エコで豊かな農村、都市のあこがれ
――滕頭館に見る自然と調和した現代の農村
 
 

孫玲=文

浙江省寧波市の管轄下にある滕頭村。生態環境の保全がゆきとどき、「農村エコツアー」で多くの都市住民が訪れる「5Aクラス観光地」(CFP)

「滕頭モデルケース」は世界の二十八カ国八十の都市・地区から応募のあった百十三のプラクティスケースのなかでも突出していた。滕頭館は今回の万博出展館中、唯一の農村をテーマにしたパビリオンとして多くの来場者を迎えている。上海万博のテーマは「より良い都市、より良い生活」だが、農村の人々が望むのは「都市の住民があこがれるような素晴らしい農村」なのである。

「滕頭村はとても小さな存在です。東中国海の海辺にあり、地図上で見つけるのは難しい。滕頭村は、しかし、とても大きな存在でもあります。代々村人たちが望んでやまなかった、そして全人類が追求してやまない偉大なテーマ――人と自然との共生、人と人との調和を実現したのですから」

二〇〇七年、ウィーンで開かれた国連の「世界の調和の取れた村ベスト10」表彰式の台上に立った傅企平滕頭村党委員会書記は胸を張って、このようにあいさつした。

一九九三年に国連環境計画(UNEP)「グローバル500賞」を受賞して以来、滕頭村は「全国文明村」「全国環境教育基地」「全国生態模範区と5Aクラス観光地」など四十以上の称号を国家から授与されてきた。

かつての貧しい村はどのようにして世界の農村の模範になったのだろう。滕頭館の陳文飛常務副館長は記者に次のように語ってくれた。

「滕頭館は寧波市の新農村建設の成果そのものであり、同時にどのような新しい農村生活を構想しているかという私たちのプランそのものでもあります。上海万博のテーマは『より良い都市、より良い生活』ですが、私たちが描く農村像は『素晴らしい農村、都市のあこがれ』なのです」

観光客が後を絶たない小さな村

滕頭村にある優良品種育成センター(CPI)

滕頭村は浙江省寧波市管轄下の奉化市(地区級の大きな市に統合された一ランク下の市)郊外にあり、全村の世帯数は三百四十三、総人口は九百人にも満たない。村の面積は二平方キロ。こうした小さな規模の村は中国に数えきれないほどあるが、滕頭村が「中国農村の奇跡」とまで言われるのはなぜなのだろう。

村では前世紀の九〇年代初めに、ウリや果樹、苗木の農村生産高リンク請負制を全面的に行い、相次いで農業公司(村民共同出資の会社)、自然食品公司、園林緑化公司を設立した。二〇〇二年には「農村エコツアー」の看板を掲げて都市からの体験旅行客を呼び込む観光業も始めたのである。二〇〇九年の村の総生産は四十億二千百万元。村民一人あたりの年純収入は二万四千元に達している。

「金の山、銀の山も必要だが、もっと必要なのは汚染のない川、緑いっぱいの山だ」これが滕頭村発展のスローガンである。請負生産を始めると同時に村には環境保護委員会が設立され、村内の環境美化に力を入れた。村が有名になると多くの著名人が訪れるようになったが、そのつど訪問者に植樹をお願いした結果、今では木々が青々と茂る並木道が出来上がり、村の景観に花を添えている。

家々にはソーラーシステムが備わり、公衆トイレは水が循環再利用される水洗式で、娯楽場の前には大気汚染測定器が置かれている。土ぼこりの道や屋根の低い平屋の家といった農村のイメージはすっかりぬぐいさられ、アスファルト舗装のまっすぐな道が走り、別荘のような家々が桃と柳の並木越しに続いている。清らかな水が流れる川にはカモが遊び、青い空を白いハトが飛ぶ。江南の伝統的で落ち着いた心やすらぐ光景を目にした都会人は、この小さな村をユートピアの花園と勘違いしてしまうかも知れない。

緑の稲田に蝶が舞う「桃源郷」

滕頭館の2階に広がる緑の稲田(写真・李洪)

浦西エリアにあるベストシティ・プラスティス区では、この滕頭村の実際をつぶさに知ることができる。来場者は万博会場内で各国の都市を「遊歴」したあとに突然緑あふれる農村を訪れることになるのだ。

滕頭館の東・西・南の三面の壁は六十余万個の古いかわらやレンガを積みあげて作られており、北側はモウソウチクを熱圧縮して造った竹板とコンクリートの壁になっている。古いかわらやレンガはすべて浙江省寧波市周辺の農村から集められたもので、造られてから百年以上もたったものばかりで、寧波市の職人が腕によりをかけて積み上げた。しっくいの白とかわら・レンガの灰色が織り成す壁は、さながら江南水郷の大邸宅を思わせ、古色を帯び落ち着いた雰囲気をかもしだす。

入り口を入ると、来館者は農村の緩やかな丘を上がるように、階上に向かうことになるが、この坂道には上方から十二本のスピーカーが垂れ下がっていて、それぞれのスピーカーの下に立てば、中国の農暦(旧暦)の二十四節気をシンボライズした「天籟の音」を聞くことができる。「立春」では草が土を破って地上に芽を出す時の音、「大暑」ではヒグラシの鳴き声、「霜降」では落ち葉が風に舞う音、……大自然が奏でる四季それぞれの「妙音」を楽しむことができる。

階上には稲田とトマト畑が広がっていて、稲田は緑一色に染まり、トマト畑では真っ赤なトマトが実っている。上海万博が終わりを迎える十月にはこの稲田が黄金色に変わり、来館者は豊作の喜びを体験することになろう。

寧波市は海浜に臨むため、一帯は大気中のマイナスイオン量が内陸に比べて多い。滕頭館は二階の内壁を緑で覆っているが、壁面には絶えず水が滴り、時々高圧を受けて、水が霧になって噴き出すと、館内いっぱいにマイナスイオンがあふれ出る。ここ滕頭館は万博会期中、上海中でマイナスイオンが最も多いところの一つで、さしずめ自然の「酸素バー」といったところだろうか。光線の加減で霧の中に虹が現れることもあり、ほんとうにすがすがしい。

滕頭館の概観(写真・孫玲)

壁や天井は竹、ベッドなどの家具は明清代の造りをまねた伝統的なものでしつらえた滕頭村の室内(写真・孫玲)

万博会場内で蝶が飛んでいるのを見かけたら、その蝶はきっと滕頭館から飛んでいった蝶に違いない。ここではスタッフが毎日千羽ほどの蝶を放っていて、緑の稲田の上を蝶が飛びかい、霧が吹き上がると七色の虹がかかり、壁は緑に覆われ、マイナスイオンに満たされた空間。来館者は自然のふところに抱かれたような気分になり、帰るのを忘れてしまう。

外観も素晴らしい。屋上には数メートルもある木々が数十本植えられている。この景観は明代の画家、陳洪綬が「桃源郷」を思い描いて筆を執った作品『五泄山居図』にヒントを得たものだ。

二階の出口には口が多辺形の陶製の大がめが置かれていて、水草が生い茂り、多くの魚が楽しそうに泳いでいる。一階に下りる踊り場で窓外を望むと、繁華な上海の街が目に入ってくるが、振り返って館内を見回すと、そこは自然の味わいに満たされた農村の風景そのものなので、室外の息苦しい暑さも吹っ飛んでしまうに違いない。

滕頭館でのサプライズはまだほかにもある。一階に下りると、そこは「天動地動」ホールで、来館者は『調和の取れた美しい農村』を映像で楽しむことになる。

陳副館長が「ほかのパビリオンでは、入館者は座るか立つかして展示や映像・出し物を見ますが、ここでは座るか寝そべって映像を見ていただきます」と紹介してくれた。ホールのスクリーンは天井にあって、映像が流されると、床が波状に起伏し始める。床下に気嚢が装着されていて、来館者は波の上に身を横たえて、頭上の美しい農村風景を鑑賞する。ゆっくりとした床の動きに身を任せれば、誰もが心身の開放感を味わうことができるだろう。

 また、寧波市の魅力を知ってもらうために、滕頭館では寧波市の数百万戸の家庭から三百家庭を選び、写真とビデオを元に、その三百の家庭を三百のディスプレー上で見られるようにした。来館者はディスプレーに手を触れるだけで、寧波市の平凡ではあるが幸せな三百の家庭の日常生活を垣間見ることができる。また、別のホールでは寧波地区の代表的な伝統劇『十里紅粧』の舞台を観賞することもできる。

館の出口には二十四台のパソコンが置かれているが、投影システムと指紋識別システムが組み込まれていて、入館者が指でパネルに参観の感想を書くと、書かれた文字が出口両側の壁に投影され、同時に美しい印刷の記念チケットが打ち出されてくる。今年中にこのチケットを持って寧波を訪れるなら、多くの観光地の入場料金が五割引きになるという特典付きのチケットなのである。

広い万博会場でただ一つの農村をテーマにしたパビリオン、滕頭館は、ほかのパビリオンでは決してまねすることのできないここだけの素晴らしさに満ちている。大都市の繁栄と喧騒の中にあって、自然に回帰でき、落ち着いて調和の取れた静かな雰囲気を楽しむことのできる滕頭館は、訪れた多くの人々から高く評価されている。ここでは、都市の住民があこがれてやまない自然と調和した農村の生き生きとした生活がみずみずしく展示されているのである。

 

人民中国インターネット版 2010年7月26日

 

 

 
 
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