安倍首相の靖国神社参拝の論理

 

日本の安倍首相は就任一周年となる12月26日、靖国神社参拝を断行した。

 安倍首相は参拝後すぐに、用意されていた首相談話を発表し、参拝について次のような説明を行った。第一に、参拝は、国のために犠牲となった「英霊」を哀悼し、尊崇するためである。第二に、参拝は、「英霊」に政権一年の歩みを伝えるためでもある。第三に、被害を受けた国の人々の気持ちを傷つけるつもりは全くない。第四に、靖国神社の参拝が政治問題、外交問題化していることを残念に思う。

 なかなか独自性に富んだ「模範解答」だが、説得力があるとは言い難い。

 日本の近現代史を少し知っている読者なら、靖国神社が決して普通の神社とは言えないことをご存じだろう。日本が近代に発動した戦争において、靖国神社は、日本の国家神道の一部として重要な役割を果たした。2004年の春季例大祭時、筆者は靖国神社を調査に訪れた。同年はちょうど日露戦争の100周年にあたり、神社内の「遊就館」では大規模な記念活動が行われていた。大量の武器がホールに展示され、戦争を美化する写真と扇動的な文章は息が詰まるほどで、戦前の軍服を着た人がスローガンを叫ぶ喧騒は、靖国神社が、政治と関係のない普通の神社とは異質なものであることを如実に示していた。

靖国神社にはどのような人々が祀られているのか。靖国神社が世間の注目を浴びているのは、極東国際軍事法庭によって死刑に処された東条英機ら7人と服刑中に死亡した梅津美治郎ら7人のA級戦犯計14人が祀られているためである。これらの人々は中国侵略戦争と太平洋戦争を発動した張本人であり、血に染まった殺人者である。安倍首相が哀悼し、尊崇する「英霊」には彼らも含まれている。

 世界中の注目の下で行われた安倍首相の靖国参拝は、被害国の人々の感情を著しく傷付けた。靖国参拝が注目される政治外交問題になることは避けられず、「参拝地震」とも言える未曾有のインパクトを日本にもたらしている。

 安倍首相にとって今回の参拝は、周到に練り上げられた政治的パフォーマンスだった。このような「ショー」にあえて踏み切ったからには、批判を受ける覚悟もあるだろうし、事前に対応マニュアルさえ用意していたかもしれない。

 安倍首相の靖国参拝の背景となっているのは現代の特殊な時代的変化である。

 日本は第二次大戦後、極めて複雑な形で敗戦を受け入れざるを得なくなった。日本はその後長期にわたり、「吉田ドクトリン」に沿っていくつかの原則を立て、経済発展に力を入れた。だが政策決定者らは大国志向の戦略を放棄したわけではない。経済力が高まり、国際情勢が変化する中、日本は、「経済は一流」だが「政治は二流」、「軍事は三流」という状況を変えるのにやっきになっている。中曾根康弘氏が首相であった頃には政治大国となる意図を顕在化させた。安倍首相の就任後は、憲法改定による軍事力強化のもくろみも進められている。12月17日には、日本の安全保障の「3本の矢」とも言える「国家安全保障戦略」と「防衛計画大綱」、「中期防衛力整備計画」が同時に打ち出された。「国家安全保障戦略」の2つの車輪である「国家安全会議設置修正案」と「秘密保護法案」も衆参両院を通過している。「秘密保護法」は強引な審議で政治的混乱が起き、安倍首相の支持率は急速に下落した。

靖国神社参拝は、このような状況において押さえつけられた情緒の発露とも捉えられるし、日本を敗戦という枷から解き放ち、軍事的な勃興をもくろむ大国志向とも考えられる。また日本の国力が相対的に弱まっていることに対する焦りや困惑、中国や韓国との外交の行き詰まりに対する不満もうかがえる。

 安倍首相は今回の参拝で互いに関連した「三位一体」のシステムに「敬意」を示した。国のために犠牲となったという「英霊」と戦没者遺族・右翼勢力、さらにここ一年の自らの政権の実績である。

 安倍首相は参拝によって、大国志向と厳しい現実との溝によって生まれた日本の焦りとうっ憤を晴らそうとした。さらに「有言実行」の力強い政治家のイメージを固め、保守世論の支持を集め、政権の基盤を強化しようとした。

 安倍首相の靖国参拝のこうした論理は説得力を持たず、人々の心配の種となっている。過去に侵略戦争を繰り返し、自らの地位に不満を持ち、軍事的な勃興を意図する日本に、世界はいかに直面すべきか。十全とは言えない論理に基づいて安倍首相が参拝断行という政治的リスクを冒したことは、戦後の国際秩序に挑戦を突き付け、国際的な道義と人類の良識に背くものであると同時に、東アジアにおける貴重な平和と協力のチャンスを損なう愚挙である。今回の参拝は、安倍政権さらには日本の国家イメージにとってマイナスがプラスをはるかに上回る行為となった。(文:張勇・中国社会科学院日本研究所中日関係研究センター秘書長)

 

 「人民網日本語版」2013年12月31日

 

 
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