孫雅甜=構成・写真
6月20日から21日、中国2010上海国際博覧会の「科学技術イノベーションと都市の未来」テーマフォーラムが江蘇省無錫市で開かれた。万鋼全国政治協商会議副主席・科学技術部長とスパチャイ・パニチャパック国連貿易開発会議事務局長が開幕式に臨み、上海万博出展各パビリオンからの代表、世界からやって来た各分野の専門家や科学者が一堂に会し、科学技術イノベーションが未来の都市の安全、発展、教育、医療、競争力などの面で果たす役割をめぐって活発な議論を行なった。果たして近い将来、科学技術イノベーションは人々に、より良い都市生活をいかにもたらすのだろうか? フォーラムのゲストたちの啓示に富んだ発言に耳を傾けてみよう。
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「科学技術イノベーションと都市の未来」テーマフォーラムの会場 |
万博の科学技術イノベーションが未来のより良い生活をリードする
李光明 上海市万博科学技術促進センター副主任、同済大学環境科学・工程学院副院長
上海万博では数多くの科学技術イノベーションの成果を目にすることができる。例えば、テーマ館は屋上にソーラーPV(Photovoltaic)発電システムを備えた建築であり、エコ建築の新しい発展方向を示している。また万博軸は地下スペース利用および陽光、雨水など自然資源の利用面において未来の都市の建設計画にヒントを与えた。ほかにも、多くのパビリオンでは3D、4D技術を活用している。
来場者は文化と科学技術を見学すると同時に、未来の都市生活を展望する。これまで、万博で展示された数多くの新製品や新技術は私たちに大きな変化をもたらしてきた。では上海万博は都市にどのような影響を与えるのだろう? ベストシティ・プラクティス区はリアルに生き生きと人類の未来の都市生活を描き出している。たとえば上海の「エコの家」、英国のゼロ炭素館、ドイツの「ハンブルクの家」などがそれだ。これらのパビリオンは近い将来の都市建築と居住環境を生き生きと語っている。また、会場内で見られる各種先進的通信、都市環境管理、ロボットなどの技術は、未来の都市の発展や科学技術の利用を大いにリードしてくれるに違いない。
地下リニアモーターカーは未来の都市交通システムとなる
銭七虎 解放軍理工大学教授、中国工学アカデミー会員
現在、中国の都市はさまざまな困難や挑戦に直面している。土地資源が限りあるのは言うまでもないが、現在のように飛躍的な都市化が進んでいくと、近い将来、地上で利用できる土地はゼロになってしまうだろう。そして、都市の交通は温室効果ガスやその他の大気汚染ガスの重要な排出源であり、主要な石油消費先でもある。このため、都市交通は環境汚染を減らし、エネルギーの枯渇を遅延・回避させる重要な責任を背負っている。
では、未来の交通はどのような対策によってこれらの問題を解決するのだろう? 未来の交通は地下へ向かうのである。将来は地下で巨大な市内・都市間交通システムおよび物流システムが構築されるはずだ。このような地下交通システムは地上の土地を占有しないため、土地資源が節約できる。しかもエネルギーの消費は少なく、低炭素かゼロ炭素である。
未来の市内・都市間交通はそれぞれ、中速・低速および高速地下リニアモーターカーである。リニアモーターカーは軌道との摩擦がないため、エネルギー消費は現在の地下鉄よりはるかに低減される。そして、電力で駆動するリニアモーターカーは温室効果ガスを生まず、空気に対する汚染も生じない。さらに電力は太陽光、風力、地熱などの新エネルギーによってまかなわれるので、汚染のない清潔な交通方式といえる。また、地下リニア交通システムは物流システムの構築にも用いられる。地上での輸送が地下に移ると、市内からトラックの姿が消え、都市交通最大の難病の一つである渋滞問題も解決しやすくなるだろう。
内服カプセルでワクチンの皮下注射に代わる
バリー・マーシャル 西オーストラリア大学の臨床微生物学教授、二〇〇五年ノーベル生理学・医学賞受賞者
現在、ヘリコバクター・ピロリ菌を利用して新種のワクチンを開発している。つまりこのワクチンを人体の胃腸内で一時的に感染させ、人体にこの菌に対する免疫力をつけさせ、最終的にはこの頑固な細菌を人体から一掃させ、ふたたび感染させないようにしたい。
さらに、このワクチンは内服カプセルにして、従来の皮下注射に代える努力もしている。私の孫がワクチン注射をこわがるのを見て、なんとか恐怖から逃れさせたいと考えたのが内服ワクチン開発の動機のひとつだった。あと十年、二十年後にはヘリコバクター・ピロリ菌だけでなく、麻疹、水痘、インフルエンザなどのウイルスに対するワクチンも内服カプセル化が可能になるだろう。人々はドラッグストアやスーパーマーケットで買うことができ、現在のように行列待ちして医師に注射してもらう必要はなくなる。注射するより錠剤やカプセルでワクチンの接種を行ったほうがずっと人々に喜ばれることだろう。
都市の復興に人と人のつながりが欠かせない
室﨑益輝 日本関西学院大学総合政策学部教授
都市をつくる科学技術について述べる。一九六〇年代から九〇年代にかけて、日本は高度な成長を遂げた。当時日本人は先進的な科学技術でたくさんの高速道路と高層ビルを建設し、海に埋立地を造成した。しかし、一九九五年の阪神・淡路大震災で現代都市のもろさは一瞬にして明るみに出た。高速道路が倒れ、人工島が泥海になってしばらく住めない状態になった。この地震で私たちはそれまでの科学技術を盲信するやり方を反省し始めた。私たち自慢の科学技術で造ったこれらのものはどうしてこうも簡単に崩壊したのか? 技術を利用してそれを造ることは決して間違ってはいないが、安全という視点が欠落していたのではないか。
日本の都市計画の大きな特徴は都市から自然を奪い取ったということである。森を削って町をつくったり、河を埋め立ててその上に高速道路を建設するなどしてきた。これが被害を大きくする一因となった。つまり自然の力で人間の命を守ることができなかったのである。
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上海のリニアモーターカー(東方IC) |
このため、震災後の都市復興は、単に生活や地域を元に戻すだけでなく、自然との共生、高齢者の安全と健康という問題点を解決する中で行われなければならない。また、復興というのは、家の復興だけでなく、地域の経済の復興、コミュニティーの復興も考慮して、それらを一体化し、全面的に綜合的に考えなければいけない。
私の結論としては、復興で理想的な町をつくることは非常に重要だと思う。それはどのような町かというと、緑豊かで快適で文化のある町、人と人とがつながりあった町、そして環境の持続性を持った町でなければならないと思う。例を挙げると、町の道路を少し広げて、せせらぎの流れる水路をつくる。水路には金魚が泳いでいる。日曜日になると、近所の人がみんなで小川の掃除をする。地震が起きると、この川の水が防火用水やトイレの洗浄水に変わる。つまり都市の中で水を取り戻しながら、住民のみんなでマネジメントするわけである。また、住民が団地の真ん中に畑をつくりサツマイモ、大根やネギなどを自分の手で育てれば、農業を通し都市の中での土地と人間の結びつきを実現できるはずだ。
蛍光灯による水銀汚染をどう解決するか?
葉銘漢 中国高等科学技術センター学術主任、中国工学アカデミー会員
私たちが普段よく使っている省エネ電球は蛍光灯だが、実はその中には微量の水銀が入っている。蛍光管が割れると、水銀が漏れ周りの環境を汚染してしまう。とくに人口が集中している大都市では、廃棄された蛍光管に適切な処理措置を加えなければ、汚染が積み重なり深刻化していくに違いない。
いま省エネ電球の使用が提唱されているが、市民にその中に微量の水銀があると指摘する人はいない。店で販売される商品の包装にも、廃棄後の処理方法についての記載はない。2009年、中国の省エネ電球の生産は二億個だったという。すべてが国内で販売されており、これからも毎年この販売量だとすれば、いずれ廃棄量も二億個になる。二億個が一個ごとに五ミリグラムの水銀が入っているとすれば、全部で一トンの水銀が漏れてしまうかもしれないのである。
ここで私は、都市ができるだけ早く関連する処理法を打ち出すよう呼びかけたい。例えば、廃棄省エネ電球を回収する専門地点を設けるなどである。もちろん、一番いい方法は水銀汚染のない新しい電球がそれに取って代わることだろう。今のところその可能性が最も高いのは、LED(発光ダイオード)照明である。上海万博ではすでにLED照明を大量に導入している。現在のコストはまだ蛍光灯より高いかもしれないが、科学技術の発展の動向からみれば、あと数年経つと蛍光灯に代わって新たな主な照明器具になると思われる。
人民中国インターネット版 2010年7月5日
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