「二人っ子時代」と向き合う

孫雅甜=文

 今年1月1日から、中国では全ての夫婦が2人の子どもを持つことを認める政策(以下、二人っ子政策)が施行された。これは、35年間にわたって続けられてきた「一人っ子政策」の終わりを告げるものだ。そして、新しい出産政策の対象となる家庭にとって、2人目を産むか産まないかが、新たな悩みとなっている。

──一人っ子政策に別れ

1980年9月25日、中国政府は「夫婦1組が子ども1人を育てる」ことを呼びかける正式な文書を発表した。同文書には「30年後、現在の深刻な人口急増問題が緩和されれば、異なった人口政策を講じることもある」という文言も盛り込まれていた。この後、一人っ子政策は都市部と農村部であまねく施行されるようになったが、その後も計画出産政策については不断に調整と改善が行われてきた。

1970年代から、中国は計画出産を推進してきた。73年に政府は結婚時期を男25歳・女23歳以降にするよう提唱し、1組の夫婦に子どもは2人のみ、その出産間隔も4年以上空けるようにとした。この提唱は間もなく「一人っ子は少なくない、2人はちょうどよく、3人は多い」に変わった。78年、さらに「夫婦1組が産む子どもの数は、1人が一番いい、最多で2人」という政策を明確に打ち出した。80年からは、一人っ子政策が施行された。

江蘇省南京市の乳母車を押しながら子どもをあやす母親。今年1月1日から計画出産政策の調整が行われ、一組の夫婦が第2子出産が認められた(東方IC)

そして、86年前後から、河南省を除く各省で相次いで「夫婦2人とも一人っ子ならば第2子の出産を認める」という政策が採用された。21世紀に入ってから、14の省が第2子の出産間隔などの制限を次々と取り払った。

2013年末、政府は「夫婦どちらかが一人っ子ならば第2子の出産を認める」という政策を打ち出した。それから2年後、二人っ子政策を全面的に実施することが公表された。出産可能年齢にある夫婦は一人っ子かどうかにかかわらず、出産意欲があれば、第2子を産むことが認められたのだ。

──新政策の背景と影響

国家の人口政策の変化は社会や経済全体に深く影響を与えるが、その背後には必ず複雑な深層の原因がある。

まずは、すでに危険と言えるほど下がった中国の出生率だ。2015年は本来「夫婦どちらかが一人っ子ならば第2子の出産を認める」政策の効果が表れる年であるにもかかわらず、今年1月19日に国家統計局の発表した最新のデータによると、15年度の出生人口総数は1655万人で、前年より32万人減少した。人口学の専門家は「第一に出産可能年齢の女性数が減りつつあり、第二に出産可能年齢女性の出産意欲が低下している」と原因を分析している。中国社会科学院が発表した「経済青書2015年中国経済情勢の分析・予測」によると、直近の中国の合計特殊出生率は1・4で、女性が一生に産む子どもの数は平均で1・4人にすぎない。これは「低出生のわな」が発生すると国際的に認められている1・3に迫る数値だ。「低出生のわな」とは、子どもを持たない人々が増えるにつれ、子どもを持つ人の経済的コストが増加し、それが子どもを持とうという意欲を減退させ、さらに少子化が進むというものだ。

二つ目の原因は、加速する高齢化だ。人口構造で見ると、中国の高齢者人口の割合は、10年の13・3%から14年には15・5%と増加している。中国は高齢化の進行が最も速い国の一つになっており、高齢者の日常生活における各種の問題もますます際立っている。国連の統計によると、今世紀半ばには中国の60歳以上の人口は5億人近くに達する見込みだ。出生率が低下し、若年人口が減少している中で、将来誰が働いて税金を納め、数億人のお年寄りを養っていくのかという厳しい課題が突きつけられている。

三つ目の原因は、低出生率と高齢化によって若年労働力が減少し、ひいては労働力不足が起こり、人口ボーナスがなくなることだ。14年、中国社会科学院人口・労働経済研究所の蔡昉所長は、「04年に中国では出稼ぎ労働者不足という現象が現れた。影響の範囲は沿海部の都市から内陸地域まで急速に拡大し、その勢いは一向に衰える気配がない。末端の労働者の賃金もこの時から現在まで上昇し続けている。10年には、15歳から59歳の生産年齢人口がマイナス成長に転じた。つまり、04年から10年までの間に大きな転換が現れ、10年以降は生産年齢人口が減少し続けているのだ。日本では30年かかってこうした転換が起きた。韓国では40年だ。それが、中国ではわずか6年間で起こってしまった」と指摘している。

四つ目の原因は、一人っ子の高齢者介護の負担が重く、一人っ子を失った家庭も社会からの支援を必要としているということだ。中国の家庭規模は1982年の4・43人から2010年の3・1人まで絶えず縮小してきた。一人っ子家庭は1億5000万世帯を超えている。このため、家庭の出産や育児、高齢者介護面での機能が低下している。多くの一人っ子は深刻な介護負担問題と向き合い、力不足を痛感している。また、不幸にして一人っ子を失った多数の家庭は、精神的に大きな打撃を受けたのみならず、経済問題や医療介護問題においても、困難に直面している。

申年を記念して年初に発行された切手は1匹の親猿が2匹の子猿を抱いているデザインになっており、「二人っ子政策」の全面実施を表しているともいわれる(東方IC)

では、二人っ子政策は中国の経済、社会にどのような影響を与えるのだろうか。まず、短期的な人口増加は明らかだと考えられる。国家衛生・計画生育委員会の予測によると、20年前後には毎年約1700万人が誕生するものと見られる。しかし、総人口の変化は小さく、29年にピーク値の14億5000万人に達する見込みだ。短期的には、二人っ子政策によるベビーブームによって食品、玩具、婦人乳児医療、子ども服、自家用車(SUVやMPV)の売上が伸び、教育業界の発展がけん引されるだろう。中長期的には、中国の人口構造が改善され、高齢化のスピードを減速させる効果がある。このほか、新たに増える人口は不動産業界にも直接的な利益をもたらす。長期的には、二人っ子政策の施行により、新たな人口ボーナスが発生し、中国の潜在的な経済発展が加速し、最終的に各業界が利益を得ることになる。

 

 

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