパンの無柱空間を有する上海万博テーマ館では屋根部分に太陽光発電パネルがモザイクのごとくびっしりと敷きつめられ、ひし形18個、三角形12個のパネルからなる巨大ソーラーシステムが出現。宝石のごとく屋根の上でまぶしい光を放っている。また、中国館「東方之冠」では高さ68メートルの屋根にもこのソーラーシステムが嵌めこまれている。万博会場の太陽光発電利用量は計4.6メガワットに達する見込みで、これは現在、中国国内及びアジアで最大の建築一体化型グリッド接続ソーラーシステムである。計画ではこの二大パビリオンの太陽光エネルギー蓄電可能容量は累計3127キロワット。いったんこれが稼動し、二つの「エコ発電所」の年間グリッド接続発電量が284万キロワットアワーに達し、毎年約1000トンの標準炭が節約できる。永久的に残される二大パビリオンは、建築物とうまく融合されたこの太陽光エネルギー設備によって「グリーン万博」のコンセプトを具現していると言えるだろう。
会場内移動時の「二酸化炭素排出量ゼロ」は、もはや夢ではない。会場内で走行するシボレー・ボルトの電気自動車は本当の意味で「排出ゼロ、ガソリンゼロ」の車であり、低炭素技術の結晶といえる。
「この車はそれほど多くの燃料を必要としません。16キロワットアワーのリチウムイオン電池を搭載すれば、その発電量で64キロを走行できます」
上海GMの担当者はこう解説する。
「もしバッテリーパックを使い切ってしまったとしても、搭載しているガソリンや、エタノール燃料E85の排気量1.4リッター小排気量・高効率発電機を使って車を駆動させ、さらに数百キロ走行することが可能です」
万博期間中、上海では1000台以上の新エネルギー自動車がモデル走行することになっており、うち約300台がスーパーキャパシタ電気自動車と純電気自動車、200台が会場内で運行する燃料電池車、そして残りの500台がハイブリッド車を含む低炭素排出車で、万博会場周辺を走行することになっている。
また、高架の歩道や万博軸(EXPO AXIS)の景観大道など、人びとが密集する屋外エリアにはおがくずやピーナッツの殻、ヤシの殻、亜麻、茎などの植物繊維や粉末を原料とする新型エコ材料・WPC(木材・プラスチック複合材)が採用される予定で、これにより100パーセントの再利用が可能となる。さらに圧縮空気の技術を応用したエコ型ごみ収集システムは、来場者が投入口に捨てたごみを自動的に梱包し、万博会場から搬出することが可能である。そのほかにも会場内に設置された夜景ライトアップ用照明の80パーセント以上にLEDを採用することで世界最大のLEDモデルエリアとなり、その消費エネルギーは従来の照明の70%で済む。
会場建設を担当するエンジニアの言葉を借りれば、「万博会場のレンガ一つ、瓦一個、車一台、電球一個にいたるまで、最新省エネ技術が応用されていないものはない。ここには世界最先端の省エネ、環境保護、エコ技術が凝縮されていると言っても過言ではない」という。専門家の推算によると、会場内の低炭素化対策により、万博期間中の二酸化炭素排出量の60~70%が相殺される見込みである。
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