![]() |
「ポーの故郷」は実在する | ||||||||
あの映画の景色と文化がここに 人気シリーズ映画『カンフー・パンダ3』が中国で今年初めに公開されると、主人公ポーの故郷として登場した「パンダ村」の、緑あふれる山河に雲がたなびく、この世のものとは思えない美しい自然の風景が観客に強い印象を残した。しかし、このパンダ村、実は中国に実在するある場所を取材し、それに基づいて描かれたものだ。そう、その場所こそ「青城天下幽」(青城は天下の幽美)とたたえられる成都の青城山だ。 成都市街から北西に70キロ車を走らせれば、都江堰に隣接する青城山の麓に至る。静かで落ち着いたたたずまいの中、澄み切った空気をついて鳥の鳴き声がひとしきり響いて来て、都会の喧騒の中に暮らす者には、まるでおとぎ話の世界にでも入り込んだように感じられる。青城山は四川盆地の亜熱帯湿潤気候に属し、夏には猛暑がなく、冬には酷寒がない。高さ十数㍍にもなる古木が山全体に分布し、1年を通じて湿潤なために岩もこけむして山全体が緑に覆われている。森林率は95%以上、植被率は98%以上で、マイナスイオン量は1立方メートル当たり2万5000から2万8000個と、山自体が巨大な酸素バーとなっているのだ。 青城山に入れば、緩やかにカーブしながら続く山道を数人の観光客や参拝者が連れ立って歩くのが見られ、時に行脚の道士が登って行く姿を見ることもある。ちょうど登山ウエアを着た外国人夫婦が山を登って行くのを見た。父親の背中では背負われた赤ん坊が眠っていた。一方、あずまやではお茶を飲んで足休めをしている母娘がいた。二人はそろいの白い中国服のいでたちをしており、この道教の名山とよく調和している。彼女たちは、山の自然の美しさだけでなく、それに溶け込む「道法自然」の文化の雰囲気を味わおうと、ここを訪れたという。
青城山は2000年に、都江堰と共にユネスコの世界文化遺産に登録された。登録が認められた大きな理由に、成都市が国際的な文化都市建設の過程にあって、エコ文明が都市の持続的発展に与える影響を軽視せずにいたことがある。こうした努力があって、パンダ村の草木が青々と茂る美しい景色が保たれているのだ。ジェニファー・ユー監督は『カンフー・パンダ3』制作に先立ち、米国ドリームワークス社の制作チームを率いて成都でロケハンを行い、青城山の素晴らしいエコ環境や色彩にあふれる風景を見て、ここをポーの故郷と決めたのだった。メディアの取材に対して監督は、「もし青城山に行ったことがあれば、映画の中のパンダ村を見て、きっとその場に身を置いているような感覚になるでしょう」と話している。ちなみに、同作品は日本では今年公開予定となっている。
人々の心に根差す道家思想 質朴さを求め自然を崇敬する道家の人々にとって、青城山の深い緑に包まれた環境は神仙が隠れ住むような優雅で風光明美な自然環境だ。そして、ここはかつて道教で天師と呼ばれる張道陵(張陵)が小屋を建てて道教を説いた場所ともされている。道教の成立は、黄帝(中国の神話伝説上で中国を統一したとされる5人の帝の最初の人物)に始まり、老子によって広まり、張道陵によって道教となったという説もある。後漢(25~220年)の時代に張道陵は青城山付近の鶴鳴山に来て、ここで「五斗米道」を創始し、道教理論の基礎を著した。そして、青城山は次第に道教の重要な発祥の地とされるようになった。
青城山の山道を歩けば目に入る道観(道教寺院)を始めとする各建物は、いずれも道家の「見素抱樸」(真の姿を示し純朴を守る)の哲理を表している。この地の建物は、北京の故宮のように伝統的な中軸線による左右対称を重んじているわけではなく、多くは欄干建築(高床式)構造を採用しており、山林や水系に溶け込んで一体となっている。建物に使われている材料も付近から調達したもので、一種質朴な調和の美を感じさせる。山上にある道観の道士は穏やかな様子で、優しい表情をしており、時折麓の住民や参拝者と微笑みながら言葉を交わしている。天師洞と呼ばれるこの地の主要道観の誠青道長はここで出家して40年近くなる。彼にとって道観での修行以外に、各地に出向き、道家文化を広めることも生活の一部だ。昨年、カザフスタンで行われた宗教指導者大会で、誠青道長は世界各地から集まった宗教界の人物たちに対して「和を以て貴しとなす」という中華文化の核心である道教理念について講演した。 誠青道長の言葉にあるように、歴史上、道家の「和を以て貴しとなす」という思想は中華文化と中国人の品格に極めて深い影響を与えてきた。道教の源の近くに住むためか、成都人は仁愛・善良、積極・楽観の心態を持っており、成都という都市にもあらゆるものを受け入れる包容性があるため、ここを訪れる誰もが都市や人に距離感を感じることがない。
青城山の道家の修練からは青城派武術も生み出された。この文化はすでに36代にわたって伝わっている。当主の劉綏浜さんによれば、青城派武術は豊かな道家の哲理を包含しており、身体を鍛えるだけでなく、心態をより穏やかにすることができるという。青城派太極拳の健康法を普及させるため、劉さんは師匠の同意を得て、一子相伝式に伝えられてきた青城派太極拳の型の一部を外部に広く伝えた。日本のNHKテレビも世界遺産に関するドキュメンタリー番組を制作した際、都江堰を訪れ劉さんを取材したが、その取材内容の重点は彼の武術・学問の造詣ではなく、彼が汶川地震(四川地震)の後いかに地元の一般の人々に太極拳を教えたかに置かれていた。「その時、私は家や土地を失った人々が仮設住宅で鬱々と暮らしているのを見て、弟子たちを連れて彼らの元を訪れ、太極拳を教えたり彼らと語り合ったりして、彼らの不安な気持ちを和らげたのです」と劉さんは話している。 『カンフー・パンダ3』では、青城山の美しい自然風景がパンダ村に反映されているだけでなく、青城太極拳の一部の型が、ポーが敵を倒す決め技などに取り入れられているという。もし成都に行ったことがある、成都で暮らしたことがある人なら、この作品でポーが父親と一緒に故郷に帰る場面で見られる、パンダ村の悠々自適な、楽しくむつまじい、なごやかな雰囲気が、まさに成都人の生活のように幸福感に満ちているのを感じることができるはずだ。
|
||||||||
人民中国インターネット版 |
![]() |