「展示品」であり「標識」でもある芸術  
 

喬振祺=文

彫刻は万博に欠かせない一部であり、万博は全世界の彫刻家の舞台であり、多くの彫刻の天才の名作は、万博を通して世の人に認められた。ロダンの名作『考える人』が初めて多くの観衆の目の前に姿を現したのも、一九〇〇年のパリ万博だった。

二〇一〇年上海、アーティストの創造力と想像力が凝集した彫刻作品たちが万博会場に展示されている。上海万博の八つのゲート広場と江南広場には生き生きとした活力を持つ彫刻群が陳列されているのだ。主要なゲート広場の彫刻は方向性と識別性が強調され、明らかな「都市の記憶」というテーマ以外に、工業技術や歴史事件、科学技術の発展を反映している。

来場者の目を奪う彫刻

万博と彫刻を含む芸術とは密接な関係があり、相互に補完する関係となっている。万博という舞台を与えられ、彫刻芸術は展示と交流の場を得るからである。また、彫刻によって、万博のテーマはさらに感性とイメージの広がりを持つからである。来場者が入場と同時に万博会場にあふれる喜びと熱い思いを感じることができるのはなぜか? ゲート広場に置かれた熱い思いと喜びに満ちた彫刻群が、来場者に感情のウォーミングアップをもたらすからである。彫刻は万博会場の装飾・飾りつけの役割だけでなく、直接的に来場者の万博全体に対する印象に関係しているのである。

万博会場の主要ゲート広場の彫刻プロジェクト計画チームは、「私たちは、都市と関連するテーマ要素を中心に、多くの新しく現代的な彫刻芸術作品が万博会場の主要なゲート広場に置かれるよう企画しています」と説明している。八つの主要ゲート広場に置かれた彫刻は、入場するとまず目にする「展示品」であり、特色ある会場のサインになっており、来場者を華麗で色とりどりな世界にいざなう。

オーストラリアUAPデザイン社は自らの上海万博と中国文化に対する独特の理解を通して、魯班路ゲートなど八つの主要なゲート広場に置く彫刻のデザインと制作権を獲得した。上海万博のテーマおよび社会の理想都市へのたゆまぬ追求に焦点を定め、創造、つながり、調和、文化、グリーン、未来などの要素を盛り込んでいる。

ゲート広場に飾られた彫刻作品の多くは常識破りで、躍動感と活力に満ちている。作品のなかには、星の輝きのようにきらびやかな「花火」があったり、見る人を子どものころに戻らせる巨大な「おもちゃ」があったりする。また、伝統芸術をもとに創造した「中国結び」など、素晴らしいアイデアに満ちている。

注目に値するのは、ゲート広場のどの作品構想も、広場に合わせたオーダーメイドで、高い芸術鑑賞性を持つだけでなく、方向性と識別性を合わせ持っていることである。生き生きとした作品は、道標と通りの名前の標識の代わりもしている。例えば、大きくてインタラクティブ性を持つ『ハンド・イン・ハンド』は会場のなかでも大きな8号門ゲートに置かれ、7号門ゲートの『漂』は鑑賞されるだけでなく、来場者のために日陰も提供しているのである。

江南広場の作品「工業の記憶

江南広場は百年前、李鴻章が創業した「江南製造総局」跡地の一部であり、かつてここに建設された江南造船所は中国の工業発展史の一部を濃縮しており、中国工業の黎明期の発展過程の証人と言えよう。

『江南を{おも}憶う』『中国標準』『見張る人』『移り変わる都市』など、江南広場の十五作品は、金属彫刻と抽象彫刻がメインである。金属の質感と工業要素は密接な関係がある。この素材の選択は工業というテーマとつながっている。同時に、作品は抽象芸術がメインだが、これは抽象芸術の誕生と工業の発展が不可分だからである。

「上海万博のテーマは『より良い都市、より良い生活』であり、江南広場は中華民族工業の発祥地――江南造船所跡地です。上海が近代に自らの都市の特色を迅速に発展させ、中国の都市のなかで重要なポストを占めることができた最も根本的な理由は近代民族工業の勃興にあります」と、中国彫塑学会副会長、全国都市彫塑芸術委員会副主任、江南広場彫塑プロジェクトのチーフ・プロデューサー・孫振華氏は話す。

「上海の工業史は『より良い都市、より良い生活』のテーマを最もよく表現できると言えます。この記憶はすでに多くの人に忘れ去られ、芸術が記憶を修復する役割を担っています。これらの彫刻は人々に、江南広場でかつて起こったすべての物語、今は歴史になったものの中国の近代化を推進した不朽のページを思い起こさせるのです」

江南広場の彫刻の大部分は金属を主な材料としている。金属の質感は工業の要素を表すのにぴったりだ。展示されている作品の中に船舶、鎖などといった歴史性の強い要素を溶け込ませ、彫刻言語と符合させ「工業の記憶」との関連性を生み出している。すでに工業の重任をおろしてしまったとはいえ、江南広場は上海万博に依然として独特の工業文明の味わいを示し、人々は江南広場で多くの歴史の痕跡を目にすることができるのだ。

チーフ・プロジェクトの総合プロデューサーとして、孫氏は記者に江南広場は万博会場の四つの彫刻プロジェクトの一つに過ぎないが、全国の彫刻界の知恵と心血が注がれており、選ばれた全部で十五の作品の背後には少なくとも同数の「佳作」「予備」があると明かしてくれた。

作品のオリジナリティーのため、彫刻家たちは一年にわたって子細に江南造船所の文化資料を研究した。研究を通して、彼らは豊富な地縁資源を創作アイデアの源泉にしたのだった。

しかし、江南広場の彫刻作品は単純な「再現」を求めているわけではない。すべての作品の企画重点は「省察」「再考」にある。これらのアーティストにとって、工業化は人々の生活の質を絶えず向上させてきたと同時に、例えば現代化と伝統の矛盾、物質と心の矛盾などなどいくつもの矛盾も生み出したことも事実である。入選した十五作品は違った角度から、人々に工業化が人類の生活に種々の影響を訴えている。

「漢魂洋才」東西融合の芸術スタイル

広東の彫刻家・李春華氏の作品『中国標準』は、広東仏山地区で唯一の入選作だ。「李春華の彫刻は一種の非主流で、新しい彫刻の方式でつくり上げたものだ」と、孫プロデューサーは評価する。

江南広場にそびえる『中国標準』は、ステンレス溶接で作られている。長さ四・五メートル、高さ二・五メートル、幅〇・八メートル、重さ約一・五トンで、全体は西洋工業文明時期に発明された高精度の計測器・ノギスを表しており、中国伝統の建築力学の知恵と審美性の結晶である「{ときょう}斗栱」(ますぐみ)を有機的に融合させ芸術として昇華させている。巨大なノギスは、そのツメを一振りして、一瞬にして中国独特の「斗栱」に変身する。李氏は「斗栱は中国の建築美意識と力学的知恵を代表する結晶です。一方ノギスは西洋の精確な計測工具で、産業革命時の重要な発明。両者の要素を融合させることで、さらに深い美となるのです」と語る。

急速に発展する中国には、中国の彫刻家がそれぞれの方法で演繹するに値するものが多数ある。

「情報化時代は同時に標準化の時代でもあります。新しい世紀は中国の世紀でもあります。六十年余の建設を経て、特に「改革・開放」の三十二年、中国人は経済の急速な成長のもと、文化に対する自信を回復し、自身の芸術創作標準と芸術評論標準を打ち立てました。同時に国際的文化交流のなかで中国式芸術選択標準を打ち立てたのです」と李氏はこのように『中国標準』の伝えようとしているものについて説明している。

万博会場江南広場に展示されている十五の彫刻作品のなかには、二つの深圳から来た作品がある。夏和興氏の『見張る人』と戴耘氏の『巡航』である。夏氏の『見張る人』は、人物が両手を広げ、やるせない表情で高炉の上に立つ姿を表している。彼は、労働者はかつて中国では最も尊敬を受けた職業だったが、彼の作品で表現されているのは、かつての老工業に対する記憶と追憶であると言った。

『巡航』は「磚彫」(レンガに図案を彫刻した芸術)の作品で、レンガでつくられた潜水艦だが、その前部はイルカの頭で船尾は推進器である。戴氏は言う。彼が選んだ要素は複層的に多くの意味を含んでいる。イルカは大自然を象徴し、人々が工業の発展のなかで生態環境を忘れてはいけないと戒めている。レンガと鉄という二つの材料は農業文明と工業文明をそれぞれ表している。両者の結びつきの寓意は伝統文明と工業文明の出会い、衝突である。

彫刻創作に従事すること二十余年、現在は杭州市彫刻院院長の林崗氏が制作した『心の方向』は高さ八・二メートル、幅三メートル、材料は廃船のスクリューや舵などである。百を超えるギアやスクリュー、舵を紹興の銅材集散地で集め、半年の時間をかけ、これら工業文明の産物を東方文化の色彩が濃い作品に生まれ変わらせたのである。三種の工業部品は「航路」「方向」の寓意を持ち、東西の出会いと融合を表している。

「私はこれらの部品が好きなのです。これら大部品は工業時代特有の息吹を感じさせるからです。私はこれらの器物を通してあの時代の美意識を思います。工業化時代の美は、今日依然として昔日のスチームハンマーのように、力強く私たちの心を打つのです」と林氏は言う。

「船舶は方向を持ちます。文化の位置、表現も方向を持ちます。小さくは個人から、大きくは国家まで、みな心の導きのもと自分の方向を見つけます。万博会場も人類が探し求める方向の一つの窓口なのです」

万博会場の彫刻は文化展示のキャリアーであり、形ある彫刻は、万博会場で景観および公共の場の内在文化を豊かにし、同時に万博の雰囲気を盛り上げ、理念を広める化学反応作用を果たしているのである。

 

人民中国インターネット版 2010年8月17日

 

 

 
 
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