都市化と交通の現代化  
 

陳言=文

2003年だったと思うが、北京で扇千景国土交通大臣(当時)にお会いした際、「北京から上海までは、ちょうど日本の東京から福岡までとよく似ています。途中に人口百万人クラスの都市が多数あり、今後は高速鉄道による輸送が必要となるはずで、それには日本の関連技術が非常に役立つと思います」と話されたことが記憶に新しい。

都市化に関する日本の用語「政令指定都市」「中核市」「特例市」などは中国語に翻訳するのが難しい。それぞれ人口が「50万人以上」「30万人以上」「20万人以上」など、具体的数字を補わないと普通の中国人には意味がわからないからだ。ちなみに、現在日本には政令指定都市が19ある。

中国の都市化は、現在どのようになっているのだろうか。中国社会科学院が編集した『都市白書 2009』では、「人口が百万人を超えた都市は、118に上り、うち大規模都市は39」と記している。またコラムニストの李洋氏は、「人口が百万人を超えた都市は170に上る」と『第一財経週刊』(2010年6月29日付け)のコラムに書いている。

そうすると、扇氏の話にあったように、高速鉄道は中国ではますます必要となっているのかもしれない。中国の都市化は、高速鉄道の関連技術を持っている日本企業にとっては大きなビジネス・チャンスであり、緊密な中日経済交流は、安定した両国の関係を作っていくベースであると思われる。

地下鉄時代の幕開け

地下鉄の長さについて言うと、北京の地下鉄の総延長距離は228キロで、東京メトロの約200キロよりは長い(都営地下鉄を含まず)。上海は420キロと、現在では世界一の長さを誇っているが、それはすべてここ15年ほどの間に建設されたものである。

北京は1965年に国際的緊張に備える意味もあって列車も走る地下道を建設した。つまり、一般乗客をスピーディーに快適に運ぶという発想からスターとしたものではなかった。

中国の地下鉄は、その長さ、旅客数などから見て、世界でも有数の規模となっているが、現代的な輸送手段としての地下鉄建設は、むしろこれからであろう。

北京の地下鉄を見ると非常にわかりやすい。東京の地下鉄は、一つの駅にたくさんの出入り口が設置されている。東京駅の出入り口など、いくつあるか数えきれないほどだ。このため、朝のラッシュアワーに2、3分おきに来る列車が多数の乗客を降ろしていっても、次の電車が来る前に客はすでにホームから消えている。5分おきに来る北京の地下鉄は、列車の編成は東京より短いし、降りる客の数も少ないにもかかわらず、次の電車が来てもホームにはまだ客が残っている。出口は二つしかなく、すぐには出られない。出入り口が少ない方が有事の際に防御しやすいと設計されているからかもしれない。問題は、その後も北京の地下鉄が当時の発想から脱却せず、乗客をスピーディーに輸送しようという考え方へ変化していないように見えることだ。新しい駅も、相変わらず出入り口は前後に二つだけと徹底している。

「東京メトロは200キロの長さしか持っていませんが、700キロの役割を果たしています」と日立製作所社会・産業インフラシステム社の鈴木学社長は言う。複数の路線が乗り入れるなど、効率的に列車を運行させているため、大都会東京の住民は何の不便も感じない。北京の228キロは、ひょっとしたら200キロの機能も十分果たしていないかもしれない。列車の運行本数を増やしたら、駅のホームには人があふれて動けなくなるだろう。

中国でも地下鉄時代の幕開けと言われる。そこでは鉄道の長さを増やすことも重要だろうが、いかに既存の施設を有効に使うか、いかに近代的な情報手段を使って迅速、快適な交通システムを構築していくかが重要な課題であろう。狭い出入り口が二つだけ、乗り換え口はせいぜい一つという北京の地下鉄設計は、あまりにも時代に遅れているように見える。全中国の人口百万以上の170の都市ではこれから地下鉄を建設していくだろうが、北京方式だけは避けてもらいたい。

スタートした高速鉄道建設

陳言

コラムニスト、『中国新聞週刊』主筆。

1960年に生まれ、1982年に南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書が多数。

中国では百万人以上の人口を有する都市間で、近年次々と高速鉄道建設が進められている。北京―天津間、広州―深圳間など短いものもあれば、広州―武漢間のような長距離のものもある。

かつて扇氏が構想していた、北京―上海間の高速鉄道はまだ着手されていないが、最高時速350キロで結ばれれば、日本の新幹線の270キロを超える高速鉄道となる。両市の間には日本のような丘陵はなく、ほとんど平野であり、多くは一直線で走れる。時速は日本より速く、安全で快適な乗客運送をいかに実現するかは、日本の企業にとっても新しい挑戦であろう。

「鉄道プロジェクトは、国の経済政策のもとで遂行されていくもので、中国での鉄道建設が中国企業を中心に進められることも理解できます。その中で、日本企業の車両軽量化技術、安全・快適で大量輸送に適した技術も中国で生かしていきたいのです」と鈴木社長は言う。

日立の場合、日本から完成車両、重要部品を中国に輸出するだけでなく、中国企業との合弁で、地下鉄、高速鉄道のプロジェクトに参入しており、すでに北京、上海で実績を上げている。東芝、三菱重工、日本信号などの企業も同様だ。

ただ、今の日本にはかつての扇氏のように、熱い視線で中国を見て語る政治家はいるだろうか。急速に都市化が進む中、交通の近代化に積極的に取り組む中国で、日本企業は持てる力をどこまで発揮できるのか。その孤立も感じられる。中国はこれから本格的消費ブームが訪れる市場だが、殺到する日本企業はもうかつての輝きを放っていないような気がしてならないのだが……。

 

 

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