陳言=文・写真
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陳言
コラムニスト、『中国新聞週刊』主筆。
1960年に生まれ、1982年に南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書が多数。 | 上海万博の会場はさながら世界を濃縮したかのようだ。色とりどりのパビリオンは、国や企業のショーウインドウとも言えよう。会場から市内に出ると、スターバックス、グッチなど外国ブランドの店が数多く見られ、百年前の租界地に建てられた洋風の建物と同様、それらは今日の上海の日常に溶け込んでいる。
数百年あるいは千年以上の歴史を持つ上海近隣の都市である蘇州、無錫、杭州などに多く見られる中国式の建物も上海にないわけではない。市の中心に近い静安寺、城隍廟はその代表である。しかしそれらは上海の象徴にはならない。昔と言えば、外灘(バンド)や南京路であり、今日では、浦東の高層ビル、テレビタワーなどが上海の代表であろう。ここ上海は、おごそかな中国式の建物より、世界最先端の建築を展示する場なのでもあろうか。
中国文化を感じないというより、むしろ上海は初めから近隣の都市とまったく違う発展様式を求めてきた。ここでは世界を濃縮することが求められている。
上海の15年とロンドンの150年
地元上海の大学である同済大学で都市計画学を教えている呉志強教授は、「上海が15年をかけてやった事業は、ロンドンでは150年間でやっとやり遂げたものだった」と語る。呉教授は自慢して語ったというよりもあまりにも速い上海の発展と変貌に驚愕しているのだ。ロンドンは都市計画にしたがって世界でも独特の都市を作り上げたが、上海にはそれが十分にできたとは言えない。
万博が開幕してから、市内では工事現場がすっかり姿を消した。突貫工事で完成させた道路などは万博閉幕後にも、ほんとうに長く使えるものだろうか。また補修工事があちらこちらで始まるのではないか。この都市は、五十年、百年も使う道路などを設計の段階でどれほど考慮しただろうか。すぐにも新しい地下鉄を作らなければならず、また下水、通信関連の地下トンネルなども必要になる。とにかく都市の発展に追い付かないので、これまでに普通の人の見た上海は、たえず道路工事をしていた。
150年で一つの都市を作っていくこととなると、全体で投資はいくらだったかは計算しにくいのと同じく、上海でも万博のためにインフラの再建などにどれほどの投資したのか、こちらにももろもろの説がある。例えば万博全体のコストは550億ドルという試算がある一方、950億ドルという民間企業での試算もある。550億ドルでもほぼ北京五輪に使った費用の倍である。
この巨額の資本投下によって上海にもたらされた変化は、おそらく1850年ごろのロンドンの写真を取り出して、現在のロンドンと比べてみた場合と、それほど違いはない。上海の変化は十五年でも隔世の感がある。
ただロンドンと違うのは、ロンドンは英国の代表都市になり、その建築、市民生活も英国の特徴を持っているが、上海は、世界のすべての特徴をこの都市に集めたことである。中国式の建物、中国的な暮らし方などはここでは求められない。世界をここに吸収し、世界が自発的にここに集まってくる。しかも時間をかけて徐々に世界を吸収するのではなく、都市が形成される段階からそうであり、それが15年前からいきなりスピードを上げ、貪欲で大きな口をあけてぱくぱくと世界を飲み込んできたのだ。
この現象は、上海がもっとも典型的であるが、また中国の多くの都市にもそれなりの類似点がある。スターバックス、ウォルマート、マクドナルドが中国の多くの都市に進出しており、その中の相当の部分は、企業が進んで進出したというより、むしろ地方自治体が、積極的にそれらの企業を誘致したものなのである。そのような企業が進出しないと、とても近代化した都市とは言えない。そこで各自治体はそれらの企業の進出を熱烈歓迎してきた。
後発のため、加速度的な発展もできた。同時にあまりにも速い発展によって独自の色をあまり出せなかった。万博を契機に、上海は初めて文化、オリジナリティーを求めていくようになるだろうと思われる。
金融のウエートがより高まる可能性
上海発のカルチャーはどんな形で発出されるのかは、しばらくは観察が必要であるが、中国最大の証券取引所は上海にあるので、金融の面では上海はますます重要な役割を果たすようになり、より金融のウエートを高めていくだろうと、最近の上海を見て、そうした感触を得る。金融は世界経済の最先端を走っているので、金融関連の変化のテンポはより速まり、それは文化、オリジナリティーの追求より明確に出てくるだろうと思われる。
米ウォール街にある「チャージング・ブル」のデザイナーは、ほぼ同様の彫像を上海でも作り、外灘に設置した。上海あたりではどこにでもいる水牛、あるいは北方にいる黄牛とは違って、欧米人のイメージにある牛(ブル)であるが、上海の人は喜んでそれを受け入れる。地元にいる水牛、黄牛は上海の普通の人の概念にはもともとなかったのかも知れない。
株取引などはすでに一般市民もかなりやっているが、先物取引、指数取引などもこのごろの上海では行われている。口座だけでも開設するためには50万元以上の人民元を用意しなければならないが、口座を開く投資家を各証券企業は募ってきた。モルガン・スタンレー社のアナリスト婁剛氏は「本格的な市場に向けて重要な一歩を歩み出した」と評価する。西側金融市場では普通の投資家が敬遠する先物取引、指数取引なども、上海では普通に行われる可能性が出てきている。
表ではスターバックスやウォルマートであるが、目に見えないところでは金融関連の変化がハイスピードで進んでいる。「チャージング・ブル」が上海にやってくると、そのブルで示される強気の金融は、国際色の濃い上海だけにとどまるのか、それとも上海から中国全土に広がっていき、さらには世界に跳ね返っていくのだろうか。中国独自の色より元来世界の色合いを吸収してきた上海に、これからどんな動きが出てくるのか、注目したい。(原文日本語)
人民中国インターネット版 2010年6月13日
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