幼児教育に伝統の知恵 書道で鍛える体と精神

 

高原=文  馮進=写真

 日曜日の午前、北京西山美墅という住宅地にある建物の2階で、小学校2、3年生の数人が書道の授業が始まるのを待っていた。彼らが受ける授業は一般の書道の授業と違って、臨書(手本の模写)はするものの、先生による文字の書き方や構造についての説明は少なく、書によって古人の心や世界観を学ぶものである。また、先生は子どもたちの座り方を正したり、呼吸の調整法を教えたりし、時には立たせてカンフーの構えを練習させる。指導している周亜君先生からすれば、書道とカンフーは根底に相通じるものがあり、それはどちらも身を修め、基礎を打ち立てる方法なのである。

 

書道は芸術ではない

 

 北京生まれの周亜君先生(48)は幼い頃から伝統文化の薫陶を受けており、首都師範大学書道科を卒業して、1982年に康有為の弟子で著名書道家である戴暁峰氏に師事し、書道と伝統武術を習うようになった。戴氏の影響のもとで、周先生の書道に対する理解は一般の人をはるかに上回るものとなった。

 

 例えば、周先生は書道を芸術の範疇に入れて論議することに反対である。芸術は技法、スタイル、構想などにこだわるが、これらのものは書道にとって最も重要なものではないと考えているからだ。字を書く時は身体・生命を筆とし、墨の跡を息使いとすべきだと彼は師匠から教えられた。全身の力で字を書き、それに合わせて息を調整し、自分の生命体験を溶け込ませるのである。

 

 そのため、子どもたちにカンフーの構えを取らせ、足をしっかりと地に着け、体から余分な力を抜いた後、足元の力を肩、そして腕まで伝え、紙を貫くほどの力を出すようにと教えている。さらに授業の中で、趙孟頫(南宋から元代にかけての文人、書家、画家)ら古代の名筆家の拓本を生徒たちに臨書させるが、具体的に横線や点をどのように書くかを教えるのではなく、「挙一反三(一つのことから類推して多くのことを知る)」「天人合一」「心外無物」などの言葉の意味を説明したり、古人の世界観や精神を解説したりする。「文字をまねるのではなく、古人の心をまね、気骨を継承すべきです。どんなに趙孟頫の字そっくりに書けたとしても、それは趙孟頫二号に過ぎず、それ以上の発展はありません。唐代の人は唐代の気韻があり、宋代の人は宋代の気勢があり、私たちの時代にはこの時代なりの書道スタイルがあるべきです」と周先生は言う。

 

 子どもたちにとって、字の良し悪しは二の次に過ぎず、それより重要なことは、書道の中から中国の伝統文化の粋を汲み取り、身体と精神上の二重の錬磨を行うことだと周先生は考えている。

 

伝統的な幼児教育法の実践

 

 周先生は2013年に大正書院を創立し、書道を糸口に、中国の伝統的な幼児教育体系を伝承し、それを振興させようとしている。同書院は各年齢層に向けて生徒を募集しているが、重点的に3~7歳児向けの寄宿制クラスを開設している。ユニークなのは必修科目に「斯文」「立本」「勤心」「換骨」という四つがあることである。周先生はそれらの科目を次のように説明する。「斯文」は古代の典籍を読み、歴史上の人物と事件を知ってもらう科目で、「立本」は正直かつ誠実な性格を養成する科目、「勤心」は心の感性をいつまでも鋭く保つための科目で、「換骨」は書道により、さらにカンフーの構え、拳法の練習などを通じて、優れた姿勢、体格、精神力を作り出すための科目である。

 

 こんなに小さな子どもに歴史を語ったり、道理を聞かせたりしても、彼らは理解できるのか、と聞くと、彼は自信たっぷりにこのように語った。「子どもの受容能力というのは大人の想像をはるかに超えるもので、彼らは白紙のようで可塑性が極めて強いのです。教育を受ける最初の段階で最も重要なのは、彼らを正直で、落ち着いた気性にすることで、彼らに事の道理をわきまえさせてから、知識を学ばせることです。さもなくば、どんなに知識が多かろうとも、間違った道に踏み込んでしまう可能性があります」

 

 周先生のクラスには現在、何人かの特にやんちゃな子どもがおり、三つ四つ字を書くと、すぐに大騒ぎを始め、おとなしくしていることができない。周先生はこれにとても心を痛めており、欧米の快楽教育、モンテッソーリ教育法などが中国の伝統的な幼児教育に大きな衝撃を与えているためと推測している。子どもたちは欧米式の教育を受けているが、彼らが生きている社会は伝統的な考えや伝統的な習俗に支配されているという矛盾が、彼らの落ち着きのなさに結びついていると考えているのだ。「中国には、『3歳でその育ちが分かり、7歳で将来が見える』という言葉があります。彼らが今、落ち着いて字を書くことすらできないなら、今後何ができるというのでしょうか」

 

 このような憂慮を抱え、周先生は大正書院によって、伝統的幼児教育の価値を人々に見直させようとしているが、現時点では、イバラの道だと言わざるを得ない。書院で学ぶ子どもたちがこうした伝統的な私塾教育に適応するのは難しく、一方で子どもに付き添ってやって来た保護者は、子どもを待つ間に自発的に習字をしたりしている。もしかしたら、その年齢にならないと、自分の心が渇望したり、不足したりしているものを発見できないのかもしれない。

 

 子どもたちが現代社会とのつながりを完全に失うことがないように、大正書院は半ば妥協的に英語、数学、絵画、彫刻などの実用課程も開設しており、これにより、欧米式の現代社会と中国の伝統文化の間の「中庸の道」を探ろうとしている。

 
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