G20は経済問題を優先させよ |
日中経済協会調査部長 高見澤学 今年9月4、5日に中国浙江省杭州市で主要20カ国・地域(以下「G20」)による第11回首脳会議が開催される。そもそもG20の始まりは、1999年の財務相・中央銀行総裁会議であり、世界的な経済の安定と成長を議論するための国際会議であった。それが、リーマン・ショック後の2008年より、世界金融危機の深刻さを受けて毎年首脳会議が開催されるようになった。こうした設立の歴史的経緯を踏まえれば、今回に限らずG20でのテーマは経済を中心に設定することが望ましいと言えるだろう。しかし、昨今の国際情勢の複雑さと深刻さを鑑みれば、先進国、新興国・発展途上国の首脳が集まるせっかくの機会を利用して、政治・外交問題を議題にしようとの思惑を持つ国・地域が出てきてもおかしくはない。これは主要国首脳会議(以下「G7」)においても同様である。とはいえ、今回のG20首脳会議に関して中国政府は、議長国の立場からあくまでもテーマを経済成長に据えようという意思を固めており、実際に開催される直前まで、テーマを巡る議論が白熱しそうな雰囲気である。 現在、世界経済は構造調整やイノベーションなど、新たな突破口を模索しつつも、低迷状態からなかなか抜け出せずにいる。英国のEU離脱が決まったことによる欧州経済の混乱は、米国での保護主義の台頭とともに世界経済への負の影響の広がりが懸念されるところだ。しかし、今後EU内でのドイツの指導力が更に強まることを考えれば、英国のEU離脱は、従来、現代経済理論の主流を成している新古典派経済学によって支配されてきた英国流の世界的な経済システムの流れが、この先ドイツ歴史学派の経済学の考え方に向かう予兆ではないかと捉えることもできる。つまり、すべての事柄において数値化を基本とする経済政策から、哲学的な要素を盛り込んだ経済政策へと転換することにより、規模的拡大が行き詰った世界経済に何らかの形で風穴を開けるのではないかとの期待がそこにあるのだ。こうした世界情勢を迎えている中で開催される今回のG20首脳会議は、政治・外交分野での議論もさることながら、やはり何といっても経済分野での議論が重視されるべきではないだろうか。G20加盟国の国内総生産(GDP)と貿易総額が世界全体の約8割、総人口が約6割をそれぞれ占めることから、世界経済にとってG20首脳会議が経済面で極めて大きな影響力を有する重要な会議の一つであることは明らかなのだ。昨年11月15~16日にトルコのアンタルヤで開催されたG20首脳会議に出席した習近平国家主席は、今年の会議のテーマを「革新・活力・連動・包摂の構築」とし、革新的な成長方式、世界経済・金融ガバナンスの改善、国際貿易・投資の促進、包摂的かつ連動した発展の推進という4分野を重点に、準備作業を進めると表明していた。中国では、この方針に従って準備を進めていることだろう。 G7と異なり、G20は先進国だけの集まりではない。先進国側の利益が優先されがちなG7に対し、G20では先進国に向かって新興国・発展途上国の立場から物申すことができる絶好の機会となっている。経済規模の面からも存在感が大きくなった中国が、G20において経済的に弱い立場にある国々の主張を代弁する役割を担うということは十分理解できる話であり、G20参加国のみならず、世界のすべての国・地域のWin-Win実現を目指すという認識にも共感できるものである。先進国で比較的うまくいっている成長方式の転換の事例やグローバル・ガバナンスへの取り組みは、新興国・発展途上国の経済発展にとって格好のモデルとして学ぶべき対象となり得る。また、情報通信技術の発展により、IoTや人工知能(AI)を活用した新たな社会が創造されつつあるなかで、従来想像し得なかった課題も生じてきている。こうした問題の数々に対して、グローバル化が進展し世界がより身近につながっている今日、先進国、新興国・発展途上国に関係なく対応し、協働して解決していく必要が生じている。G20は、立場の異なる国々の協働の場として格好の機会を提供することができるのだ。 経済的に大きな転換期を迎えている今日、今回のG20首脳会議が杭州で開催され、中国が議長国を務めることになったことはグッド・タイミングであるといえよう。今後、世界の中で経済的存在感を着実に高めていくアジア地域としては、大いに歓迎すべきことであるといえよう。アジア地域内では、確かに政治・外交分野で解決が難しい問題を抱え、当事国のみならず、多くの国・地域を巻き込んだ形で国際的な議論となっていることは事実である。とはいえ、今回のG20首脳会議で優先すべき経済分野の議論をおざなりにすることは、G20本来の趣旨から逸脱することになる。政治・外交問題は、国際連合の安全保障理事会のような制裁を前提とした一定の強制力の行使をも合意できる場所でなければ、決議に対する効果は期待できない。正直なところ、G20の場で議論するには荷が重すぎる。G20では、経済問題に的を絞り、世界経済に対する共通認識と有効な解決方法に対する合意を目指すべきであろう。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2016年8月28日
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