万博に舞い降りた鳳凰  
 

魯忠民=文  薛峰 倪欣欣 魯忠民=写真

「物には神聖なる魂が宿っている。この神聖性がこれら二羽の鳥の撒き散らした一枚の羽毛からもたらされ、労働者の手で手渡されてゆく」 ――徐冰

2010年3月27日午後、北京にある「今日美術館」前に、それぞれ長さ18メートル及び17メートル、重さ12トンに達した二羽の大きな「鳥」が、六台のクレーンに引き上げられ、にぎやかな北京CBDの建築群を見下ろした。これは現代アーティスト徐冰と彼の創作チームが2年がかりで、都市建設の過程で出る建築廃材、道具、労働者たちの生活用品を用いて、心をこめて作り上げたインスタレーションアートの傑作「鳳凰」である。一カ月後、この二羽の「鳳凰」は上海に飛んでゆき、万博会場で最大の芸術作品となった。

鳳凰」は北京CBDエリアの高層ビルの間を舞い飛ぶ。徐冰はここが「鳳凰」にもっともふさわしい空間であると考えている

今年55歳になった徐冰は、原籍は浙江省だが、重慶市に生まれ、北京で育った。「上山下郷」運動の際に農村に送られて生産隊に参加し、農民として働いたのち、1981年に中央美術学院に入学、卒業後そのまま教師として学校に残り教鞭を執った。1990年代の初めにニューヨークに移住したが、2008年に帰国、中央美術学院副院長となった。国際的には、徐冰は蔡国强、古文達、黄永砅とともに、中国モダンアートの「海外の四天王」と呼ばれる。徐冰の最も代表的な作品は、約20年前に発表した「天書」であろう。漢字の部首を再構築して「創作」した誰にも読めない4000字の漢字を巨大な書物に刷り込み、全世界を震撼させた作品である。

帰国後の徐冰は、中国のこの数年の日進月歩の変化を目の当たりにして、とりわけ各地の大型の土木工事、すさまじい勢いで展開される大規模な建設プロジェクト、数々のモダンで豪華なビルが、苦しい作業環境におかれている労働者たちの手の中から生まれてくることに、ひどく心を揺さぶられた。

そこで、彼は工事現場に捨てられた大量のスクラップで芸術作品を制作し、きらびやかに輝いている建物の間に置くというアイディアを思いついた。創作チームの協力のもと、彼はスクラップを利用し、労働者の生産あるいは生活のツールを材料に、二羽の巨大なスチールの「鳳凰」を作りあげた。この鳳凰は掘削ドリルのくちばし、ヘルメットのトサカ、さまざまな金属工具をくくりつけたガラスタンクが首、ブリキのバケツを巻いて羽毛にし、ショベルカーのバケットがその爪と化し、工事現場を囲っている布の尾が風にはためいている。

スクラップの金属は、徐冰の巧妙な設計及び全体の構造に対する正確的な把握で、壮大かつ洒脱で力強さに満ちた外観となっている。その姿は伝統的かつ現代的であり、人々を震撼させる力に富み、「腐り果てたものに奇跡が宿った」といっても過言ではない。徐冰の「鳳凰」は、中国の伝説における吉祥の象徴たる神鳥のみならず、百鳥の王であり、超自然的力を持つトランスフォーマーでもある。

6台のレーンが「鳳凰」を地上15メートルの高さまで吊り上げた。壮観な風景である

 「鳳凰」の細部

「この鳳凰がロマンチックで魅力的な美しさをたたえていると同時に、勇猛で、ある種の神聖、不思議さ、非現実的なものを帯びたものであってほしいと考えています。簡単に手に入る安価な材料で飾りつけられていながら、尊厳をまとい、それでいて傷だらけで痛々しさを感じさせるところが、この鳳凰が感動を呼ぶところなのです」

徐冰は、この作品を通じて中国のきらびやかな成功の背後にある苦しい労働を表現したいという。「涅槃のフェニックスのように、灰の中から天に向かって舞いあがるのです」

徐冰の鳳凰は、欧米のインスタレーションアートのスタイルを採用してはいるが、表現されているのは中国芸術のクリエイティブな魅力であり、中国人の感情や願いをとらえている。鳳凰のイメージそのものは中国で誕生したものだが、鳳凰は烈火の試練と苦しみを経て、再生の過程に昇華し、輝くという象徴的な意味は、中国のみならず、世界中で長い歴史をもつ多くの文化にこの「鳳凰」と似たイメージがある。評論家らによれば「『鳳凰』を生み出す理念は、多くの中国社会の現実と発展状況課題を説明することができるもので、さらに社会学的、文化的な意義も備えている」という。

上海市万国博覧会の会場に舞いこんだ「鳳凰」は、人類の都市化の過程における経験と昇華のメタファーであり、この万博のテーマ「より良い都市、より良い生活」と互いに呼応している。世界各地からやってき一人一人が、肌の色、文化が異なっても、この「鳳凰」のイメージに向き合った時、誰もがここから生命のエネルギーを感じるのではないだろうか。

五月、上海万博が開幕し、徐冰の「鳳凰」も北京を離れて上海にやってきた。作品の完成のずっと前に、万博メインストリートの彫刻プロジェクトを引き受けたデザイナーのミッテラン氏が「鳳凰」を目にしてひどく興奮し、それをメインストリートに置くことを決めた。しかし、「鳳凰」の体積が大きすぎ、重すぎ、セキュリティなどの問題解決が困難であったことから、残念ながら万博メインストリートに飾られることはなくなってしまった。

「鳳凰はどこに置こうとそこにふさわしいものになります。いったん嫁いだらその家、その夫に従うというのと同じことです」

「鳳凰」は上海万博の宝鋼館に展示された アシスタントとともに制作について検討する徐冰

この「鳳凰」と環境の関係は非常に緊密なものであり、そのためどこに置かれるかによって、それぞれ異なるイメージをかきたてるものなのかもしれない。最終的に、この「鳳凰」は「宝鋼館」内の注目のシーンとなった。鉄鋼の鳳凰が鉄鋼の工場と一体となったのは、ある種の回帰、またある種の宿命といえるものかもしれない。

筆者は北京でこの「鳳凰」を見たことがあり、とりわけ彼らが北京の上空を飛ぶ壮大な姿が好きだった。しかし、宝鋼館の中では、空飛ぶ鳳凰が鉄製の鳥かごに閉じ籠められ、まだ変容の過程にあるかのようである。まさに現代の中国のごとく、雄姿の勢いは明らかだが、真の繁栄にはさらに長い道を歩まなくてはならない。万博閉幕時には、「鳳凰」は再び自らにふさわしいポジションを見つけ出し、青い空と白い雲の間に飛びたってほしい。中国もまたこの鳳凰と同じように、絶えまなく鍛錬や変容を経験し、輝かしい未来に向かってゆく。確かに、変容の過程もまた鳳凰がもっとも人々の心を揺り動かし、もっとも美しい状態であるといえるのかもしれない。なぜなら、それが希望に満ちあふれたものであるからだ。

 

人民中国インターネット版 2010年6月30日

 

 
 
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