今後も中国は世界経済のエンジン

北京大学国家発展研究院名誉院長 林毅夫

林毅夫(Lin YIfu)

1952年台湾宜蘭県生まれ。8 2年米国シカゴ大学経済学博士、86年米国イェール大学経済発展センター・ポストドクター。90年国務院発展研究センター農村部副部長、93年北京大学教授、2008年世界銀行副総裁兼チーフエコノミスト、現在は北京大学国家発展研究院名誉院長。

中国経済は2010年から減速を続けており、現在も依然として経済の下押し圧力は大きく、この減速は通常外部から、中国内部の構造的問題に起因すると見られている。例えば効率が低下した国有企業、高い負債水準、高齢化、持続不可能な投資型成長モデルなどだ。さらにこうした問題の解決は決してたやすいものではないとされる。

客観的に言って、モデルチェンジの時期にある経済体として、中国には確かにいささかの構造的問題が存在している。13年の中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)が行った全面的な改革深化の決定は、すなわちこれらの問題を解決するためのものだった。しかも、10年以降に出現した中国経済の減速は実はかなりの部分で外部の周期的要因によるものだ。仔細に分析すればすぐに分かることだが、現在中国経済に出現している問題は中国が引き続き世界の経済成長の主要なエンジンであることに影響するものではない。

良好な投資機会

中国政府の目標は、2020年までに国内総生産(GDP)と都市住民の平均所得を10年時点の倍に引き上げることだ。将来の数年の外需には弱含みの状況が出現するかもしれないため、中国がこの成長目標を達成できるかどうかは内需の形勢にかかっている。そこには投資と消費が含まれるが、この双方にはいずれも良好なチャンスが存在している。

まず、中所得国として、中国には工業生産能力のレベルアップを実現する十分な機会がある。鉄鋼やセメント、ガラス、アルミニウム、造船、その他の工業分野において深刻な生産能力過剰が出現しており、伝統的労働集約型加工工業で賃金が絶え間なく上昇して相対的なアドバンテージを失っているとしても、それらはいずれもミドルレンジ、ローエンドの産業に属するものだ。中国はミドルレンジ、ハイエンド産業へのモデルチェンジの過程に、例えば特殊鋼材、精密工作機械、先端設備などの分野に多くの投資機会を有している。このような投資は高い経済収益をもたらすものだ。

次に、中国の過去のインフラ投資は主に高速道路、高速鉄道、空港、港湾などを通じて都市と都市を結ぶものだった。しかしながら、地下鉄や汚水処理システムのような都市内のインフラは極めて不足している。こうした分野への投資はビジネスのコストを低減し、経済効率を高め、高度な社会収益と経済収益をもたらす。

第三に、中国では環境保護分野への早急な投資が求められている。経済の急速な成長過程で、中国は深刻な環境汚染問題に遭遇した。この分野への投資は高い社会収益をもたらすものだ。

最後は都市化だ。現在、中国では人口の約55%が都市で生活している。先進国の都市化水準は通常80%を上回っている。将来、経済の発展と都市化水準の高まりにつれて、住宅、都市インフラ、その他の公共サービス分野への投資が必要だ。

現在の経済成長の減速に際しても、中国にはまだ多くの良好な投資機会があり、この点が発展途上国としての中国と他の先進国との主な違いだ。先進国のインフラや環境は全体的に良好であり、都市化はすでに完成している。もし先進国の工業に生産能力過剰が存在すれば、新しく良好な投資機会を見つけるのはたやすくはない。このため、経済が不景気の時に、単純に先進国の経済を持ちだして中国の成長潜在力を判断することはできない。

資金にも依然余裕

良好な投資機会以外に、中国にはまた投資を支える十分な資金がある。

まず、中国の中央政府、地方政府の公的債務の総計はGDPの60%にも満たない。ほかの大多数の発展途上国や先進国では、政府債務がGDPを上回っている。

山東DURABLの新エネルギー車組立ラインでバッテリーを装着する作業員。新エネルギー研究開発などハイテク産業は、中国経済の新たな原動力になっている(新華社)

中国の十分な財政余地は一部の合意されたインフラ投資を支えている。唯一の制約は、地方政府が銀行やシャドーバンキングからの借り入れによる短期債務で過去の長期インフラ投資の清算を行っていて、期限的な不整合を引き起こしている問題だ。中国財政部(省に相当)は最近地方政府が長期インフラ債権を発行して彼らのこの債務問題を解決することを許可した。必要な状況下において、中国政府はこれとは別に政府の支出拡大による拡張的財政政策の採用によってインフラ投資を支えることができる。

次に、中国の家庭総貯蓄はGDP比で50%に近く、世界でも最高水準となっている。政府は官民パートナーシップ(PPP)利用によるインフラ建設を含む積極的な財政政策によって、個人投資をてこ入れすることができる。

さらに、投資には外貨による海外からの技術、設備、原材料導入が必要だ。中国は3兆3000億ドルの外貨準備高があり、これは世界最多だ。

これらの条件は、なぜ中国が他の発展途上国と異なるかを説明している。他の発展途上国も多くの良好な投資機会を有しているが、それらの国では外部からの経済下押しのリスクを受けた時に、しばしば投資が財政力の弱さ、個人貯蓄率の低さ、外貨準備高不足の制約を受けるが、中国にはそうした制限がない。

成長目標は実現可能

前述の有利な条件を持つ状況下で、中国は相対的に高い投資成長率を維持できる。そしてこれは雇用機会をもたらし、家庭所得を増加させ、また消費成長をかなり高い水準で維持させる。これらの有利な条件が「第13次5カ年計画(13・5)」期間(2016~20年)に変化することはないだろう。外的条件に改善が見られなくても、輸出が相対的に弱含みでも、中国は依然として国内投資や消費成長で経済成長目標を実現する能力を有する。

成長目標達成能力を有するため、中国は引き続き世界経済成長の主要なエンジンであり続け、グローバル経済の成長に毎年約30%の貢献をしていくことができる。

 

 

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