——日本館江原館長インタビュー
王衆一=聞き手・写真
——江原館長は万博の内覧会から開会式までずっと現場にいらっしゃいましたが、開場一週間たった今、二〇一〇上海万博の現時点での印象はいかがですか。
上海万博は、会期の長さから考えると、中国が初めて経験する最大のイベントです。 会場にいると、万博史上最大規模という実感や、どんな万博になるのか、との関係者の期待感がひしひしと伝わってきました。 経験不足による準備不足、工期や対応の遅れなどがあり、出だしが心配されたことは確かです。ただ、各担当部門、工事現場で働く人たちが実に一生懸命やっており、頭が下がる思いがしました。
観客は各館の情報をよく知っており、かなり精力的に見て回っているのが印象的です。そうした彼らを見ていると、世界における中国の存在感が伝わってくるようでした。
——北京五輪の時は「欧米以外の国では四回目、アジアでは三回目、社会主義国では二回目、中国では初めて」という言い方がありましたが、今回の上海万博は総合的な万国博覧会として「発展途上国で、社会主義国で、中国で、いずれも初めてで、アジアでは日本に次いで二番目」といってもいいと思いますが、上海万博と北京五輪の意味の比較をお願いします。
陸上競技に喩えると、北京五輪は100m走、上海万博はマラソンといえるでしょう。いずれも、勝者は称えられますが、100m走では勝者の記録に、マラソンでは走者の駆け引きにも注目が集まります。
高成長路線を敷いた「改革開放」30周年の節目の年に開催された北京五輪では、中国はその成果を世界に余すところなく披露しました。上海万博では、184日間という開催期間中にどこまで対中理解を深められるかに、その成果が問われることになると思います。今年、中国は世界第二位の経済大国となりますが、上海万博は、中国にとってエコノミック・パワーに続くソフト・パワー(好感度アップ力、文化力など)を発揮する絶好の機会と位置付けられます。
——開会式で、万博のイメージ大使を務める日本人歌手、谷村新司さんが有名な『昴』を歌いました。心に響く歌詞に感動的なメロディー、そして一面に星がきらめくロマンチックな演出は、会場中の観客を魅了しましたが、現場にいた館長はどんな思いでしたか。
「ジーン」と胸に迫るものがありました。『昴』はアジア各国・各地で、長年にわたって愛唱されています。上海万博開会式での『昴』はアジアを代表して歌われたのだと思います。そうした中国の心意気を感じました。 観客席のペンライトで会場全体が明るくなるほどでした。会場にいた人が、国境を超え、その歌声、舞台演出に意気投合したのだと思います。万博史上最大規模となる上海万博の醍醐味を実感しました。
——今回の上海万博はこれからの中国経済、特に中国国内の消費意識を促進するという推測がありますが、ジェトロで長年の経験がある館長として、これについてどう思われますか。日本企業にとって大きなチャンスだと思いますか。
ちょうど30年前の大阪万博では、缶コーヒー、ファーストフード、ファーストフードチェーン(ピザ、フライドチキンなど)やファミリーレストランなどが登場し、その後大きく普及しました。こうした新しい食文化は消費を刺激し、経済成長を促進しました。
上海万博で消費意識を促進するものは、何といっても環境に配慮した技術や製品でしょう。ソーラーパネルや電気自動車など、大いに省エネ技術を利用したものが次々と出現すると思います。今より効率よく、大量に、速く汚水を飲料水に、海水を淡水に変える機器(技術)など、生活環境を大きく改善する環境関連技術なども次々と実用化していくことと思います。
ただ、消費意識が高まることは、必ずしも良いことばかりとは限りません。環境に配慮し、省エネを意識した消費の高まりであってこそ、上海万博のテーマである「より良い都市、より良い生活」が実現できるのだと思います。
こうした日本の技術をより多くの中国の方々に知ってもらえる上海万博は、日本企業にとって、新しい対中ビジネス関係を構築する上で大きなチャンスとなると期待できます。
——日本の華字紙によれば、2010年4月28日、前売券は、日本だけですでに十万枚売れ、会期中、日本からの来場者は観光、ビジネス合わせて百万人に達すると言われていますが、館長はどう思われますか。日本人観光客へのアドバイスをお願いします。
上海万博には、246の国・地域および国際機関が参加しています。上海万博は居ながらにして世界を百聞一見できるミニ世界であり、ミニ中国でもあります。時差一時間というすぐお隣の国で開催されており、羽田空港からも直行便が飛び、三時間ほどのフライトですから、ぜひたくさんの日本の方々に来場してもらいたいものです。またこの機会に韓国や台湾へのストップオーバーをはじめ、中国国内のいろいろな都市にも足を延ばしていただき、ご近所にたくさんの友人を作るいい機会にしていただければと思います。
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日本と中国が協力して保護活動を行っている「トキ」をモチーフとしたミュージカルは、昆劇と能のコラボレーション。過度な開発と消費がもたらすひずみを反省し、未来のライフスタイルを考えさせる演目である |
今後、日本と中国とは、経済、社会、日常生活などいろいろな場面で、ますます関係を深めていくことになると思われます。上海万博は中国をさらに身近に感じるよい機会となるでしょう。
——「紫蚕島」(日本語名「かいこじま」)と呼ばれる日本館では、日中の文化のつながりや日本が取り組む環境保護活動のほか、日本が誇るさまざまなハイテク製品が展示されていますが、日本館長として、これから半年間の抱負をどうぞ。
日本は古くは養蚕が盛んに行われており、絹の取引や絹織物の産業が大変盛んでした。そしてそのシルク文化もやはり中国から伝えられた文化でした。今回、日中交流の象徴としての「蚕」が愛称となった日本館で、最新の環境保護・省エネ技術を展示することができ、大変うれしいことだと思っています。日中両国のたくさんの人たちに日本館にご来場いただくことによって、将来の「より良い都市、より良い生活」とは何かを一緒に考えていくよい機会となることを願っています。
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