高原=文
「国家新型都市化計画(2014~2020年)」(以下「計画」と表記)は人間本位を強調し、人を中心とする都市化を推進するとしている。31章からなるこの計画には、「条件を満たした農業移転人口に都市部の戸籍を与える」「農業移転人口が都市部で基本的な公共サービスを享受できるようにする」「農業移転人口の都市民化の健全な推進メカニズムを構築する」といった農業移転人口の都市化問題に直接関係する章が三つある。他の章にも新都市住民の生活の各方面について、都市民化した農民の帯同子女が平等に教育を受ける権利、公共の就業教育・起業サービスシステムの整備、社会保障のカバー範囲の拡大、基本的医療条件の改善、住宅保障手段の多様化などの一連の措置を打ち出している。
「人間の都市化」は「計画」の中でも最大の焦点となるだろう。
都市部新住民の幸福のために
「計画」の「人間本位」という理念は、今年3月に発表された「政府活動報告」においてすでに深く言及されている。李克強国務院総理はこの報告において、「三つの1億人」という表現で、「人間の都市化」のために解決しなければならない問題を総括した。李総理は、「今後しばらくの間、1億人の農業移転人口に都市の戸籍を与え、1億人が住む都市部のバラック密集地と『城中村(以前は農地だった都市近郊に形成された居住区域)』を改造し、中西部の1億人が住む地域の都市化を実現するという『三つの1億人』問題の解決に重点を置く」と語った。
「人間の都市化」がこれほど重要視されるのは、長い間、中国では「土地」の都市化が「人間」の都市化よりはるかに速いスピードで進んでいることが一つの要因である。『21世紀経済報道』が発表した統計によると、2001~2007年、中国の地区クラス以上の都市が管轄する区域の建設用地面積は平均で70・1%増加したが、人口の増加率はわずか30%にとどまっている。大量の農地が都市部の建設用地になったが、都市人口はそれに同調して増加することはなかった。都市の規模拡大のスピードは人間の都市化よりはるかに速い。しかも、現在の総人口の52・57%を占める都市人口の中には、「見せかけだけの都市住民」が多い。例えば、2億人を超える農民工(出稼ぎ労働者)は大・中都市で、建築作業員、飲食業従業者、清掃作業員、家政婦など都市生活を支える仕事をしており、都市の正常な機能のために大きな貢献をしているが、住宅、医療、社会保障、子どもの教育の面で、都市部住民と同様な福祉は受けられない。近年、政府は戸籍という障壁を取り除くための取り組みを続けているが、その進捗は明らかに土地の都市化より遅れている。農民は依然として都市部で6カ月以上滞在している「常住人口」に過ぎず、真の都市住民になれないのである。
しかし、新型都市化においては、農民工の都市民化を実現するだけでなく、さらに数億人にものぼる農村の住民が都市部に移住し、新都市住民になることを目指している。現段階で、特に「人間の都市化」という理念が重く見られているのは、農民工と農村移転人口が今後の改革による利益をより多く享受し、新都市住民が都市部で生存空間を見つけられるようにするためである。
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河南省嵩県のある農家が新たに入居した住宅区で結婚披露宴を開き、村の人々を招待した |
消費拡大による経済成長
個人レベルで言えば、「人間の都市化」は都市部に新たに移り住んだ人に必要な身分を与え、彼らの生活の幸福指数を向上させ、農村・農業人口の減少によって農業効率の向上と農民の増収を図るものであるが、マクロレベルで言えば、農村人口が都市民化する過程の中にも、経済成長をけん引する巨大な原動力が秘められている。
例えば、農村部での消費は家屋建設の消費と祝祭日の消費、特にお酒の消費が主だが、都市部では、衣料品、娯楽、工業消耗品などの消費が行われる。「都市住民の消費は農村住民の3倍で、農村住民の都市民化は消費の成長を促す効果が期待できます」と、中国社会科学院農村発展研究所マクロ室の李国祥副主任は語る。
中国社会科学院都市発展と環境研究所が発表した都市化報告によると、2030年に中国の都市化率は68%程度に達し、2030年までに約3億9000万人の農業移転人口の都市民化の実現が必要となる。中国の中西部地域の都市化率が1ポイント向上すれば、国内総生産(GDP)の成長率1ポイントを引き上げることができ、1平方㌔ごとの市政施設の建設によって、1億5000万元投資が拡大し、都市人口の増加によって、1人あたり2万5000元の消費拡大が期待できる。国際経済環境が大きく変化し、中国が中所得国の仲間入りを実現し、経済のマイナス成長のプレッシャーに直面している現在、新都市化による発展けん引力はいっそう重要となるだろう。
ポイントで戸籍獲得
農民工、農村移転人口の都市民化を推進するため、河北、江蘇、浙江などの12省が相次いで農業戸籍と非農業戸籍の区分制度を撤廃した。広東省中山市が最初に打ち出した農民工ポイント制都市戸籍獲得政策がまもなく全国的に展開されることになれば、農民工の大・中都市での定住という難題解決の糸口になるかもしれない。
ポイント制都市戸籍獲得政策とは、都市部で仕事を始めて満1年以上の農民工は、ポイント制の適用を申請することにより、所在都市の戸籍を獲得し、市民としての福祉を享受することができる制度である。ポイント制は基本得点、付加得点と減点からなり、申請者の学歴、キャリア、居住年数、発明・特許や奨励・処罰状況、ボランティア活動、投資・納税状況といった十数の項目についてのポイントを加算し、違法・犯罪行為については減点されるものである。毎年、ポイントの順位に基づいて、それ相応の福祉待遇と都市戸籍が与えられる。こうして、公開された透明な方法により、公的資源の配分問題が解決される。中山市だけでも2010年以来、すでに3万人以上(帯同子女含む)がポイント制を通じて中山市の戸籍を獲得し、そのうち、80年代生まれと90年代生まれの「新世代の農民工」が6割以上を占める。これらの若者は子どもの教育のために、都市戸籍に対してより切実なニーズがあり、彼らがなるべく早く都市戸籍を獲得できるような環境づくりが実現できれば、彼らはより速く都市生活に溶け込むことができるだろう。
しかし、100万人を超える中山市の常住外来人口にとって、ポイント制を通じて戸籍を獲得できるのは、まだごく一部の「幸運児」に過ぎない。都市の戸籍を獲得できなかった農民工も地元社会に溶け込むことができるような、社会各界の支援が必要である。
中山市流動人口管理弁公室と電子科学技術大学中山学院が共同で、同市の新世代の農民工を対象に行った調査によると、53%以上の新世代の農民工は地元で開催される各種のイベントに興味があるが、参加方法が分からないため、地元のコミュニティーに対する親近感がなかなか持てない。そのため、中山市の多くの鎮・区で「農民工のコミュニティーへの溶け込みを促進するモデル」の模索が行われている。
南頭鎮の南城コミュニティーは中山市の「農民工のコミュニティー溶け込みを促進するモデル」の最初のテスト地区となった場所である。この地区にある長虹、TCLなどの家電メーカーで仕事をしている農民工は地元住民の2倍の2万人以上で、ほとんどが新世代の農民工である。同コミュニティーは農民工の出身地が集中している四川省、江西省、広東省の潮汕地区(潮州、汕頭、掲陽、汕尾などを含む地域)からそれぞれ1人の農民工代表を推薦により選出し、住民委員会の特別委員としてコミュニティーの管理に参加してもらっている。
特別委員に選ばれた江西省出身の彭華さんによると、彼ら特別委員の提案により、コミュニティーに活動センターが設けられた。農民工たちはここでスポーツや娯楽を楽しむことができる。「毎月1回、大型の交歓会が行われ、毎晩大小さまざまなイベントが行われています。今までマージャンで時間つぶしをしていた農民工たちも、今では上演プログラムに参加したり鑑賞したりして、豊富多彩なイベントにより、地元住民との交流を深めています」
バラック改造で生活改善
李国祥副主任は取材に応じて、今後の中国経済成長の最大の潜在的原動力は農民工の都市民化にあるが、「新型都市化は質を重んじるべきで、盲目的にスピードを追い求めてはなりません」と語った。
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授業を終え、スクールバスに乗って帰る張家港市永聯村の小学生たち |
現在、中国の多くの都市では、農民工と一部の地元住民はいまだ居住環境が劣悪な「城中村」やバラック密集地に住んでおり、都市に居ながらもそれほど快適な都市生活を享受していない。そのため、新型都市化を推進する上で、「城中村」とバラック密集地の改造も早急の対応が必要となっている。
遼寧省は中国においてバラック密集地が最も多く、最も集中している省の一つであった。遼寧省では全国規模のバラック密集地の改造がまだ始まっていない1987年から、市場化モデルによるバラック密集地の改造の試みを展開してきた。2004年末、遼寧省の李克強党委員会書記(当時)は当省のバラック密集地の改造活動を省の最も重要な「1号プロジェクト」に格上げした。
遼寧省撫順市の莫地溝はかつて地元でよく知られたバラック密集地であった。2005年4月、莫地溝のバラック密集地の改造活動によって、遼寧省全域のバラック密集地の改造活動はスタートを切った。そして続く10年間で、遼寧省はバラック密集地の改造における大量の経験を積み重ね、独自の道を切り開いた。現在、車に乗って同市の市街地から真っすぐな道路を行くと、わずか十数分のうちに、道路の両側に建ち並ぶクリーム色の6階建ての建物が目に入ってくる。これが莫地コミュニティーである。同コミュニティーの事務棟の3階にある事務室の掲示板には、「人間本位は空論ではなく、あらゆる資源を投入しても、すべての住民をバラック密集地から引っ越しさせる」という意気込みを感じさせるスローガンが掲げられていた。
2014年5月、遼寧省の陳政高元省長は住宅・都市農村建設部の党グループ書記に任命された。陳書記が遼寧省で行ったバラック密集地改造の経験は全国範囲で応用され、住宅・都市農村建設部の「バラック新居改造」計画がまもなくスタートする予定だ。一方、資金不足は今後、全国のバラック密集地改造の最大の問題になる可能性がある。業界関係者は、2013年から2017年にかけて1000万世帯に及ぶ各種のバラック密集地の改造を実現するには、約2万5000億元の資金が必要だと推測している。
この資金プレッシャーを解消するため、中央政府は今年から財政投入を拡大した。4月4日、格安賃貸住宅と公共賃貸住宅の建設、都市部の各バラック密集地の改造を対象にした3種類の中央財政による補助資金を含め、財政部は保障型住宅プロジェクトのための計1158億元の専用資金を用意し、その金額は昨年比14・3%増となった。今後さらに住宅金融債券も発行される予定で、これは今年ないし今後のバラック密集地の改造にとって、大きな後押しとなるだろう。
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