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精神を継承、商品性高める

 

店内に飾られた各種匂い袋

 第3代継承者として、井さんは曹氏匂い袋をさらに優れたものにしたいと思っている。刺しゅうを学び始めた子どもの頃、母親は彼女に、素晴らしい刺しゅう作品を作ろうと思うなら、より生活に密着しなければならないと教えた。例えば、ニワトリを刺しゅうするなら、ただ写真や描かれたものを見るだけではなく、しっかりニワトリを観察すべきで、そうして出来上がったものだけが自然で身近に感じられるのだ。「母の作る匂い袋は非常に人気がありました。数十個の匂い袋を縁日に持って行っても、小半時もすれば売り切れてしまいました。でも、当時の匂い袋は使う色が少なく、多くは赤が中心でした。今の人の美的感覚は大きく異なっており、好みも多様化しています。そこで私は色やデザインを刷新しましたが、これは大きな効果を生み出しました」と井さん。

井さんの母は、一貫して彼女が匂い袋にち密な刺しゅうを施すのに反対していた。コストが高すぎるというのだ。しかし、井さんはそうは思わなかった。以前の人々は匂い袋を日用品として見ており、しばらく使った後は捨てられるものだった。しかし、もし刺しゅう工芸と中に入れる香料の配合に改良を加えれば、高い鑑賞性と収蔵性を備えるものになる、井さんはそう考えたのだ。彼女は匂い袋に美しく緻密な刺しゅうを大胆に施した。以前は100針程度で袋いっぱいの図案を描くことができたが、緻密な刺しゅうを施すと数千針、数万針に及ぶことになった。しかし、そのぶん作品は非常にきめ細かなものになった。香料の品質も非常に重視し、配合される18種類の香料は老舗の天津達人堂など信頼できる相手から仕入れている。

彼女のさまざまな努力の下、曹氏匂い袋は国指定の無形文化遺産に登録された。2010年の上海万博では、中国館の端午節の贈り物として各国パビリオンのスタッフに配られた。14年の南京ユースオリンピックでは、彭麗媛国家主席夫人が各国指導者夫人と南京博物館を参観した際に紹介された。現在彼女は、このかつて門外不出だった伝統工芸を、多くの弟子に教え始めている。彼女は、曹氏匂い袋はすでに「徐州匂い袋」になっており、優れた工芸を受け継ぐため、より多く人材を発掘すべきだと考えている。

「人材選びのポイントは『愛』の1字に表されます。なぜなら匂い袋を愛してこそ、外界の影響に惑わされず、気持ちを傾けられるからです。中国を訪れた外国の方は、自然の景色のほか民族の文化を見たがります。私は、どの地方の無形文化遺産もその土地の文化を代表する名刺のようなものだと考えているのです」

 

 

 

 

人民中国インターネット版 2015年6月