陳言=文
|
陳言
コラムニスト、『中国新聞週刊』主筆。
1960年に生まれ、1982年に南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書が多数。 | 上海万博会場へ足を運んだ。5月中旬の上海はもう夏の盛りかと思っていたが、たまたま雨が降ったためか、とても涼しかった。7000万人の来場者が見込まれているので、毎日ごったがえすほどの人が殺到し、ゆっくり見られないのではないかとも思ったが、そうでもなかった。とくに浦西の黄浦江岸にある企業パビリオンは、日本産業館を除いて、ほかのところはだいたいすぐ入れるし、ゆっくりと見られた。
一日だけの万博見物なので、小雨の中、日本産業館の外で二時間あまり待つには忍耐力が必要だ。お互いに知らない人同士、もくもくと待ち、ほんの少しの隙間ができると、すぐ前へ進む。だんだん入り口に近づいた人の笑顔を観察するだけでも、気持ちはすがすがしい。日本製品を販売している売店もすこぶる人気があり、食べ物、記念品などが飛ぶように売れていた。
40年前大阪ではすでに万博が開催された。その時地元大阪企業はいろいろなアイデアを出して参加したが、中国ではどうだろうか。中国鉄道館などを見た。新しい映像をふんだんに使って最新の中国鉄道技術を紹介したのは非常によかったが、今後百年、数千年先にも残していくというアイデアは、私の見たいくつかのパビリオンにはついぞなかった。
5000年後の人に残す現代文化
万博の会場でパナソニック(中国)有限公司経営企画部の徐さんに出会った。日本館をトヨタ、キャノンなどの大手企業といっしょにサポートしているパナソニックは、主に映像機器を中心に出展したそうだ。一枚の畳よりも大きいプラズマテレビは、三枚つないで、トキ保護の物語を来場者に熱く語った。日本館にある茶室、小さな屏風など、文化、生活の香りが高く、内容も面白かった。
40年前に大阪で万博を開く時にも、パナソニックは何か奇抜なアイデアを出したのではないかとの私の質問には、徐さんは、「5000年後の人に1960年代までの文化業績を残したいと思い、タイム・カプセルを当社が作ったと聞いています」とあっさりと応え、聞いた本人の私をびっくりさせた。
今から5000年前といえば、エジプトでは初期の王朝が興り、国家がそろそろ始まろうとする時期だった。中国ではこの上海ではなく、長江中流にいくつかの古代文化が現れたが、文字で記されるような歴史には記録されていない。これからの5000年、1970年時点から数えると、6970年に、その時に生きている人間が、現在のわれわれを見ることと、われわれが今日、その良渚文化の陶器を見るのとどれほどの差があるだろうか。集団であれ国内であれ平和時にはちょっとした食べ物、権力には目を奪われ、外の世界には大した理解もなく、戦争を数千年間やり続けてきたのが人類の歴史でもある。5000年後の人々は、「5000年前の人間は本当に何を求めていいかよくわからず、見識もあまり持たないものだった」と思わないだろうか。
せめてそう思わせないためにも、今の文化を残して、その5000年後の人間の理解に役立つようにありたい。そう当時、まだ松下電器という社名だったパナソニックは考えたのだろう。
万博には新技術、新文明の創出をモチーフにした展示があまりにも多い。会場を歩くと、外形の変化に富んだパビリオンは、どれもきれいで、人のこころを惹きつける。しかし、今から5000年後の人間にメッセージを伝えていくことなどを徐さんから聞いて、その奇抜なアイデアにはしばらく言葉もなかった。
5000年のスパンで考えた環境
5000年前に地球上には人口総数で500万人はいただろうか。エジプトではピラミッドを作るときには、数万人を駆り出されたといわれるが、中国の長江流域の古代文明はだいたい数十人の部落で人々から活動していた。
5000年後の地球上では果たして60億も百億もの人間が生きているだろうか。5000年のスパンで考え、企業はどのように次の世代、人類社会に立派な環境、快適な生活を残していくのか、万博を通してそのアイデアが語られなければならない。
多くの国のパビリオンは、観光、食生活、その国の経済発展を主眼にして展示品を並べているが、日本館では絶滅の危機に直面しているトキを中日両国の学者、市民の努力によって徐々に数を増やしてきたストーリーが映像などを通して語られている。ともに未来に向け、国境を越えて努力していこうというその呼びかけに、私は感動した。
多くの日本企業は、環境保全、省エネ、さらには太陽エネルギー、風力発電などの新エネルギーの研究開発に力を入れている。日本企業はモノづくりに励み、それは新しい段階、自然と調和の取れたモノづくりに気配られている。産業革命後の大量生産、大量消費の時期から今、われわれは環境の面でも持続的に支えていけるモノづくりへと変えようとしている。日本企業はその先鞭をつけているという感じは日本館の見学から得られた。
中国企業の従業員や経営者、地方自治体の官吏などは、普通の来場者としても、また公務の一環としても、日本館などを見るはずである。日本の展示内容から環境関連の知識、コンセプトなどもきっと多く得られるに違いない。
5000年先のことを考える環境重視など、万博での日本企業の姿勢は、来場者の共鳴を得ると思う。日本館、日本産業館の盛況を見て、それを強く感じることができた。
人民中国インターねっと版 2010年6月9日
|