古川 裕樹
湖南省の長沙に留学していた時のこと、ある日、中国人の徐先生が、「面白いイベントがあるので一緒に参加しませんか?」と声をかけてくれたのがきっかけで、私は「湖南百公里毅行活動」に参加することになった。このイベントは長沙から株洲まで2日間かけて100kmもの距離を仲間と一緒に歩くイベントである。高校の頃、長距離走をやっていた私は、持久力に自信があったので、喜んで参加することにした。
当日は朝7時すぎに出発し、徐先生や湖南師範大学、湖南大学、中南大学の友だちと一緒に歩き始めた。日本語を勉強している友だちも参加していたので、私は中国語や日本語を交えて会話した。彼らは日本の簡単なあいさつや、流行語を知りたがっていたので、いくつか教えてあげた。私はみんなから中国の流行語を教えてもらった。みんなと一緒に話しながら歩くと、あっという間に時間が過ぎてしまう。楽しくて充実した時間だった。
中国の道を歩いているといろんな発見があった。道路の傍らで牛が放牧されていたり(日本ではこんな光景はあまり見られない)、今回のイベントがあることを聞いてお弁当を販売しにくる人がいたり(美味しいお弁当だった)、歩きながらいろんな景色を見ることができた。普段バスや鉄道で移動するよりもより深く中国を観察することができ、自分の足で歩くことの大切さが分かった。
一日目は湘潭まで60km歩いた。全長100kmの行程は、大きな橋を渡ったり、靴がドロドロになってしまうような泥だらけの道を歩いたりして、本当に山あり谷ありのコースだった。50kmを過ぎた辺りから足が棒のようになり、足にまめができ、さすがに疲れてきた。そんな時に徐先生がみんなにチョコレートを配ってくれたので、それを食べて元気を回復し、歩き通すことができた。
二日目はゴール地点の株洲体育館まで40kmの道のりを歩いた。みんな筋肉痛で疲れていたが、励まし合って歩き続けた。午後6時を過ぎて辺りは真っ暗だった。待ちに待ったゴールがいよいよ見えてきた。100kmを達成したときは飛び上がるほどうれしかった。私たちはゴール地点で記念証書をもらった。私はこの記念証書に一緒に歩いた友だちのサインをしてもらった。この時の喜びは今でも忘れられない。
中国に留学中、私は日本ではできない様々な体験をした。もし日本でずっと過ごしていたら、友だちと一緒に100kmを歩き通すようなことはなかっただろう。自分の肌で直接感じる中国、本やテレビ等のメディアを通じて知る中国、私の中には、さまざまな中国のイメージが入り混じって存在している。けれども、自分にしか体験できないという点において、留学中に私が肌で感じた中国のイメージは何よりも大切なものであった。
大学の講義、岳麓山の景色、橘子洲、臭豆腐の香り、可愛い犬や猫、活気溢れる人々、宿舎のおばさん、大学で仲良くなった友だちの顔。中国は私にとってかけがいのないいっそう身近な存在となった。
今年の夏、私は再び中国に行き、安徽省の黄山に登った。山頂近くの宿で出会った山東省の青年は頑張って日本語を勉強しているという。「あなたは日本人ですか?12月に日本語能力試験があってね、今度は一級を受けます。」彼は笑顔でこう話しかけてきた。私自身も中国語の検定を目指して勉強中だということを話し、互いにがんばりましょうと励まし合って別れた。帰国後、関西空港のシャトルの中で「また中国に行ってみたいなぁ」と思った。
日中交流というと、あらたまった感じがするが、実際は自分の周りの人々とコミュニケーションをとるという私たちが日常でも当たり前に行っていることである。日本人だろうが、中国人だろうが、あまり関係ないことだと思う。大切なことは、喜びや苦労を共にし、分かち合うことではないだろうか。
人民中国インターネット版 2016 年2月 |