莫高窟の492の洞窟は、程度こそ違えほぼすべてが問題を抱えている。それでは、それらの問題はどのように修復するのか? 蘇副所長は壁画を例に、文化財修復のプロセスを説明してくれた。
まず、目視によって文化財の傷みの程度を確認する。次に測量し製図された図面の上に文化財に存在する各種の傷みを記入していく。続いて、器具を使って壁画の特定部分の環境、壁画の材質、制作方法、顔料、壁画のある場所の岩質などを調査・分析し、傷みの原因を探る。次に、周囲の環境を調査する。殿堂窟なら、その建築全体に沈み込みやひび割れがないか見る必要があり、断崖の後方に裂け目がないか、水がしみていないか調査する。
同じ場所でも、文化財の傷みの程度は一様とは限らない。これらのデータを総合的に分析する必要があり、分析は以前からの基礎研究に基づいて行われる。例えば、莫高窟の文化財破壊の主な原因は塩害だ。岩と環境中には水溶性の塩分が大量に含まれており、空気の湿度や断崖に水がしみ出す状況では、塩分が溶け出し、再度乾燥すると塩分は結晶となる。溶解と結晶の過程で断崖には力学的作用が発生し、「空鼓」(空洞化。壁画が盛り上がり壁と離れ、脱落することもある)、「酥堿」(白華現象。塩分が空気や水分の影響を受け、粉状の生成物ができる)、顔料層の「起甲」(壁画の底色や顔料層に亀裂が発生し、うろこ状にまくれ上がる)、脱落などが発生する。文化財の傷みの原因がはっきりすると、次の段階として修復方法を決定し、適切な工芸技術と材料を選択していく。
こうした段階を経て一つの洞窟を修復するのには2、3年の時間を要する。さらに、一度の修復でそのまま長く良好な状態が保たれるわけではなく、現在の技術では10年ほどしか持たない。 |