急がれるリスク管理向上

沈暁寧=文

中国企業は対外投資を推進する過程で、大きな見返りを得てきたが、多額の学費も払ってきた。その成功も失敗も中国企業の国際化にとって貴重な経験だ。中国のエコノミスト、経済人は対外投資について、広範な検討を行い、その得失を深く分析し、中国資本が世界に溶け込むための戦略と道筋を模索している。

現地化からソフトパワーへ

昨年9月、遼寧省大連で開催された夏季ダボス会議でコスタリカのアンベル・ゴンザレス貿易相は次のような認識を示した。「中国の対外投資は目下、短期利益重視から長期的で、持続的な効果を発揮する協力にシフトしている。例えば、中南米、アフリカに多額の投資をしているが、すべて現地の人的資源を利用してマネジメントを行い、マネジメント業務を節約し、調和の取れた投資関係の構築を推進している」

確かに、中国企業が投資先国の現地業務を重視する重要な目的は、製品のブランドイメージを打ち出すことにある。この点について、北京京城重工機械有限責任公司の責任者・劉軍氏は次のように認識している。

「外国人はブランド意識が強く、インドでの調査、研究によると、次のような結果だった。インドでは欧米、日本製のブランドがインド産よりも20%も高くても喜んで買うが、中国ブランドは全く信用しておらず、インド産よりも20%安ければ買ってもいい、というのが一般的だ」

5月、李克強総理(前列右端)がエチオピアを訪問した際に、同国のメンギスツ・ハイレ・マリアム首相(前列左から2人目)とともに、中国が投資し建設した軽量軌道のボルトをしめた(新華社)

そこで、劉氏の公司はイタリアの空中作業プラットホーム製作企業を買収する際に、同社が長年培って来た業務と人脈も考慮に入れ、最終的に「現地化」によるマネジメント方式を採用した。つまり、そのイタリア企業が元々持っていたマネジメントモデルを継続し、現地スタッフの自主管理に委ね、北京本部は定期的に人を派遣して監督する程度にとどめたのだ。

劉氏は以下のようにも考えている。「その企業が従来持っていたマーケットチェーンを乱さない方が、ブランド力の継続的な拡大に都合がよく、同時に買収後、わが公司は外国企業の先進的な技術、手段を学ぶこともできる。現在、海外プロジェクトに必要な関連部品は北京本部で製作することで、すでにコストダウンを図り、企業競争力を強化し、将来的に海外で自主ブランドを創り出す基礎を築いている」

彼のこの手法は、今ではすでに、対外投資企業の普遍的な戦略になっている。こうした変化について、朱寧・上海高級金融学院副院長は次のように評価している。「短期利潤益重視に比べて、イノベーション、ブランドなどのソフトパワーを重視するという長期的な利益重視が、中国対外投資の発展の方向であり、国外企業にとっても、中国企業と長期的、安定的な協力を進めるか否かの鍵になるだろう」

理性的な投資先選びに転換

中国経済が構造調整とバージョンアップ期に入ったのに伴って、中国資本の「走出去(海外発展)」も新たなモデルチェンジに直面している。以前は資源、技術獲得を重視するか盲目的な「底値買い」を目的にしていたが、今では理性的な投資先選びが中国企業の海外買収の新たな特徴になっており、これが中国の世界経済との融合をよりスムーズにしている。

長期間、国際的なM&A(企業合併、買収)、仲介業に携わってきた馬凱グループの李震理事長は次のように分析している。「中国国内の労働力、土地、資金などの各種資源のコストが高騰しており、また世界的な経済構図がバランスを欠き、不平等になっているので、国外へ企業移転し、そこでスープをいただくことが、一部の中国企業の新たな選択肢になっている。こうした企業について言えば、対外投資は世界経済のチェーンに加わり、安定的な収益を上げることにつながり、グローバルな企業展開を実現することでもある」

昨年のフォーブス中国版で富豪ナンバーワンだった万達グループの王健林理事長は「万達は26億㌦を投じて、業界世界第2位の米国の映画館チェーンAMCエンターテイメントの株を100%取得したが、これは万達の国際化の第1歩だ」と語った。また三鼎ホールディングの丁志民理事長は「大量の中国資本が海外の不動産、インフラ、食品産業分野に進出していることから見て、中国企業が海外の基礎的、普遍的な産業に進出し始めていることが分かる」と指摘した。「国内では多くの産業分野で生産能力の過剰が深刻で、競争激化、利潤率の低下に見舞われている状況から言って、対外投資の増加は利益追求の資本の本質的な特性であり、完全に市場経済のルールに応じた企業行動だ」と述べた。

中国企業の対外投資行動がますます理性的になり、市場化するにつれ、国外の「中国資本観」も次第に穏やかになってきた。昨年9月、中国の食品業大手の双匯国際ホールディングは71億㌦で世界最大の豚肉生産・食肉処理企業の米国スミスフィールド・フーズを買収した際、スムーズに米国外国投資委員会の認可を獲得した。米国商務省のフランシスコ・サンチェス国際貿易担当次官は、国の安全保障に関わる一部の項目には審査を行うが、大部分の分野では中国資本の参入を歓迎すると表明した。

中国政府も中国資本が理性的な対外投資を行うことに明確な支持を表明している。李克強国務院総理は昨年の夏季ダボス会議で企業家代表と懇談した際に、次のように語った。「われわれは中国の実力、信望を持つ企業の海外発展を奨励する。これはわれわれ自身にとって利益であり、みなさんにとっても利益だ」

 

 

1   2   >>  

 
人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850