IT青年が羽ばたく拠点「ガレージ・カフェ」 |
高原=文 北京の「シリコンバレー」と呼ばれる中関村界隈に、一風変わったカフェがある。午前10時過ぎ、付近のカフェはまだ人影もまばらだが、このカフェはすでにお客さんでごった返している。中には、名札とディスクトップパソコンが置かれた指定席を持つ人も少なくない。彼らはカウンターでコーヒーを注文すると自分の席に戻り、パソコンの電源を入れ、天井から吊り下げてあるテーブルタップを引っ張り下ろして、持参したノートパソコンもそれにつなげ、そのまま一日中そこに居る。訪問者が来ると、ここでプランや提携条件などを話し合う。ここが北京でよく知られた民間IT創業基地、「ガレージ・カフェ(車庫珈琲)」だ。 低コストのオフィス 大連出身の于建家さんは、かつて中国の大手ネットサービス会社である百度(バイドゥ)で技術開発に携わっており、同世代の中でも収入は悪くなかった。しかし、「現状に満足できない。やはり自分の製品を作りたい」という思いがつのり、思い切って仕事をやめて起業することにした。于さんは今、「推酷」というサイトを経営している。このサイトでは、コンピューターのプログラムによってユーザーのアクションとニーズが自動解析され、インターネット上に公開されている天文学的数字にも達する文章の中から、ユーザーの気に入りそうな文章が選別され、お勧め通知が発送される。2011年5月、ガレージ・カフェが開業してわずか1カ月後、于さんはここをオフィスとして業務を行うようになった。 ガレージ・カフェは中国初の起業者向けのカフェで、「ガレージ」という名前は、米国で多くの大手IT企業の創始者が自宅のガレージで起業したことにちなんでおり、起業しようとするIT青年に低コストの拠点を提供することを目指している。24時間営業で、20元のコーヒーを注文しさえすれば、一日中ここで仕事ができる。また、セルフサービスのコピー機、プリンターもあり、会議室も使え、スポンサーが1ギガにも及ぶ高速Wifiを提供しているほか、展示されている国内外のさまざまな先端電子機器も試用できる。 于さんがここで仕事を始めたばかりの頃は、周囲の人たちとの交流はめったになかった。ここに来たのは、雰囲気が良く、最新情報に触れるチャンスがあるからで、さらに単純な理由としては、彼が借りている部屋にはクーラーがなく、暑くて仕事どころではなかったためである。ここで黙々と仕事をして1カ月後、ようやくガレージ・カフェのオーナーの蘇菂さんが彼に気づき、彼の仕事について聞いてきた。その時于さんはようやく、この店がオフィスを提供しているだけでなく、若者たちにとって貴重な、人脈と融資のルートも提供していることを知った。 投資家との橋渡し ガレージ・カフェのオーナーの蘇さんはもともと米国のナスダック上場企業の投資ディレクターを務めており、「優れたプロジェクトの発見が得意」と自認していた。しかし、毎日多くても4、5のプロジェクトチームとしか接触できないため、思い切って仕事をやめ、ガレージ・カフェを創設し、優れたプロジェクトチームが集まる場を創り出した。一つチームが入るたびに、蘇さんはできる限りそのプロジェクトについて知り、自分が持つ豊富な人脈を利用して、特に優れた者を適切な投資者に推薦し、あるいは他のチームに紹介して、何か新しい創造が生まれる環境づくりを試みた。ここに常駐していたチームが相次いで投資者を獲得したため、ガレージ・カフェの名声も日々高まり、起業を志すチームが続々とやってくるようになった。また、多くの投資機関も人をここに派遣して、定期的に起業者たちとおしゃべりしながら、優れたプロジェクトを探すようになった。 こうして、于さんのプロジェクト「推酷」も、ここで貴重なチャンスを得た。それは数万元の資金援助と3カ月間インキュベーターに入居するチャンスで、後には、さらに数十万元の追加投資を受けた。于さんは、あのカフェに居た時代は、とても幸せだったと述懐している。 揺ぎない起業の信念 現在、于さんはインキュベーターを出て、北京の郊外にオフィスを借り、二人のメンバーと共に研究開発を続けている。「昨年の春節(旧正月)は実家に帰省しませんでした。これまでは毎年数万元を持って実家に里帰りしていましたが、起業してからというもの、いつ利益を出せるかもわからず、近所の人に聞かれるのが怖くて、実家に帰ることができません。でも、まだあきらめるつもりはありません。すべての投資を大切に使っています。投資者にとって失敗はひとつのプロジェクトを失うに過ぎませんが、僕にとってはすべてを失うことです。そのため、慌てて失敗したくないし、ゆっくりと成功に近づいて行きたいと思っています」と、于さんは率直に語る。 現在でも于さんは週1、2回このカフェを訪れ、仕事の相談や、他の起業者との交流を行っている。ガレージ・カフェに通う多くの若者と同じように、彼はコネや後ろ盾などはなく、アイデアだけを持った一般人に過ぎず、自分のこだわりと情熱を頼りにここまで続けてきた。取材の合間に、はにかみ屋に見えるある技術者の男性が、長い間ためらった挙句、どうにか勇気を振り絞り、私たちに自分の製品を売り込んできた。またカフェの別の場所では、ある人が小さな舞台に立ち、正午の交流時間を利用して、マイクを使って、意気も盛んに自分のアイデアを紹介し、アドバイスを求めていた。ここには、こつこつ努力しながらチャンスを待っている熱血青年だけは事欠かないようだ。
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