シルバー市場に海外も注目 | ||
──制度の見直しが急務 現在はまだ社会保障制度が不完全なため、病気になったり寝たきりになってしまった場合の巨額出費を恐れて、都市部に住む高齢者は経済的に余裕があっても財布のひもは固い。政府は高齢者の後顧の憂いを取り除くためにも社会保障制度の整備を進めている。しかし、その中でも年金や医療保険の納付制度の確立が遅れ、積み立て不足となっているため、豊かになる前に高齢化社会になる問題に直面してしまっている。 中国社会科学院が昨年末に発表した「中国年金発展報告2015」によると、14年末までの都市部労働者基本年金保険基金の積立残高は3兆1800億元(約57兆4000億円)だという。しかし、そのうち9174億元(約16兆5000億円)は帳簿上のみに存在しており、実際には欠損となっている。この不足分は前年比で2334億元(約4兆1700億円)も増加している。全国31の省・自治区・直轄市の中で、14年の保険料納付の収入が支出を上回ったのは広東省、北京市、浙江省、江蘇省、上海市など八つだけだった。一方の医療保険も楽観視できない状況だ。昨年末に発表されたデータによると、都市部労働者の医療保険基金は収支のバランスが取れており、繰越金もあるという。しかし、近年の支出の増加率は常に収入の増加率を上回っている。東部沿海地域の医療保険支出の増加率は毎年5~6%で、西部内陸地域の立ち遅れた省や自治区では10%以上に達するケースも見られるという。
こうした問題を解決するために、13年に開かれた中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議では、退職年齢の段階的引き上げ政策を検討・制定することが打ち出された。国務院の人力資源・社会保障部(厚生労働省に相当)は今年、具体的な計画を打ち出し、社会各界から意見を求める予定だ。退職年齢の引き上げをめぐる社会の論争はいまだ収束していない。1月、財政部(財務省に相当)の楼継偉部長(大臣)は署名記事を発表し、政府が定年退職者を医療保険料納付の対象として検討していることを明らかにした。また今年は、長期介護保険や所得税優遇型の健康保険を打ち出し、資金の積み増しを加速させる計画だ。そして、高齢者に対する全面的な保障を提供することでシルバー消費を拡大させようとしている。 ──日本の経験を参考に 数ある先進国の中でも日本の高齢化対応の経験が、中国にとって最も参考にする価値のあるものだ。政策、社会保障制度などだけではなく、高齢者介護の理念と技術もまた、中国で介護、福祉に関わる人たちにとって学ぶべきところが多い。中国の高齢者福祉施設のスタッフは日本の同業者との交流を強く望んでいる。日本の介護理念と手法を学ぶことを心から希望しているのだ。 北京市内にある多くの新しい高齢者福祉施設は日本の設計理念を取り入れており、従来型の老人ホームとはまったく異なっている。例えば、従来型の老人ホームでは全ての部屋に浴室やトイレが完備され、寝たきりの高齢者にはシャワーの代わりに体を拭くサービスを提供していた。しかし、多くの新しい老人ホームでは日本の介護理念を参考に、要介護高齢者の部屋にトイレを設けていない。また、体を拭くという方法もやめ、車椅子または介護用ベッドで高齢者を浴室まで運び、自動化された設備でシャワーや入浴をさせることで、快適性を大幅に向上させている。 しかし、日本の経験にせよ、欧米の経験にせよ、中国にそのままそっくり取り入れるのは難しいと専門家は指摘している。海外から施設、設備を導入するのは簡単だが、サービス理念やスタッフの資質の向上を実現させるまでの道のりはまだまだ遠い。以前から、中国では高齢者介護に従事するヘルパーを低く見る傾向がある。北京、上海のような大都市でヘルパーの仕事をする地元出身者は非常に少なく、ほとんどが農村部からやってきた女性の出稼ぎ労働者だ。非識字者さえいる状況では、質の高い介護を提供するのは容易なことではない。優れた高齢者介護スタッフを育成するためには、中国の人々が考え方を変えて、新たな視点からこの業界を見ることが必要だ。 現在、中国は外資のシルバー産業への進出を歓迎している。新しいシルバーサービスの理念を導入し、専門的人材を育成したいためだ。すでにフランス、ドイツ、オーストラリアが、中国で各種シルバーサービスのプロジェクトを展開している。また、日本最大の介護業者であるニチイ学館は中国の家事代行サービス会社6社をすでに買収している。今年はさらに10社を買収し、多くの都市で訪問介護サービスを提供する計画だ。中国のシルバー市場の将来性には誰もが注目している。
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