現在位置: サイト特集>Panda杯 全日本青年作文コンクール
変わらぬもの

 

濃野 司

私と中国を繋ぐもの。それはある学生団体との出会いである。

私は現在、就職活動を控えた大学3年生である。友人との会話で、どのような事を選考会で面接官に話せば良いか分からない、という声をよく耳にする。しかし、私は来年の就職活動で何を面接官に訴えかけるかを既に決めている。

2年前、私は大学生になって初めての夏休みをどのように過ごそうか思案していた。知己から、あるプログラムへの参加を誘われたのは丁度そんな風にあれこれ考えていた時だった。

「東京で日本人と中国人の交流合宿をするから参加しないか?」かねてから両国を取り巻く歴史認識問題について関心があった私は二つ返事で参加を決めた。これが私の学生生活を予想もできない方向へと誘った「日中学生交流団体freebird」との出会いである。

この学生団体は2005年に上海で設立され、上海・関東・関西に支部を持つ(2013年当時)「日中の学生交流の場を創出する事」を目的とした学生団体である。日中両国の学生が多く所属している。私が参加した交流プログラムはfreebirdの基幹事業であり、設立から毎年日中交互に開催地を替えて行われている。

討論会や成果発表会など、緻密に計算された1週間のプログラムの内外で、私は国境を超え新たに出来た中国の友人に、関心事であった歴史認識について率直に尋ね、相手の意見・認識に真摯に耳を傾ける事が出来た。

相手も同世代である。取るに足らない話題から、敏感な話題まで本当に気兼ねなく、存分に意見を交わらせる事が出来た。そこに見たのは、メディアによって伝えられる少し変わった「隣人」ではなく、自分達と大きく変わらない「隣人」の姿であった。

私がこのプログラムから得た見識、感情、そして各地より集った友人達は、私が今までまるで井の中で暮らしていたかと思わせるほどに世界を広げてくれた。

非常に感銘を受けた私が、この団体に籍を置くようになるまで、そう長い時間は要さなかった。大学二年生になると、関西支部の代表も務めることとなった。

時は移ろい、2015年の交流プログラムの開催地に私が代表を務める関西支部のお膝下、京都に決まった。そして迎えたこの夏は、2014年に新設された北京支部も加わり4支部、日中両国から約40名の学生により交流プログラムが催行された。

例年、日程の終盤に地域一般の方へ向けて、交流プログラムの中で学んだ事を全参加者が発表する場を設けている。

この発表は両国学生が混在した数チームが、参加者のみの力で発表内容の選定から結論の落とし込みまで行う。出会って1週間程度、ましてや国籍の違う人間同士が議論し、発表できる形にまで持って行く事の困難さは想像に難くない。

中には明け方まで続く議論の中で、感情が昂ってしまう参加者もいる。それでも不思議な事に、毎年最も評価の高いコンテンツはこの発表会とその準備である。

私はその理由は簡単な事だと思う。皆が同じ一つの目標に向かって、邁進する事に国籍、背景、思想の違いなど意味を持たないのである。そこにあるのは、仲間であり信頼できる「隣人」である。

思い返してみると事業の準備にも同じ事を言えるだろう。日本人・中国人など関係なく、お互いの得手、不得手を補い合いながら一年間という長い時間をかけて一つの目標に向かって心を合わせる日中各支部のメンバーは、苦楽を共にした真の仲間であり、私たち運営側もある意味で交流活動を行っていたのではないだろうか。それも知らず知らずの内に行っていた本当の意味での信頼を醸造する交流である。

異なる角度からの物の捉え方、そしてそれを受け入れること、同じ思いの前には他の事は大した問題でないこと。たった3年ではあるが、以上が「隣人」から私が学んだ全てである。

就職活動を経て、私はもうすぐ社会へと旅立つ。学生と社会人。ステージは変わろうとも私は私の理想を持ってこれからも「隣人」と付き合い続けて行く。

 

 

人民中国インターネット版 2016 年2月

 

 

人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850