元中国人民外交学会秘書長 黄星原
|
黄星原
1960年黒龍江省生まれ。吉林大学卒業後、外交部(外務省)新聞司(報道局)に就職。駐日長崎、福岡、大阪各総領事館、駐日大使館で勤務。2007年、中国人民外交学会に異動し、秘書長、副会長などを歴任し、今年から駐トリニダード・トバゴ大使。 | 早稲田大学の大学院で学んでいる娘がたびたび私に質問する問題がある。普段接する日本人の多くはとても友好的で、一方、安倍晋三首相も日本でとても人気があるが、なぜ中国は日本が右傾化していると言うかというものだ。防衛大臣を務めたこともある自民党の石破茂幹事長も中日のシンクタンク・フォーラムの席上、私に、日本は戦後数十年平和の道を歩んできたが、なぜ中国はいつも日本が軍国主義を復活しようとしていると言うのかと質問した。日本の著名なニュースキャスター・田原総一郎氏も同様に、中日関係は荒波を乗り越えてようやく良くなってきたのに、なぜ今また不安定になってきたのかと私に問いかけた。
日本の右傾化問題については、中国が言い出したのではなく、自らのあらゆる行為が表しているのだ。25年前、私が初めて大阪で仕事をした時、日本の右翼が駐大阪中国総領事館前で騒ぎを引き起こしていたので、当時弁公室主任だった私は表に立って大阪府や警察との交渉に当たり、右翼の頭目と「対話」したことさえあった。しかし、当時彼らは基本的に行儀はよかったが、民衆からは異端視され、孤立していた。しかし、今日の右翼の行動は猖獗をきわめ、大声でわめいたり、大使館や総領事館に乱入したり、門扉を破壊し、火炎瓶を投げたりするようになっている。問題は、最近右翼団体主催の多くの騒々しいデモに少なからぬ民衆が参加していることだ。右翼の主張がより多くの共感と支持を得るようになったのか、あるいは長く続いている経済の低迷にあえぐ国民が発散の口実にしているのか、私にははっきりしない。日本のメディアとは仕事の関係で私は十年余りの付き合いがあるが、一貫して右寄りの『産経新聞』はひとまず別として、長く中立公正を標榜してきた『読売新聞』やNHKも、ひんぱんに過激な言論を発表したり、あるいは極右的視点の一部政治家や学者に発言の場を提供し、不偏不党であるべき公器の建前まで捨て去っている。私から見るとかなり右寄りのひとりの記者が、最近、私を大いに驚かせる話をしたのもうなずける。その記者は、同僚から日本の世論についていけない少数の親中派として批判されているというのだ。では、日本の政治家はどうかといえば、問題討論から問題発言まで、さらに問題発言から問題参拝までエスカレートしている。過去には、問題の発言や行動があったと見なされた政治家は外交紛争を引き起こしたとして引責辞任したはずだが、現在ではこれにかこつけて逆に支持率を伸ばすほどだ。さらに教科書問題では、国際的な批判の声は年々高まっているが、戦争を美化した教科書の採用比率も年々上昇している。もしある国に右翼団体があり右翼首相までおり、右翼メディアから右翼教科書までが売れ行き上々だとすれば、この国が右傾化していないと言えるだろうか。
日本で軍国主義が復活しているのではないかという問題について、私は日本が最近、軍事的、安全保障面で行っている猛攻撃を脇において、私がテレビで公開討論に出演した時に挙げた例をもう一度繰り返そう。私はかつて若い在日中国人監督を応援していた。彼は10年も掛けて、『靖国』というドキュメンタリー映画を撮った。後に、私は中国で出版された彼の同名の著作の序を書いた。この本は中国で非常によく売れ、映画は日本では攻撃されたが、国際映画祭ではドキュメンタリー部門の賞を受けた。この成功の理由は、ドキュメンタリーの制作者がいかに驚くべき事実を暴露したか、あるいは批判を行ったかというものではなく、10年にわたる靖国神社に関する記録自体によって、ひとびとが深く考えさせられたからだ。ある日本の若者はこの映像を見終わった後で、私に言った。彼は靖国神社には行ったことがなく、なぜ中国や韓国がこれをしつこく問題にするかが分からなかった。しかし、このドキュメンタリーを見終わった後、特に石原慎太郎元東京都知事のヒステリックなパフォーマンスを見て、靖国神社の鳥居前に集まり、軍服を着て軍隊の記章をつけた旧軍人たちが牙をむく戦争の喧騒を見て、遊就館の説明書きが黒を白と言いくるめるようなものであることを見た後で、彼は深い恥辱と戦争という闇の恐怖を感じたと言う。私たち自身すら受け入れ難いものなのだから、多くの外国人がわれわれを理解しないのは当然だ。参拝した日本の政治家たちもこのドキュメンタリーをしっかり見て欲しいと彼は言った。
私が駐日中国大使館でスポークスマンをしていた5年間は、小泉純一郎首相がかたくなにも6度の靖国参拝を行った5年間でもあった。私は1978年に14人のA級戦犯がこっそりと合祀された日から、これらの戦争悪魔を祀っている靖国神社に政治家は行くべきでなく、特に首相はここに絶対に足を踏み入れるべきでない、と思った。戦犯の家族たちも、政治家たちが自分の利益のためにたびたびここにやって来て、死者の安らかな眠りを妨げて欲しくないと思っているだろうと思う。中国にはひとたびヘビに咬まれたら、十年は井戸のナワを恐れるという言葉がある。この言葉は、日本の過去の侵略の歴史を連想しながら、日本のリーダーたちが現在行っている行為を見れば、誤った歴史観を持つ右翼的な首相が、A級戦犯が祀られている神社に参拝するのが平和を祈願するためだと言っても、誰が信じるだろうか、ということを物語っている。現政権の改憲の動き、そして特別秘密保護法案の強行採決を併せて考えてみれば、被害を受けた国が日本の軍国主義復活を懸念するに十分な理由があると言える。
田原氏の質問に答えるが、中日関係は政治の基礎や感情の絆、共通の利益を一体に縛ることにより、発展することができることである。しかし現在、政治の基礎はしばしば日本人の一部の人々、特に首相の身分を持つ国家首脳によって率先して破壊され、感情の絆は恣意的に傷つけられるだけではなく、さらには歴史的なトラウマに再び引き裂かれてしまう。そうした場合に、共通の利益はいかに守られるか。われわれは中日両国間に小さい問題があっても恐れないが、人為的なトラブル、特に中国側の核心的利益、及び中日関係の政治的な基礎など方向性がある問題においてトラブルを起こすことは欲しない。一昨年12月26日、安倍政権が発足した当初、私は『人民中国』と『環球時報』に安倍政権の発足がパンドラの箱を開けることを意味するかもしれないという文章を発表した。1年間後の昨年12月26日、安倍首相の行動はわれわれの懸念に道理がなかったわけではないということを証明した。当時、私は安倍首相に以下の三つのアドバイスをした。1番目は領土問題において危ない道を歩かないようにすること。2番目は参拝問題において一か八かの選択をしないこと。3番目は米国を重視する「唯米独尊」で隣国とのギャップを広げないこと。首相が私の文章を読んだということを人伝に耳にしたが、もちろん首相は私のアドバイスを聞き入れないだろう。しかし、首相は少なくとも日本国内や国際社会からの声を聞くべきで、日本国民の未来を考えるために自暴自棄になるべきではない。
実際にところ、私も首相にお尋ねしたいことがある。靖国参拝は日本の政教分離の原則に違反し、さらに国際法違反であり、中国、韓国のみならず米国でもマイナスの印象を強めたことを、あなたはご自身が爽やかであれば、ほかは我関せず、考慮の外なのか。あなたのようにラディカルな右傾的視点を持ち、他人が何と言おうと構わずに行動する首相にリードされる日本は、どうやって国際舞台でより大きな役割を果たせるのか、またどうやって国際社会の信頼をえられようか。
人民中国インターネット版 2014年1月10日
|