董彦=文
そこには待ち行列も予約制もなく、「万博パスポート」にスタンプが押されることもないが、静けさと落ち着きがあり、そして彫刻の芸術作品が置かれている。それをあなたが自分にふさわしいと感じたなら、万博会場浦東エリアの黄浦江沿いにある「沿江景観帯」を訪れみてはいかがか。そこではあなただけの「秘密の花園」を存分に楽しむことができるのである。
|
1対のパンダ『和和と諧諧』(写真=李洪) |
ロダンの『考える人』も
万博は科学文明の成果を展示すると同時に、世界各国の優れた芸術を陳列する場でもある。万博会場に彫刻作品が正式に陳列されたのは一八五五年のパリ万博でのこと。最初は単なる飾り物や添え物だった彫刻作品は、やがて万博のテーマを雄弁に語る中心的な存在になり、さまざまなオブジェも含め彫刻芸術は、万博になくてはならない「立役者」になったのである。
一八七八年のパリ万博では、彫塑作品の巨大な頭部が出展され、注目の的になったが、それは、まだ制作途中の『自由の女神』像の頭部だった。当時の記録によると、会期中、毎日数千人が参観につめかけ、この像の頭部の内部を見学したという。また一九〇〇年のパリ万博では、この年、六十歳になったロダンが、それまでに制作した百六十八点の自作を一堂に展観し大きな話題を呼んだ。なかでも人々が目を見張ったのが有名な『考える人』で、このロダンの代表作は、今日知らぬ者のない近代彫刻の最高峰とされる名作である。
彫刻は一般の人々には縁遠い芸術ジャンルで、多くの優れた作品を直接鑑賞する機会も少ない。巨匠たちの名作も、万博会場に陳列されることで多くの人々の目に触れ、広く知られるようになったという歴史がある。
それでは、万博会場の中心線――「万博軸」を起点に、南から北へ、現代の彫刻家たちの作品を見て回るコースに、あなたをご案内しよう。
永久に残される記念作品
「万博軸」は上海万博の主要な入り口であり、またメインストリートでもある。六つの「陽光谷」(サンバレー)を含め上海万博のランドマーク的建築物である「万博軸」には、万博会期中、十余名の世界的に有名なアーティストの制作になる彫塑作品が陳列される。是非見てほしい。
「万博軸」は南北一・四五キロ。そこに二十点の彫塑作品が陳列されている。万博の「世界芸術展覧」の一環と位置づけられ、彫刻という言語で、上海万博のテーマを芸術的に表現しているのである。
今回の「世界芸術展覧」への出品を承諾したフランスの文化機構の中国部門責任者である廖宜国氏は次のように語った。
「多元的な背景の下に開かれる万博で、『万博軸』というメインストリートに沿って二十もの巨大な彫刻作品を展示するのは、複雑で困難な作業でした。私たちは『都市の現状』というテーマを決め、出展してくれるアーティストたちには、その風格と文化背景は異なるものの、都市の発展は自然との調和のなかで、そこに住む人々のより良い生活を保障するという一つの共同理念に基づいて作品を制作・出展してもらいました」 今回の彫塑作品の展示は、中国と西洋のアーティストが公共の場で芸術作品を通じて行った初めての対話であるとも言えよう。米国のアーティスト、ダン・グレハムの彫塑作品『E.S.曲線』は、作者自身の解説によれば「ルネサンス以来の西洋の庭園楼閣建築の歴史を踏まえたうえで、ロココ様式の庭園建築風格を円形で開放的な中国式庭園の門に応用したデザインに特徴がある」とのこと。中国の前衛アーティスト、張洹氏は一対のパンダをモチーフにした作品『和和と諧諧』を出展したが、元気で活発なパンダを通して「人と自然、人と動物、人と社会の大きな意味で調和の取れた関係」を表現したかったとのこと。
万博閉幕後、万博会場は上海の新しい都市空間として生まれ変わるが、「万博軸」と展示されている彫塑のうちの『和和と諧諧』『伸びる空間――オルドスの針』『夢の石』などのいくつかは記念作品としてそのまま永久に残される。
|
後灘公園に陳列された『網』(写真=李洪) |
万博会場の「秘密の花園」
「万博軸」に沿って数々の彫刻作品を鑑賞しながら南から北へ進むと、「万博大道」にさしかかる。実は、この大通りにこそ、多くの人が知らない「秘密」があるのである。
万博会場の地図を広げてみてほしい。あなたはすでにお気付きだろうか。万博大道は万博会場の浦東エリアを東西に貫く大動脈であるとともに、黄浦江沿岸地区とパビリオン地区を分ける分割線にもなっているのである。この大通りを境に、南は毎日四十万人を越える来場者の人波で埋まる一方、北側は人もまばらな「沿江景観帯」になっている。
「万博大道」を横切って「沿江景観帯」に入ると、あなたはきっと別の万博会場にやってきたかのような気持ちになるに違いない。そこには待ち行列も予約制もなく、「万博パスポート」にスタンプが押されることもないが、静けさと落ち着きがあり、そして彫刻の芸術作品が置かれている。それをあなたが自分にふさわしいと感じたなら、「沿江景観帯」はあなたにとって「秘密の花園」になるのである。
「秘密の花園」は、後灘公園、万博公園、白蓮涇公園の三つの部分で構成されている。もともとあった黄浦江沿いの公園をもとに整備されたもので、ここに、イタリア、米国、スイス、イスラエル、ドイツ、英国、日本、中国の八カ国二十四人のアーティストが上海万博のために創作した作品が展示されている。
上海万博は人と自然との共生をテーマの一つにしているが、後灘公園は、上海という大都会の中心部にわずかに残る原生湿地帯であるため、この地域に展示される作品のモチーフは「人と自然との対話」と決められた。自然な手法を用い、原形・原色に近く、過度に飾り立てないことを原則とした。中国の彫刻家、許江氏の作品『漢葵』は、アオイの花と葉を造形したもので、直径六メートル、高さ十二メートルの二株のアオイが寄り添う姿は調和に満ちた自然を啓示するものでもある。
万博公園は元江南造船所の対岸にあたり、そこに立って黄浦江を望むと、上海百年の激動の歴史を思い起こさずにはいられない。ここの彫塑作品のテーマは「都市の過去と未来」。
「沿江景観帯」彫塑展示のチーフ・プロでぅーサー、韋天瑜氏は「都市文化と都市の流行をモチーフに、都会人の明るい生活を表現したかった」と語っている。
ここに展示された作品の一つ『掘り出された夢』は、実際の考古学発掘現場を再現したかのようで、掘り下げられた穴には、上海開港から清末民初、新中国成立から「文化大革命」、そして「改革・開放」にいたる各時代の器物が出土品のように並んでいて、上海の数世代にわたる人々がこの街の現代化に向けて積み重ねた努力の跡が浮かび上がってくる。
過去のどの万博も、その後の人類社会の発展に影響を及ぼす先進的な理念を打ち出してきたが、上海万博ではこの意識がいっそう強い。白蓮涇公園の彫塑作品は、未来生活における「田園のような都市の夢」をテーマにしていて、未来の都市では、都市と生態環境が良性循環の関係にあって、双方が本来あるべき姿に再生されるという夢をそれぞれの作品が表現している。
イタリアのアーティストの作品『気泡門』は、数字と気泡を結合させた造形で、都市生活者と水との緊密な関係を暗示している。それは自然と動物が共生し、都市の中に田園の夢がはぐくまれるよう、また田園のような環境の中で都市の生活がより良く送れるよう願っているのである。
人民中国インターネット版 2010年8月19日
|