課外活動の場となる小学校

     

帽児胡同小学校で紙パルプ絵に取り組む子どもたちの真剣な表情

教室の壁に向けて置かれた十数台の電動ミシンに向かい、ジャージ姿の子どもたちが一心不乱に作業をしている。4年生の王静宜ちゃんは布きれに縁をつけ、それをミシン針の下に置いた後、手際よくボタンを押し、ミシン針の上下運動に合わせて布をゆっくり引いて縫っていく。彼女にとってミシンを使うのはこれが3度目だ。前2回でつくったバッグは大切な宝物で、春の遠足の時に初めて使うのを楽しみにしている。となりの丸々と太った男の子は、頭を突き出して静宜ちゃんに、「ここからどうすればいいの、教えてよ」と質問している。男の子は今日が初めてのミシン体験だが、この精巧で美しい機械の魅力に好奇心がかき立てられ、早く布で何かを作り上げ、自分の成果を見せびらかしたいのだ。

この子どもたちは生まれてこの方、針仕事というものをしたことがなかったが、この教室に来てみてモチベーションに火がついたようだ。電動ミシンは操作しやすく安全で、子どもたちは怪我をする心配がほとんどない。ミシンで個性に富んだバッグやコースター、財布などをつくることができ、またつくったものが持ち帰れるので、子どもたちは教室を離れる時に大きな収穫を手にしている。

学校から「活動センター」に変身

ここは北京市東城区南鑼鼓巷(なんらここう)エリアにある帽児胡同小学校の布小物教室だ。長さ585メートルの帽児胡同は、北京でも有名な胡同(路地)の一つであり、明代には梓潼(しとう)廟文昌宮と呼ばれ、清代から帽児胡同と呼ばれるようになった。文昌宮は道教で学問の神とされる文昌帝を祭る廟で、帽児胡同小学校はその跡に建てられた学校だ。

帽児胡同小学校では、小学校では当たり前の子どもたちの朗読の声やチャイムの音が聞こえない。姿勢を正して先生の話を聞いたり、宿題をしたりする必要もない。ここには、手を動かして実践する授業や情操を育てる芸術教室だけがあり、ここで行われる授業はビーズや布の小物づくり、版画、中国画、陶芸、園芸、舞踊、機械・電気入門、飛行機模型づくりなど、書物中心の詰め込み教育では学ぶことができないものばかりだ。

1950年創立の帽児胡同小学校はかつては普通の小学校だった。それが、北京市小学校規範化建設プロジェクトが実施され、敷地面積わずか1630平方メートルの帽児胡同小学校は、北京市が新たに公布した小学校設置基準に達しないことになった。そこで2009年に同校は児童募集を停止し、2010年に東城区はソフト面とハード面でのグレードアップを行い、ここを同区の小学校3年生から高校1年生までが利用できる校外教育資源センターに衣替えし、「帽児課程活動中心」(カリキュラム・アクティビティー・センター/以下、帽児センター)というもう一つの名前をつけた。

 男の子も電動ミシンの操作に興味津々だ

シルクフラワーづくりに没頭する北池子小学校の5年生董宛琪ちゃん

このセンターの誕生は、東城区によって実施された「ブルー・スカイ・プロジェクト」とかかわりがある。これは、子どもの課外活動を充実させるために、同区は2005年から学校および博物館、天文館、著名人旧居などの社会教育資源を活用し、塀や囲いのないキャンパスを構築し、子どものためにオープンで連動性のある文化活動スペースをつくるプロジェクトだ。

毎学期末になると、帽児センターの教師はカリキュラムを各小中学校に配り、各校はニーズに合わせて次の学期の授業を申し込み、子どもたちは好みに合わせて授業を選ぶ。センターでの授業は学校の日常的カリキュラムに組み込まれており、センターでの授業がある時は子どもたちは集団で出かける。学校が遠い場合は、センターの教師たちが必要な材料を持ち、学校まで出向いて出張授業を行っている。

 雲南省保山市騰沖県の教師たちに紙パルプ絵を指導する王立軍先生(右から2人目)

「たくさんのお金をかけなくても美しさが作れる」

布小物教室のにぎやかさと対照的に、版画教室はしんと静まり返っている。子どもたちは「紙パルプ絵」(紙パルプを生かして作った絵)づくりに真剣に打ち込んでいる。故宮の近くにある北池子小学校から来た3年生の張豊文くんは、長方形の発泡シートに鉛筆で海の波と水面に浮かんだ泡を描き、またつまようじの先に黄色い絵の具をつけて、ピンセットで少しずつ泡の中に入れ、画面の立体感を出すのに余念がない。

帽児センターの手作り材料は、ほとんどがどこでも入手できる不用品と中古品だ。子どもたちが使った発泡シートは使い終わった掲示板から切り取ったもので、絵の具もDIYで作られている。「私たちは使用済みのコピー用紙をシュレッダーで裁断した後、水に一時間半ほど浸してにかわ状にします。それに乳化剤と顔料を加え、『紙パルプ絵』用の絵の具を作っています」と、王立軍先生は説明してくれた。

不用品を宝物にする過程で、子どもたちは先生に啓発され自分の発想を作品に吹き込み、オリジナルな作品を生み出している。布の切れ端が一変してきれいな財布になる。靴下が、綿を詰めて縫い合わせた後にボタンを取り付けると、表情豊かな可愛い「靴下人形」となる。校庭に落ちた木の枝も金粉を塗ると精美な装飾品となる。「美意識があれば、たくさんのお金をかけなくても美を生みだすことができるのです」。周心悦校長先生は、楽しい教育という学校の運営方針の中で、子どもたちにこの理念を伝えたいと思っている。

 

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