各店が秘伝の味で勝負

 

日本でラーメンの名店がそれぞれに秘伝のスープを持っているように、重慶火鍋の味の調合も各店ごとに独特だ。徐登友さんは南岸区にある怡寧火鍋店の料理人で、スープを調合して十数年のキャリアを持つ。徐さんの店は山の中腹にあってオープンエアの席が人気で、山からの風に吹かれながら火鍋を食べ、よく冷えたビールをぐいっと飲むのは本当に爽快だ。環境に恵まれ、味も良い徐さんの店は当然大繁盛している。彼によれば、重慶火鍋の美味しさの秘密はスープのベースにあり、トウガラシ、牛脂をメーンに調合されるが、最も重要なのはベースづくりの技術だという。ただ、その技術については企業秘密だからと教えてくれなかった。まあ、当然かもしれないが。

重慶火鍋は「毛肚火鍋」とも言う。明末から清初にかけて朝天門には家畜処理場があり、そこで不要とされた内蔵を岸辺にいた水夫や船を引く肉体労働者たちが鍋にして、トウガラシやサンショウ、ショウガ、ニンニク、塩なとで味付けして煮て食べたという。これが満腹をもたらすだけでなく、体にたまる「寒」(冷え)「湿」(水分)を払うとして次第に広く食べられるようになり、重慶で最も有名な料理となったのだ。現在では精肉やウナギ、エリンギなどさまざまな高級食材が火鍋に入れられるようになった。一方で、牛の内臓やアヒルの腸など最も伝統的な食材も、重慶の人たちに愛され続けている。

重慶の人は辛いものが大好きと言うより、「無辣不歓(辛くないものは好まない)」なのだそうで、大通りから裏通りまでどこに行っても食欲をそそる火鍋の香りが漂ってくる。その中でも、南山と龍頭寺が重慶火鍋店の二大集中エリアだ。南山には怡寧、鮮龍井、古月泉など火鍋の名店が並び、食卓が表の樹木や植え込みの間に置かれている。その南山が上品でゆったりした魅力を持つとすれば、龍頭寺は豪気で情熱的な庶民的味わいだ。夕方になると、数十軒の火鍋店が通りに沿ってテーブルを広げ始め、蒸し暑い夏の日でも、老若男女がここに集まってきて、汗をかきながら火鍋を食べる。そうした重慶の人々の性格は、火鍋のようにさっぱりとして真っ直ぐ、太っ腹で情熱的だ。

 

人民中国インターネット版 2013年

 
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