実は、端村の小学生はバレエだけではなく、楽器や絵画も学んでいる。この学校に芸術教育をもたらしたのが北京荷風芸術基金会で、荷風には風(芸術)の力を借りて美しい花を咲かせるハス(子どもたち)の意味が込められている。同基金会の創始者である李風氏に聞いた。
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プロフィール |
李風(り・ふう)
1955年北京生まれ。1982年中国人民大学卒業。1986年から1992年にかけ日本および米国に留学。これまで北京全威第一企画広告公司、北京利百勤投資顧問有限公司の董事長(日本企業の会長に相当)を歴任。現在は北京大江投資有限公司董事長。荷風芸術基金会創始者。 |
――荷風芸術基金会が農村の子どもたちに芸術教育をするようになったのはなぜでしょうか?
李風(以下李) 私は1990年代によく出張でヨーロッパに行き、音楽ホールや博物館を訪れました。そこで、古代ギリシャやローマ時代から現代まで、芸術が文明に対して重要な貢献をしてきたことを知って感じるところがありました。そして、私の中に次第に一つの考えが芽生えたのです。それは、芸術と人類社会の進歩に非常に重要な関係があるなら、芸術を媒介として、中国の社会進歩のために何かできないだろうかということです。
芸術は科学技術と同じく一種の創造的労働です。私は、パクリやニセブランド商品が横行する問題と芸術教育の遅れには大きな関係があると考えています。また、芸術は貧困を救う一つの処方せんでもあります。人々が前途に希望を見出せないことが貧困の一つの原因だとすれば、芸術は人々に希望をもたらすものです。
中国の農村の学校では、基礎教育における芸術や体育教育の指導力が弱く、一部の学校では芸術科目が実施されていないことさえあります。私たちの基金会が主に端村を援助しているのも、同村では芸術科目を設置しておらず、教える先生もいなかったからです。私たちは具体的な計画を立て、検証を行い、最終的に独立法人資格の非営利性社会公益団体(NPO)である荷風芸術基金会を設立しました。私たちは主に芸術教育と芸術普及を任務としており、芸術教育分野では、北京舞踏学院、中央音楽学院、中央戯劇学院などの大学の先生方を招いて端村学校の先生と生徒を指導してもらっています。
――基金会創立以来、どのような困難がありましたか? また経験と成果についてはいかがでしょうか?
李 なかなか趣旨を理解してもらえないというのが最大の困難でした。大多数の人は芸術を農村に持ち込むことに懐疑的で、地方政府の協力と援助も十分ではありませんでした。
しかし、私たちは現地の子どもたちと保護者の支持を得ました。バレエを練習する子どもたちは特にまじめで、5人のメンバーは放課後も家で練習していました。その中の一人には幼くやんちゃな弟がいますが、彼女のおじいさんは彼女の練習のじゃまにならないよう、練習の間は弟を外に連れ出して遊び相手をする形で協力してくれたそうです。
子どもたちは3月から毎週一度のレッスンを始めましたが、半年足らずですでに踊りはさまになってきましたし、子どもたちの見かけにも雰囲気にも微妙な変化が見られるようになりました。これは私たちにとって喜びです。保護者と子どもたちの支持は私たちにとって何よりのモチベーションです。
――李さんは日本への留学経験があり、日本の事情に通じているとうかがいました。中国の児童芸術教育は日本との間にどのような差があるのでしょうか? 今後どういった方面での努力が必要でしょうか?
李 日本と中国の児童芸術教育には大きな差があります。学校教育は言うに及ばず、生活の中にある芸術的環境、要素も大きく違います。かつて日本の石川県の小さな空港で東京に戻る飛行機を待っていた時のことです。ふと見たテーブルの上に紙とクレヨンが置かれていました。それは子どもが待ち時間を楽しく過ごせるように、空港が用意したお絵かき道具だったのです。空港の3階には子どもたちの作品が展示されていました。空港を利用する子どもたちのために、何の商業的目的もなくこうしたことを行っていることに、私は彼我の差を感じました。
――荷風芸術基金会が端村でのやり方は、中国のほかの地域にもふさわしいとお考えですか?
李 私はふさわしいだけでなく、とても必要なことだと考えています。私たちの経験が成熟し、トータルに整った規範ある教育計画が完成したあかつきには、ほかの地域への普及も考えたいと思います。大都市の力を利用して、芸術教育システムを農村の少年・児童たちに送り届けることは、急務と言えるでしょう。端村の子どもたちは、楽器が演奏できるようになると大喜びで、早く家に帰っておじいさんおばあさんに聴かせてあげたいと話します。芸術教育が農村の子どもたちに自信や誇り、喜びをもたらすのは明白です。端村の子どもたちに起こった変化を見た後では、私たちの願いはさらに差し迫ったものとなりました。
――周恩来総理はかつて「民が官を促す」ことが中日関係発展における家宝だと言いましたが、人々の感情は両国関係の基礎です。現在両国関係は困難な時期にありますが、李さんは芸術が両国の青少年交流の促進と国民感情の回復にどんな意義と役割を持つものとお考えですか?今後中日地方青少年による実際の交流活動を主催するお考えはありますか?
李 芸術は人類の交流と国際平和促進において非常に重要な役割を果たすもので、これは周知の事実です。さらに、芸術の世界は非常にシンプルで、先入観もありません。私は特に中日両国の子どもたちが芸術分野でより多く交流し、集団で活動を行い、共に団結と協力の精神を養うことを願っています。さらに日本だけでなく、アジア太平洋地域全体の青少年が交流を強めることを願っています。もし機会があれば、中日地方青少年交流のイベントを主催してみたいですね。
人民中国インターネット版 2013年 |