煙台に飛躍のきっかけ

煙台の洋上イケスで行われているナマコ、アワビ、ワタリガニの養殖(写真・孫強)

煙台は山東半島東部に位置し、黄海と渤海湾をまたぐ山東省唯一の都市であり、海岸線の総延長は909㌔、沖合には500平方㍍以上の島嶼が72あり、海洋生物、鉱物、石油、天然ガスのほか潮力などの資源が豊富だが、伝統的な漁業、養殖、海浜レジャー産業が良く発達した街だ。それが今では、海洋産業構造の改善に乗り出し、科学技術による刷新、制度面の刷新によって、新たな海洋経済発展のきっかけをつかもうとしている。

着々と高次元の海洋産業

煙台は風光明媚で暮らしやすい街という印象が持たれてきた。港には漁船が航跡を描き、海岸には堰が築かれ、水たまりができ、浜辺には海鮮料理の屋台が並ぶ。こうした観光資源が煙台の海洋経済に対する印象を作ってきたに違いない。確かに漁業、養殖、海浜レジャーは伝統的な有力産業だったが、今では、海洋設備製造などの重工業が経済を支える重要な要素の一つになっている。

中集来福士海洋工程有限公司(中集来福士公司)がイタリアのサイペン(Saipem)社のために建造した半潜水型掘削プラットホームSCARABE09(写真提供・中集来福士公司)

中集公司が建造した世界最大のパイプライン敷設船(写真提供・中集来福士公司)

今年上半期の煙台の主要な海洋産業生産額は907億元で前年同期比27.4%増となっている。内訳を見ると、海洋プロジェクト、船舶・海洋機械製造、海洋バイオ医薬品製造の成長率は50%を上回り、漁業などの伝統産業は海洋産業全体から見ると軒並み比率が下がり、成長率は2.7ポイント下降している。

中集来福士海洋工程有限公司は煙台を代表する海洋産業企業のひとつだ。前身は1977年に創立された煙台造船廠。多くの煙台っ子は「来福士」は聞いたことがなくても、煙台造船廠は知っている。その豊富な造船経験が中集来福士に貴重な技術と人材を提供した。さらに同社は一般的な造船分野に留まらず、主に高次元海洋プロジェクト用の設備を製造する海洋企業にモデルチェンジを遂げた。現在、最も「優れもの」の製品は深海石油・天然ガス採掘、探査用の半潜水型掘削プラットホームだ。

煙台港のコンテナ用バース(写真提供・煙台市対外報道弁公室)

この種のプラットホームは長さ約100㍍、幅7、80㍍、高さ約60㍍で、同時に約100人が作業できる。底部にはスクリューが付いており、目的海域まで自力で運航できる。探査、採油が開始されると、数カ月、数年に及ぶ長期間、海上の定位置に浮かべておくことができる。巨大な12級台風(風速33㍍)に遭遇しても、全地球測位システム(GPS)と推進システムによる定位置確保によって、安定を保ち、左右の揺れは1㍍以内に収まる。現在、中国が自主製造したこのようなプラットホームは7基あるが、このうち6基は中集来福士製だ。2010年に製造した1基は中国初のプラットホームだった。目下、ノルウェーの北海海域で探査業務に従事しているが、昨年、同海域で稼働中の約30基の各国プラットホーム中、総合力で1位に輝いた。

ハイテクが新産業リード

煙台市は昔から漁業基地であり水産加工品の主要生産地として栄え、漁業による生産高は当地の経済総量の大きな割合を占めてきた。しかし、都市建設が進展するに伴い、人々の沿岸環境整備の要望が強まり、同市は海洋利用の構造転換に着手し、漁業の優先順位を海浜観光と海上運輸事業の後に、すなわち第3位に後退させた。伝統的な漁業の成長率は低下し、規模も小さくなってきたが、さまざまなハイテクが導入され、漁業の質と競争力は逆に向上に転じている。

東方海洋公司が誇る世界最大のサケ養殖場(写真提供・東方海洋公司)

東方海洋公司が開発した新品種コンブ「東方六号」(写真提供・東方海洋公司)

例えば、有名な東方海洋科学技術股份有限公司(東方海洋公司)には、最先端の海藻遺伝子育種実験室、優良品種選択育成実験室、海水魚類加工技術研究開発センターなどの施設がそろっている。ここで、中国科学院(中科院)海洋所、中国海洋大学、中科院煙台海岸帯研究所から来ている研究者は企業と提携し、クローン技術を導入して、コンブの新種を育成し、何度も国のイノベーション成果賞を受賞し、世界的にもトップレベルに達している。

同公司のサケ養殖場もまた人目を引いている。この世界最大規模を誇る工場化した養殖場は、地下から汲み上げたきれいな低温海水で全自動密閉型循環水養殖を実施し、温度調整と給餌が自動的に行われ、ここには従業員は1人も見当たらず、巨大な水槽の中をサケが群をなして元気良く泳いでいるだけだ。この養殖システムには34項目の特許技術が活用されているという。この養殖場を見ていると、これまで海産物養殖に抱いていた時代遅れのイメージは完全に覆される。

2010年7月、東方海洋公司を視察する当時の李克強国務院副総理(中央)(写真提供・東方海洋公司)

新技術の魔力はまたこの海洋都市の伝統的なエネルギー産業にも大きな影響を与えている。例えば、石炭火力発電所だ。火力発電がいかに海洋産業と関わるか。華電莱州公司を訪ねると、その答えが得られる。

煙台・莱州市にあるこの発電所は海に面して建てられている。海上輸送されてきた石炭は埠頭で荷揚げされるとすぐに2000㍍に及ぶ密閉型送炭コンベヤーで、密閉型の貯炭ヤードに搬送される。発電所の燃焼ユニット稼働中に、近くの海水が冷却用水に使われ、また淡水化処理も行われる。その後、リサイクル処理された排水でタービン発電機のモーターを回し、火力発電所の中にもうひとつの水力発電所を建てたことになる。この工程全体は非常に効率的かつ省エネで、しかもほぼ汚染ゼロだ。現在、華電莱州第一期プロジェクトの年間発電量は約120億㌔㍗時。2016年までに倍増される見込みで、煙台の「ブルーエコノミー」の発展をエネルギー面から支える強固な後ろ盾となろう。

海藻の品質評価、優良品種選別、遺伝子組み換えによる品種改良などを研究している東方海洋公司の分子生物学実験室(写真提供・東方海洋公司)

煙台華電莱州公司発電所の中央制御室

これらの伝統産業と異なり、海洋バイオ医薬品産業は常にハイテクが注目されるおなじみの分野だ。近年、煙台の海洋バイオ医薬品産業の生産高は同市の工業全体の2%足らずだが、成長に勢いがあり、国際水準を超える製品を相次いで誕生させている。例えば、海洋生物を原料として抽出したキトサンオリゴ糖製品は主に腹部の手術後の癒着を防ぐ効果があり、世界トップレベルに達している。そのほかに、深海魚のタラを原料として抽出したコラーゲンペプチド製品は国内市場をにぎわしている。   煙台保税港区は2011年1月に開業した中国で13番目の保税港区だ。現在、保税港区は従来の政策条件を基礎に、輸入商品の展示取引、ネットビジネス取引と物流サービスを積極的に推進している。すでに建設されている輸入商品展示館の中で、国際輸入ワイン展示取引センターは比較的よく整っているひとつと言えよう。3万平方㍍近い巨大な展示館は廃棄された工場だった。今年1月に開館して以来、ヨーロッパ、北アメリカ、オーストラリアからの70社余の酒業者が駐在し、約500のブランド、3000種のワインが展示・取引に参加し、出来高はすでに1億元近くに達している。

海辺に建てられている華電莱州公司の発電所は全ての工場用水を海水循環と化学処理技術で製造し、一時間当たり300㌧の淡水を生産することができ、年間220万㌧の淡水を節約できる

煙台華電莱州公司が火力発電第1期プロジェクトの一環として建設した年間発電量が120億㌔㍗時に達する火力発電所 

保税港区から出発し、煙台の長い海岸線の道に沿って東に進み、道の両側に雨後のタケノコのように出現したビルを見ながら、思わず感嘆の声を上げそうになった。大海は煙台に冬は暖かく夏は涼しい、温暖で湿潤な気候を運んでくれるだけでなく、煙台の人々に世界に向かう遠大な勇気ももたらしてくれた。近い将来、煙台の東部海洋経済新区はこのあたりの海岸を飛躍させるだろう。いま、200平方㌔の第1段階の建設が始まり、海洋財産権取引センター、海洋経済本部基地、海洋創業サービスビルの工事が鳴り物入りで行われ、これらとセットになる海浜観光・ビジネス区、沁水新興産業パーク、金山低炭素環境保護産業パークなども計画中だ。「産業が集結し、環境は優美、職住ともに良い」という「ブルーエコノミー・シティー」のブループリントは日増しにその姿を現し始めている。その時、煙台の海洋経済は新たな段階に入るだろう。

 

 

 

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