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中国のいまを理解したい

 

中島 大地

大学に入学した頃、私は三国志や水滸伝にぼんやりと興味を持っているだけでした。現実として存在する中国ではなく、物語の中の中国に惹かれていた、といえます。ほとんど、中国のことを知らず、中国人の友達もいませんでした。

転機となったのは大学一年の夏休みでした。天津にある南開大学に一カ月留学して、初めて現実の中国にふみだすこととなりました。それまで日本から出たことがなかった自分にとって、天津の生活は全てが新鮮でした。街並み、料理、言語。様々な点が日本とは異なっていて、衝撃を受けました。

授業の際、偶然、中国語の先生をしていた大学院生から中国の現代文学を薦められました。当時はまだ自分の中国語の能力が低かったため、内容を理解できませんでした。しかし、薦められた作品を購入して、帰国後辞書を使いながら読み進めました。その過程で、作品が現実の社会の在り方を反映していると知り、興味を持ちました。結果として、蘇童や余華といった中国の現代文学が私の卒業論文のテーマになりました。

学業と並行して、日中交流の学生団体にも関わりました。その経験も、私にとっては大きな財産です。具体的には、日中交流を目的とした学生団体のスタッフとして、2014年の夏上海に、2015年の夏北京に行き、討論会、街頭インタビュー、フィールドワークを手伝いました。

その活動の中で、多くの中国人学生と知り合いました。ある大連の大学に通う学生は、日中交流合宿に参加した後、「自分も、大連に日中交流のための学生団体を立ち上げたい」と語りました。そして、今もその準備を進めているそうです。また、ある上海の大学に通う学生は日中交流合宿に参加した後、「日本人に対するイメージがますます良くなった」と語りました。そして、東京に半年間留学に来ました。

大学生だけではなく、市井の人たちとも出会いました。今年は、抗日戦勝70周年式典がおこなわれる直前に、北京に行くことになりました。ひょっとしたら日本人に対する風当たりも強いかも知れないと、行く前は考えていました。実際、観光地の警備などは厳重でした。天安門、故宮に行くこともできませんでした。しかし、北京の北海公園で、職業に関する街頭インタビューを行った時、多くの中国人は友好的でした。そして真剣にインタビューに応じていただくことができました。メディアは、「日中関係の冷え込み」にスポットをあてることが多いですが、個人レベルでの交流は可能性に満ちていると私は感じました。

いま、私は、学部の時の研究を引き継いで、大学院でさらに中国に対して理解を深めることを目指しています。その際、日中の共通性と、日中それぞれの内部にある差異に目を向けることを意識したいと考えています。

日中という言葉が持ち出される時、しばしば両者の相違点が強調されます。しかし、隣国ということもあり、日中の間には、文化面などでは共通点が数多くあります。また、改革開放以後の中国が抱えている問題は深刻さの度合いは違っても、日本の抱えている問題と共通する場合が多々あります。過度の経済至上主義、環境破壊、少子化。問題点にはともに手を携えて対処していくことが可能です。

そして、日中それぞれの内部には膨大な差異があります。中国の小説家・余華は、≪生活在巨大的差距里≫というエッセイの中で、北京の男の子がボーイングの自家用ジェット機が欲しいと言い、農村の女の子は白いスニーカーを欲しいと言う現状を指摘して、境遇によって夢の大きさまで左右される中国を問題にしています。地域、社会階層や家庭環境によって状況は大きく異なります。同じことが日本にも言えます。日本という言葉で、ひとくくりにすると見えなくなる部分も数多くあります。その複雑さを踏まえてこそ相互理解が可能になるのではないかと私は考えています。

その二つの観点を大切にしながら、これからさらに中国を理解するため努力していきたいです。

 

人民中国インターネット版 2016年3月

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