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日中交流のカタチ

 

日高 真太朗 

今日、日本には多くの日中交流企画が存在している。日中交流の目的は、「相手国への理解の深化」、「日中交流人口増加」の二点にあると思う。

しかし、日中交流人口を増やすことを実現できている企画は少ないと感じている。中国に対する知識や語学力等を前提とせず、対象となる層が広い企画であっても、元々中国に興味がある人ばかりが参加する傾向にある。実例として、私は以前中国に興味のない人に来てもらえるように企画されたイベントの運営を手伝った経験があるが、その際行った調査では、約200名の参加者のうち、「元々中国に興味がなかった」、「どちらかといえばなかった」人は僅か4%だった。

中国に興味のない人が日中交流に踏み出すには何が必要なのだろうか。私が2年前、突如として中国に興味を持つようになったのは、あるプログラムに参加したことがきっかけである。内容は、「日本と中国の選抜された学生が合宿生活を送りながら日本を代表する企業を訪問し、与えられた課題に対し議論する」というものだった。参加動機は魅力的な学生と出会い、議論等を通じて刺激を受けたいと思ったからである。また、有名企業で特別なことをできるという満足感もあった。いずれにせよ、交流目的ではないので中国人の存在は心理的に負担ではなく、逆に中国人に特別期待することもなかった。議論の際、考えの多様性に触れるという面では少々の期待はあったが、それは交流というより議論を戦わせることを期してのことで、最悪の場合、中国人と口論になることも覚悟していた。しかし、合宿という性質上、空き時間の中には“日常”があった。移動中や食事の時の談笑、風呂や寝室での政治的な話や恋愛話。中国人と話す時の感覚は日本人と話す時の感覚と少し違っていた。それぞれ良さはあるが、中国人は感情の表現が素直で、話していて独特の心地良さを感じた。そして中国の個人を媒体として中国を見たとき、そこには見たことのない景色が広がっていたのである。主にテレビを媒体に形成してきた中国像はわずか数日で崩れ、新しい像の形成が始まった。企業での課題に取り組む際も、気が付くと成果物など二の次で、「相手の意見の背景には何があるのか」に注視している自分がいた。そして、それこそがプログラムの真髄だと気づいた。

「日中交流をします。参加者募集中です。」といった企画の告知を見ても当時の私は参加しなかっただろう。私は「優秀な学生と有名企業で議論できる」という点に興味を持ったのである。すなわち、日中交流の裾野を広げるためには、日中交流を前面に押し出すのではなく、広く学生の興味を引くテーマを前面に押し出した企画を充実させることが必要だと思う。例えば、官公庁や政治家の方との議論、中国人観光客を対象としての起業体験等、多くの学生が興味を持ち、かつ見栄えがよいテーマは数多くあるはずだ。

私は現在、例の企業訪問を中軸に据えた事業の代表を務めているが、今まで定員全てを“相手国に良い印象を持たない学生”で満たすことも可能なほど、幅広い層からの応募があった。最終的には参加者の半数を相手国に対して良い印象を持たない学生にしたが、調査結果を見ると、全日程終了時には印象は良い方向に変わっていたようだ。私たちは相手国に興味を持たせるような仕掛けを特別用意したわけではない。“日本人と中国人が同じ時間を共有するきっかけ作り”が肝なのである。

現在私達の事業には年間約80名の学生が参加している。同様の趣旨で事業を運営している団体もいくつかあると思うが、全体としてまだ少ない。日中交流の裾野を広げるためには、広く学生の興味を引くテーマを前面に押し出した企画の絶対数を増やすこと、一企画あたりの規模を大きくすることが必要であると思う。多様な背景を持つ人の協力により求心力のある企画が生まれ、日中交流の輪が段々と広がっていくことを切に願っている。

 

人民中国インターネット版 2016年3月

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