モバイル通信からモバイル決済へ |
モバイルネットワークの発展につれ、モバイルインスタント通信ソフトが業界で注目されるようになった。現在の業界の状況について、あるインターネット産業従事者は、「IT産業はアイデア勝負の世界だと思われているが、実はアイデアだけで業界に根を張ることはとても難しい。いつワニのような強力なライバルが迫ってきて、類似製品を開発し、苦労して開拓した市場を奪ってしまうか分からないからだ」と、冗談めかして言う。
騰訊はまさにその「ワニ」だと言える。中国のモバイルインスタント通信分野でいくつかの優れた製品が現れたが、騰訊の微信(ウィーチャット)が誕生すると、他社製品は立場がないほどの苦境に陥った。 微信は日本で流行しているLINEと似たような機能とインターフェースを持っている。QQアカウントとバンドリングすることもできるが、携帯電話番号にバンドリングすることが多いため、微信を通じてより実際的な人間関係が構築できる。LINEと異なるのは、微信はビジネス化の道をさらに進んでいることである。微信では、公式アカウントの登録は無料で、表情マークを売ったりはしているものの、主要な収入源にはなっていない。微信の狙いはモバイルペイ市場への進出にあるのだ。 今年の春節(旧正月)には、微信は「お年玉」機能を導入した。中国人は春節に、一族のお年寄りや子どもたちにお年玉を配る習慣があるが、微信はそれに乗じて電子お年玉サービスをPRした。お年玉は特定の個人に贈ることもできれば、友達グループみんなに分けるように設定することもできる。たとえば、20人に計100元という基準を設定し、各人が受け取れる金額はシステムがランダムに決定する。ほんの数円程度かもしれないし、100円くらいはもらえるかもしれない。お金を配ろうとする人は銀行のキャッシュカード番号を入力すれば、好きな金額のお年玉を配ることができ、お年玉をもらった人はキャッシュカード番号を入力すれば、すぐにもらった現金を引き出すことができる。
このサービスは春節前に大いに人気を呼んだ。毎回数元しか手に入らないものの、みんながこれを楽しんだ。里帰りの波に乗って、最初にこのサービスを使った若者たちがこのシステムをふるさとに持ち帰り、家族、親戚、友人に広めた。この「お年玉」サービスによって、微信は2日間で2億枚のキャッシュカードデータを手に入れ、支付宝が8年にわたってようやく成し遂げたものと同等の業績を手に入れた。人々の情熱がまだ冷めやらぬうちに、微信は相次いでレストラン予約、映画チケットの代理購入、ショッピング、タクシー予約などのさまざまなサービスを打ち出し、単なるモバイル通信ソフトをモバイルプラットホームへとシフトさせた。 BBSからSNSへ、QQから微信へ、ネット上のコミュニケーションは匿名によるものから実名のものへと変わってきている。バーチャル世界と現実世界の境界はますますあいまいとなり、ソーシャル活動とビジネス活動の境界もなくなりつつある。微信は通信、ソーシャル、消費を一体にしたプラットホームを開発し、東南アジア、南米・北米市場にも普及させようとしている。微信の後ろには、淘宝網の「来往」、中国電信(チャイナテレコム)と網易(163.com)の提携による「易信」が猛烈な勢いで続いており、モバイルペイ市場進出に狙いをつけている。少なくともアジア市場では、モバイル通信ソフトからモバイルプラットホームへのシフトの将来性が見込まれているようだ。 微信はすでにモバイルネットワークという大きな船の乗船券を手に入れたと外部から評価を受けているが、これに対し、「微信の父」とも言える馬化騰氏は、自分はまだ心配している。今はまだ、埠頭の入場券を手に入れたに過ぎないと述べた。「それに乗って終点まで行くことができるかどうかは、まだ分かりません。私はこの仕事の魅力は、この未知にあると思っています」 |
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