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隣の席のあなたと

 

讃井 知

一瞬のうちに広がる光とバリバリバリという爆音。そして、華やかな光と音が去った後に残される沈黙と陰影。

世界的現代アーティストの蔡国強さんの手にかかると火薬は時間を閉じ込める力を得るのだろうか。爆発は物や生命に終焉をもたらすものと思っていたが、目の前の映像では作品は爆発によって永遠の生命を吹きこまれていたのである。―

私は横浜美術館で開催されている、『蔡国強展・帰去来』を見にきていた。蔡さんは火薬を用いたアートで有名であるが、今回の展覧会では作品に加えその制作の様子が流されていた。

実は、蔡さんの作品に出会ったのは今回が初めてではない。今から約一年半前、福島県いわき市に来た際に、蔡さんが制作に携わった「いわき万本桜プロジェクト」が行われているいわき回廊美術館を訪れた。

若いころ日本に留学していた蔡さんは、いわきの人々と共に生活をともにし、また制作活動を行っていた時期があるそうだ。いわきの方々は蔡さんとの思い出を、温かさを感じる方言で熱心に私に話してくれた。「自分たちはアートのことも分からないし、中国のこともよくわからない。でも、そんなの関係なかった。みんなで一生懸命一緒に汗を流して感動を共有した。それで十分だった。」ということを仰っていた。

そして、世界的に有名なアーティストとなった今も、震災後にはこうしていわきに足を運び一緒に復興の願いを込めてプロジェクトを進めてくれていることに感謝と感激をしていた。

私は友人も大学の先生も中国人の方が多くいる。とても素晴らしく尊敬できる自慢の方が多いには違いないが、それでもまだ、私の中にはまだ中国に対して決してプラスではない偏見が存在していることを否定できない。その原因は何なのだろうか。

日本と中国は国家規模でたくさんの問題を抱えている。そのせいもあってか、両国民はお互いに必ずしもプラスのイメージを持っている人ばかりではなく、さらに相手国の人が自分達にそのように感じていることも知っている。そうして、自分達には直接なんの利害関係も生じていない人達までもが相手国の方を色眼鏡を通して見るようになってしまった部分があるのではないだろうか。

その結果、私たちは普段、個人間の違いを国の違いと感じてしまうことが多いと思う。食い違う価値観を国の違いのせいにして、「文化が違う」「分かり合えない」という一言で思考を停止させてしまうのだ。

人間は、往々にして国に縛られた存在なのかもしれない。でも、蔡さんの作品、またいわきの方々との友情によって深く感動した今、「そんなこと、何も気にすることはないのかもしれない。」とも思う。

国が違い文化も違い趣味も興味も違う人達が、ただ出会い、そして協力し合うことで「違い」を超えた感情の交流を可能にしたのだ。そして、その感情の交流が新たな作品を生みだし、今や世界中の万人の心に感動を届けている。

私は座右の銘を「自分の隣にいる人を幸せにする」としている。まずは隣にいるあなたを笑顔にする。大人になるにつれて強さと知識を身に着ければ、世界を広げ多くの人と出会うだろう。そうして幸せにする人を増やしていこう、と。

私の通う大学院には多くの留学生がおり、授業によっては中国人学生の方が日本人学生より多い場合もある。席が隣同士になることも多く、彼らはよく質問をしてきてくれるのだが、分からないことは何も悪いことではないのに、何故だかとても控えめで遠慮や恐縮をしていることが多々ある。そんな時、見えない壁を強く感じ寂しい気持ちになる。数ある留学先の選択肢の中から日本を選んでくれ、希望と志を持ってきたはずなのに心地よく過ごしてもらえないのは日本人として大変悲しい。

不要な色眼鏡をはずして隣国を隣人として見つめ、切磋琢磨することが日中友好に繋がるのだと信じて、隣の席に座ってくれたあなたと同じ方向を見つめて共に学び、よい時代を作りたいと思う。

 

人民中国インターネット版 2015 年12月

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