都市化と企業の成長  
 

陳言=文

陳言

コラムニスト、『中国新聞週刊』主筆。

1960年に生まれ、1982年に南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書が多数。

「弊社は精力的に上海万博、北京五輪の施設に製品を売り込みました。都市化が進んでいる中国では、企業に高度成長のチャンスが与えられています」と、唐山恵達陶磁(集団)社の王彦慶社長は満面の笑みを浮かべて話す。北京五輪と同様、上海万博にも恵達の洗面所用の衛生陶磁器が納入されるなど、同社の製品は国のイベントを通じて知名度を高めている。

万博会場の企業パビリオンからは、恵達に限らず、都市化が中国企業の成長をいかに促進したかを垣間見ることができる。

民営企業発展のチャンス

「石炭を産出することから、唐山はもともと中国では磁器の名産地でした」と恵達の王社長は唐山での磁器生産の歴史を強調する。石炭層の真上の土は磁器を作るのに適しているといわれ、唐山では古くから陶磁器産業が発達し、食器など日用陶磁器の一大産地となっている。

恵達もそうした食器などを生産する企業の一つで、目立つところはあまりなかった。どちらかといえば、農村企業であり、生産規模も技術も当時の国営企業と比べると、かなり見劣りがした。

食器で他の企業と競争しても勝ち目はなさそうだと、「私の前任の王恵文社長は、それよりも水洗便器を作ろうと考えて、製造・販売しましたが買う人はいませんでした。社長は、製品を背負って汽車に乗り、河北省内から近隣の省にも足を延ばして、一つまた一つ売り歩きました」と王社長は回顧する。そして、1988年ごろからは洗面所用製品の生産も開始した。

転機は都市化とともにやってくる。唐山の都市化が進み始めたころには、河北省省都の石家荘市や比較的近距離の大都市である天津市、北京市も都市の規模が急速に拡大していた。人口は都市に集中し、大都市の郊外には住宅団地が雨後のタケノコのように出現した。

同時に、水洗トイレに使う便器や洗面台の大量のニーズが生まれ、浴槽もまた中国人の家庭に導入され始めた。セメントの床はいつの間にかタイルに変わっていった。恵達の製品も市場のニーズに合わせ、品種も生産量も飛躍的に増加していった。2010年現在、同社は年間900万個の生産能力を備えるまでに成長した。

都市化は、すべての企業に発展のチャンスを与えたが、それをつかんで本格的な発展を実現した企業はそれほど多くはない。「市場が拡大している時こそ、優れた品質の製品が買われていく」というのが王社長の考えだ。中国国内では一度の洗浄に12リットルの水を使用する便器が一般的だが、恵達はまずそれを半分の六リットルにした製品を開発、現在では4.5リットルのものを中心に生産している。また、技術開発によって汚れにくい磁器も製品化した。

当初、同社では品質の優れたものには「一等品」のスタンプを押していた。つまり、その下には二等品、三等品など安くて品質はそれほど優れないものもあったのだ。本当に優れた技術のもとでは、二等品、三等品はありえないはずだと王社長は考え、まず在庫している三等品、二等品をすべてハンマーでたたき壊した。「その時に、私たちはすべてを一等品に集中するのだと決意したのです」

北京五輪の前までに、すべての製品の高品質を保証すると恵達は宣言した。ブランド力はそれによって高められた。製品の五輪施設納入を順調に成功させると、その後は全社を挙げて上海万博への売り込みを行った。

都市化は、品質、ブランドなどに優れた企業にチャンスを与えている。もし、恵達の製品が今でも品質的に優れたものもあれば粗悪なものもあるという状況では、とても中国トップクラスの洗面所用の衛生陶磁器メーカーにはなっていないだろう。

海外進出で技術力を高めた

同社受付の壁面には、黒い素地に白い碁石で作られた世界地図があり、製品の販売をしている国の首都には、赤い石がつけられている。「世界を碁盤と考え、一つの飛び石を打ってから、次の石をどこに持っていくかを考える」と王社長は説明する。

製品は、すでにオーストラリア、マレーシア、韓国、米国、中近東などに輸出されている。技術が高くなると、今度は外国の陶磁器メーカーが自社ブランドの製品の生産を依頼してくる。外国の著名な磁器メーカーの製品も、恵達がOEM(他社ブランドの製品を製造すること)で作るようになった。しかし、「生産能力、技術水準はOEMで認めてもらいましたが、それはあくまでも相手先のブランドで私たちのものではありません。世界に打って出るためには、どうしても自社ブランドが必要です」と強調する。

都市化による衛生陶磁器需要の高まりが恵達にチャンスをもたらした

輸出品は、一時的に生産の中心となった。成熟した外国市場では粗悪品は安くしても売れない。外国の生活を熟知したその国のデザイナーに製品設計を依頼し、同社でも最高の技術を集中してそれを製品化する。そうすると、恵達ブランドの製品もよく売れるようになった。

しかし、人民元為替は、2005年以降二割も高くなり、技術、品質だけでは海外での収益を確保するのが難しくなっている。王社長は「2005年から国外・国内の市場双方を視野に入れ、国内の急速な都市化に合わせて、国内の方に重点を置いている」と、外国市場で十分鍛えられた恵達の国内回帰を説明している。

「1982年に従業員数人で設立された恵達は、『三十而立(三十にして立つ)』の節目まであと二年あります。外国の百年以上の歴史を持つ同業他社と比べると、私たちは若いですが、すでに恵達百年プランを持っています」と王社長は、同社の未来に自信をみなぎらせている。

28年前に28万元で設立された恵達は、現在では17の窯を持ち、従業員数約一万人、総資産17億元を有する中国でもトップクラスの衛生陶磁器メーカーに成長した。かつて唐山を代表した国営陶磁器工場は、今では地元でもあまり名前を聞くことがない。

万博会場には、洗面所をはじめどれだけの恵達製品が使われているだろうか。恵達のように万博会場に製品を納入した中国民間企業は何社あるのだろうか。パビリオンを出展したり製品の展示を実現した民間企業はいくつあるのだろうか。都市化のテンポを速めている中国では、万博会場からも民間企業の成長をうかがうことができる。

 

人民中国インターネット版 2010年7月8日

 

 
 
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