革新が支える四川料理の人気

 

麻(ピリ辛の「ピリ」)の口当たりが特徴の江団魚(ナマズの一種)料理「老麻江団」

 24の味、56の調理法

四川料理と言えば、多くの人がまず「麻辣」の味を思い浮かべるかもしれない。日本の旅行経験交流サイトには、よくこういった質問が見られる。「初めて成都に行くのですが、本場の四川料理を味わうにはどこがいいですか? 本当に辛いですか?」。これに対する答えはさまざまで、大きな料理店を推薦するものもあれば「蒼蠅餐庁」(小さいが味のいい店を指す四川方言)を推薦するものもある。当然、善意から「料理によっては本当に辛いものもあるので、食べ終わったら水を多く飲むこと、さもないとお腹を壊すから……」と注意を喚起するものもある。

麻辣が絶対多数の人々の心の中ですでに四川料理の代表的な味となっていても、実際には四川料理の本当の特色はそれに限ったわけではない。成都で有名な老舗四川料理店・成都映象グループの寛窄巷子エリア・エグゼクティブシェフの付海勇さん(39)によれば、「四川料理の特徴は『一菜一格、百菜百味』(料理ごとに特色があり、どの料理も異なった味)で、麻辣だけというわけではありません。ただ四川料理は比較的『麻』と『辣』の使い方に長けているというだけなのです」とのことだ。

四川料理の「百菜百味」という特徴はその組み合わされた味付けを示している。四川料理には24種類の味の「型」があると言われる。例えば麻辣(ピリ辛)、鹹鮮(美味な塩味)、酸甜(甘酸っぱい)、鹹酸(酸っぱく塩辛い)などだ。また、56種類の調理方法がある。例えば炒(炒める)、滑炒(水溶き片栗粉につけて低温で揚げてから炒める)、熘(炒めてあんかけにする)、燉(とろ火で煮込む)などだ。最も日常的な料理の中でさえも、これらの洗練された味わいと複雑な技法が反映されるところがある。しかし、今日に至っても3分の2以上の四川料理にはトウガラシが使われていない。まさにこれだからこそ、どんな味が好みの食事客も、四川料理店でみな自分の好みのものを見つけることができるのだ。

 
 地元スナックの「冷串串」を改良したピリ辛の「藤椒鶏片」

 

四川料理が持つこのような親和力は、成都ひいては四川が古くから持つ「海納百川」の包容性と不可分だ。歴史上、成都には全国および世界からの人々が集い、同時に各地から美食の調理技術や食文化をもたらした。このため、四川料理の中には淮揚料理(江蘇料理)、広東料理、山東料理などの影響のほか、外国の美食の影響さえある。成都の経験豊かな美食家は「成都人の性格はとても開放的で、新しくできたものをたやすく受け入れるだけでなく、完全に理解することに長け、最後には自分のものにしてしまいます。四川料理はこの性格を最もよく体現しています」と話している。

 

 他のコックたちに新しい料理の作り方を教える付海勇さん

 

普及の陰にたゆまぬ革新

1958年、四川省出身の料理人・陳建民さんは東京に「四川飯店」という名の料理店をオープンさせた。当時でも東京の街角に中華料理店はいくらでもあったが、四川料理専門店は非常に少なかった。当時、陳さんの店の近くにはNHKの社屋があったため、著名な芸能人もひいきにしてくれた。口コミが広がり四川飯店はすぐに人気店となり、陳さんは同局の料理番組への出演を依頼されるようになった。

食材入手の難しさを解決し、日本人の好みに合うようにするため、陳さんは一部の四川料理を手直しした。例えば「回鍋肉」に入れるニンニクの芽の代わりに手に入りやすいキャベツを使ったり、「担々麺」に使うスープの味付けをより優しくしたりといった具合だ。こうした陳さんの普及活動の下、四川料理は日本人の生活に溶け込み、知名度は広東料理など他の中国料理を上回るほどになった。

 湖南料理を参考に考えられたエリンギ料理「小炒杏鮑菇」

 

革新は海外だけではない。成都は四川料理の大本営として不断に料理の改良と革新を続け、それによって現代人の飲食習慣や国際化の普及ニーズに応えている。2014年7月、ドイツのメルケル首相は成都訪問期間中に、自ら市場に出向いて食材を調達し、その後料理店の成都映象で「宮保鶏丁」(鶏肉のピーナツ炒め)の作り方を学んだ。料理人は料理の際に、特にトウガラシとサンショウの配合量を減らし、伝統的四川料理の辛さの程度を下げ、メルケル首相に絶賛されたという。

成都映象は、伝統的四川料理の基礎の上に油や塩の使用量を減らし、現代人の健康な飲食に対するニーズに合わせているだけでなく、一部の人気四川スナックに改良を加えて店のラインアップに加えている。例えばスナックの「冷串串」(鶏肉のほか、じゃがいもやレンコンなどさまざまな材料をそれぞれ竹串に刺し特別なたれに浸して食べる)を改良した「藤椒鶏片」だ。これは竹串の使用をやめ、より食べやすく衛生的にするなどの工夫が加えられている。

成都では、成都映象のような、伝統の料理法や味付けを継承する一方で料理方式を絶えず革新する料理店が数多くある。料理人歴21年の付さんによれば、「四川料理の革新は数千年の蓄積の上に築かれ、異なった時代のニーズに基づきコック自らの思想を溶けこませなければなりません。革新された四川料理が未来に伝統となるかどうかは、最後は市場に委ねられるものです」と話している。

 

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